大佐の結婚生活シリーズ

           素晴らしきかな人生は

 

  

 

           6月  ・・・じめじめするんだけど

  

 

        「はぁああああああ。」
        降り注ぐ雨を見上げながら、ロイ・マスタング准将夫人、
        エドワードは、深い溜息をつく。それを聞き咎め、
        弟のアルフォンスは、手にしていた本を、パタンと閉じると、
        エドに声を掛ける。
        「どうしたのさ。兄さん。溜息なんて、らしくないよ?」
        「んー?そうかー?」
        気のない返事を返すエドに、アルはソファーから立ち上がると、
        エドの横に立って空を見上げる。
        「どうしたのさ。空なんか見上げて。」
        「雨だなぁーって。」
        ふうと、また溜息をつくエドに、アルは不快そうに眉を寄せる。
        「なに?どっか身体の調子でも悪いの?」
        「んー?そういう訳じゃねーけど・・・・・・。大丈夫かなぁ・・・・・。
        消え入りそうな声だったが、アルフォンスには、バッチリと聞こえた。
        「何が大丈夫なの?」
        本当は、分かっているのだが、敢えて尋ねるアルに、エドは
        照れ隠しの為。ぶっきら棒に言葉を繋げる。
        「それは・・・その・・・何だ・・・・。あれだよ。」
        「あれって?」
        アルの突っ込みに、エドは視線を彷徨わせながら、シドロモドロに
        答える。
        「それはだな・・・・・。雨が降ると、ジメジメして、洗濯物が
        乾かないし・・・・・・・・。」
        「洗濯物が乾かないのと、大丈夫かなぁ発言って、どう
        繋がるの?」
        首を傾げるアルに、エドはウッと一瞬言葉を詰まらせるが、
        直ぐに言い訳を言う。
        「き・・・決まってるだろ?洗濯物が乾かないと、替えの服とか、
        シーツとか・・とにかく予備の心配をしているんだよ。
        分かったか?弟よ!」
        ガハハハハとわざと大声で笑う兄に、アルは溜息をつく。
        「あっ、そう。そういうことにしておいてあげるよ。」
        ”全く。兄さんも素直じゃないんだから〜。雨の日無能準将が
        心配だって、顔にデカデカと書いてあるのに。”
        「な・・・なんだよ。その態度・・・・・。」
        投げやりなアルの態度に、エドは不満気だ。
        「本当だぞ!俺は予備の心配をしているんであって、
        決してロイの心配をしている訳では・・・・・!!」
        勢いで本音を漏らした事に気付いたエドは、慌てて両手で
        口を押さえる。
        「やっぱり・・・・・。」
        はぁああああと、わざとらしく大きな溜息をつくアルに、
        エドは瞬間湯沸かし器のごとく、真っ赤になって俯く。
        カラン。カラン。カラン。カラン。カラン。カラン。
        気まずい雰囲気を打ち破るかのように、玄関に備え付けてある
        呼び鈴が、けたたましく鳴る。
        「なっ!!」
        その喧しい音に、一瞬怒りを覚えるエドだったが、続いて
        ドアを蹴破らんばかりのノックの音に、もしかしたら、ロイの身に
        何かあったのではと、血相を変えて、玄関へと飛び出していく。
        「ロイに何かあった・・・・。」
        「おお!!
   マイスィートエンジェル、
   エドワード!!!!


        扉を開けた瞬間、エドは何者かにきつく抱き締められ、
        一瞬固まる。
        「兄さん!避けて!!くらえ!!」
        エドが固まっていることをいいことに、不審者は、さらにきつく
        エドを抱き締めていると、突然エドの背後から叫び声と同時に、
        分厚い本が飛んできて、不審者の頭に見事ヒットする。
        「うっ。」
        あまりの痛さに、不審者がエドの身体を離したと同時に、
        パンと両手が合わさる音がして不審者が立っている地面から、
        突起物が練成され、モロに不審者に当たる。
        「うわぁあああああああ。」
        突起物に跳ね飛ばされるように、門の外へと落下する不審者を、
        呆気にとられて眺めているエドに、アルは駆け寄る。
        「大丈夫?兄さん。」
        「・・・・・・なぁ、アル・・・・・・。」
        ピクピクと痙攣している不審者から眼を反らさすに、エドは
        アルにポツリと話しかける。
        「今の・・・もしかして・・・・と・・・・。」
        「兄さん、幻だよ。
        エドの言葉を遮るように、アルは黒い笑みを浮かべながら、
        きっぱりと言い切る。
        「さぁ、いつまでもここにいると、風邪引くよ。
        そろそろ家の中に入ろうか。」
        アルはチラリと泥まみれで蹲っている不審者を冷たい表情で一瞥すると、
        エドには、エド専用の蕩ける笑みを浮かべながら、中に入るように
        促した。
        「でも・・・・・・。」
        まだ何か言いたそうなエドに、アルはにっこりと微笑む。
        「そろそろ準将が帰ってくる時間じゃない?」
        「えっ!もうそんな時間か!!」
        アルの言葉に、エドは慌ててキッチンへと駆け出していく。
        パタパタと走り去るエドの後姿を見送っていたアルは、
        その姿が見えなくなると、クルリと不審者を一瞥すると、
        何事も起きなかったような顔で、扉を閉めるのだった。






        「これは、何だ?」
        それから時間が経つこと、30分後、ロイ・マスタング準将は、
        自宅の玄関の前で、蹲る物体を眺めていた。
        とりあえず、家の中に入ろうと扉を開けた所、車の音で気付いた
        エドが、奥から走ってきた。
        「お帰り〜♪ロイ!!」
        トテトテと駆け寄ってくる最愛のエドを、抱き止めながら、ロイは
        その柔らかな唇を堪能する。
        「只今。エディ。」
        ニッコリ微笑んで、再び唇を重ね合わせると、
        先ほどから、気になっている事をエドに訊ねる。
        「ところで、先ほどから気になっているのだが・・・・。」
        「何?ロイ?」
        きょとんと首を傾げるエドの可愛さに、ロイはその華奢な身体を
        抱き締めながら、耳元で囁く。
        「その、玄関の隅に蹲っている物体は?」
        「へ?あぁ、アレ?」
        途端、エドの顔が歪む。
        「あれは・・・・・・。」
        「あれは?」
        エドは、プイと横を向くと、ポツリと呟いた。
        「知らない。」
        「ひどいじゃないかぁあああああ〜!!
    私のエドワード!!!!!」

        「うぎゃああああああ!!」
         エドの呟きに、黒い塊は、電光石火の速さで起き上がると、
         ロイを押しのけて、エドを力いっぱい抱きしめる。
         いきなりの出来事に、一瞬呆けていたロイだったが、
         見知らぬ男が、最愛のエドワードを抱き締めている状況に
         気付き、素早く発火布の手袋を装着する。
         「下がっていたまえ。エディ。
         今夜の火力は
   かなりすごいぞ。

         ゴゴゴゴ・・・・と背後に焔を背負いながら、右手を不審者に向ける。
         「はい、そこまで!」
         その言葉と同時に、エドを抱き締めている不審者の頭に、鍋の蓋が
         クリーンヒットする。
         「ウゲッ!」
         悪夢再び。またしても、不審者が崩れるように倒れ込む。
         「エディ!無事か!!!
         ロイは、間髪入れずに、エドの身体を抱き寄せると、きつく抱き締める。
         「あ・・あぁ・・・・。大丈夫・・・・・・。」
         まだ少し青い顔色のエドに、ロイは不審者への怒りを再炎させると、
         まだ発火布をしている右手を、倒れている不審者に向ける。
         「あー、それ、一応ボク達の父親なんで、殺るなら、
         わかんない様にして下さいねー。」
         今にも焔を練成しようとしているロイに、アルはのほほんと
         声をかける。
         「・・・・・・父親・・・・?ホーエンハイム・エルリック・・・・?」
         その言葉に、ロイの動きが止まる。
         「エディ・・・・?」
         本当なのかと、エドを伺うと、エドは不機嫌な顔で、渋々頷く。
         「・・・・・今更・・・・・・。」
         プイと横を向くエドに、ロイは軽く頬にキスをすると、エドから
         離れ、倒れている父親に、手を差し伸べる。
         「大丈夫ですか?義父上・・・・・・。」
         その言葉に、倒れている男は、ピクリと反応する。
         「・・・・・・ち〜ち〜う〜え〜だ〜とぉおおおおおお。
         ゴゴゴゴ・・・・・と、背中に真っ赤な焔を背負いながら、
         ホーエンハイムはユラリと立ち上がった。
         「ロイ!!」
         慌てて二人の間に割って入ろうとするエドを抱き寄せると、
         ロイは背中にエドを隠し、ホーエンハイムと対峙する。
         「貴様に、私のエドワードはやれん!!!」
         「・・・・・・義父上に無断で籍を入れた事は、申し訳なく
         思っております。しかし私は、誰よりもエドワードを愛しています。
         どうか、私達を認めて下さい。」
         頭を下げるロイに、エドは必死になって止める。
         「なっ!!ロイ!こんな奴に頭なんて下げる必要なんてない!!
         こいつは!!」
         パーーーーン
         皆まで言わせず、ロイはエドの頬を打つ。
         思ってもみなかったロイの行動に、叩かれたエドは勿論の事、
         すっかり傍観者に納まっていたアルですら、唖然としてロイを
         見つめる。
         ロイは、優しく微笑むと、そっと紅くなったエドの頬に手を添える。
         「すまなかった。エディ。痛かったか?」
         「ロ・・・・イ・・・・・?」
         ロイはそっとエドの頬に軽く口付けると、その華奢な身体を抱き締める。
         「エディ。理由はどうあれ、父親に対して”コイツ”呼ばわりは
         いけないよ?」
         「でも・・・・・。」
         尚も何か言おうとするエドの唇を、ロイは人差し指でそっと押さえる。
         「君のこの可愛い口から、人を罵る言葉は聞きたくないよ。
         それに、義父上がいるから、君が産まれ、こうして私達は
         出会えたのだよ。・・・・・私はとても感謝している・・・・・。」
         「・・・・ロイ〜♪大好き!!」
         蕩けるような笑みを浮かべているロイに、エドは嬉しくなって
         ギュッとロイに抱きつく。
         「私も愛しているよ。エディ・・・・・・・。」
         人目も憚らず、相変わらずラブラブオーラを撒き散らす二人に、
         全く免疫のない父親は、隣にいるもう一人の息子に、コソコソと
         小声で話しかける。
         「おい。まさかと思うが、この二人はいつもこんなふうなのか?」
         「いいえ。違いますよ。」
         アルフォンスはニッコリと微笑んだ。
         「そ・・・そうか・・・・・。」
         ほっとする父親に、さらに追い討ちをかける。
         「いつもは、もっと激しいです。
         いつもより大人しいのは、雨だからかなぁ。なんせ、無能准将だから。
         さり気にひどい事を言っているアルに、父親は、信じられない物を
         見るかのような眼を向ける。
         「お前、変わったな。エドワードを取られて悔しくないのか?」
         以前のアルフォンスなら、エドを狙う輩には、それ相当の制裁を
         加えていたはずである。ちなみに、その一番の被害者は、父親である
         自分であったのは、記憶に新しい。
         「ボクは、兄さんさえ幸せならいいんです。それに・・・・・・。」
         うっとりとした顔で、アルはエドを見つめる。
         「結婚してから、兄さん、特に可愛くなって、ボクとしては
         ラッキーです。」
         「・・・・・・・ところで、何でエドワードは、私を怒っているんだ?」
         てっきり、久々に逢えて、感動の再開になると思っていただけに、
         エドの態度に、かなり傷ついていた。
         「ああ、それのこと?だって、兄さんの中では、父さんは母さんとボク達を
         捨てて、家を出て行った、超極悪人になっているから。」
         サラリと告げられた衝撃の事実に、ホーエンハイムは、ショックのあまり
         意識を失いかける。
         「な・・・なんだとおおお!!!誤解だぁあああああ!!」
         ムンクの叫びを生実演する父親に、アルはニッコリと頷いた。
         「勿論、母さんとボクはちゃんと知っていますよ。
         父さんは、家を出て行ったんじゃなくって、
         ただ単に、極度の方向音痴だって事を。」
         「アルフォンス〜。」
         何故正してくれなかったんだと、滂沱の涙を流しながら、
         息子に縋りつく父親に対して、息子は留めを刺す。
         「ボク、敵に塩を送るようなお人よしじゃないし〜。」
         兄を独り占めするために、父親に無実の罪を着せたアルは、
         フフフと笑う。その背中には、黒い羽がバサバサ動いており、
         お尻には、先が尖っている悪魔の尻尾がウネウネと蠢いて
         いるように、ホーエンハイムにだけは見えた。
         「悔しかったら、その方向音痴を直したほうがいいですよ。」
         「おのれ〜。アルフォンス〜。」
         エドが母親似であるならば、アルは完全に父親似であった。
         ただ似ているだけではない。一卵性双生児と見紛うくらいに、
         何から何までそっくりだった。好みまで一緒なのだから、
         すごく気が合うのかと思うのだが、好みの対象物が、
         世界で一つしかなく、おまけに、欲しいものは絶対に
         手に入れなければ、気がすまない性格も同じのため、
         昔から、この二人はエドを挟んで争いが絶えなかった。
         「あのさ・・・・・。」
         一触即発の緊迫した空気が辺りを包む。だが、恐る恐る
         掛けられる声に、今まさに戦おうとしていた二人の意識は、
         完全に声の主に向けられる。
         「兄さん、危ないから下がっててね。」
         「あぁ、エドワード、誤解なんだよ。」
         ホーエンハイムは、アルフォンスを押しのけて、
         エドに縋りつく。
         「私は、家族を愛しているよ。ただ、家にいなかったのは、
         方向音痴のせいで、帰れなかっただけで、決して
         家族を捨てたわけではないんだ!信じてくれ!!
         エドワード〜。」
         大の大人が、みっともなく息子にしがみ付いて泣いている
         様子は、ある意味微笑ましいのかもしれないが、
         エドワード限定で極少の心の広さしかない二人の前で
         行うべきではなかった。
         アルフォンスが再び父親の頭を手刀で叩き、すかさずロイが
         エドワードを奪還するという、素晴らしいコンビプレイで、
         またしても、ホーエンハイムは地面に沈み込む。
         「エディ。積もる話もあるだろう。家の中に入ろう。」
         ロイはそのままエドを連れて家の中へと入っていく。
         「それじゃあ、父さん、行くよ。」
         エドを取られて面白くないアルは、八つ当たりとばかりに、
         倒れている父親の首根っこを掴むと、そのままずるずると
         家の中へと入って行った。





         「で、ただの方向音痴だって?」
         リビングに場所を移し、ホーエンハイムの右隣にはアルフォンスが、
         テーブルを挟んで、エドはロイの身体にベッタリと張り付くように
         腰を降ろした。
         「そうなんだよ。エドワード!!」
         まだ信じられないとばかりに、ジトーっと自分を睨み付けるエドに、
         ホーエンハイムは、必死になって頷く。
         「・・・・・母さんがどんなに、父さんに会いたがっていたか、
         分かるのか!それが、ただの方向音痴でしたなんて、
         俺は納得できない!!」
         ポロポロと涙を流すエドを、そっとロイは肩を抱き寄せる。
         「本当なんだ!!そうだろ!アルフォンス!!」
         何とかエドを説得しようと、形振り構っていられないホーエンハイムは、
         アルフォンスに助けを求める。しかし、アルの言葉は冷たかった。
         「う・・・ん。確かに、ちょっとは方向音痴かもしれないけどぉ〜。
         でも、何年も連絡がないっていうのもねぇ。」
         「だから、それは!やっと家にたどり着いたら、家が全焼していて、
         おまけにお前達の消息が不明で!!」
         「・・・・・・ピナコばっちゃんに聞けば良かったじゃん。」
         冷静なツッコミのエドに、ホーエンハイムは、フルフルと首を横に振った。
         「そう。ピナコさんの家に行こうとして、道に迷ったんだ。」
         がっくりと肩を落とす父親の姿に、流石のエドとアルも絶句する。
         ”マジ?あんなに近くの家に行くにも、迷うのか?”
         二人は、信じられない思いで、お互いの顔を見合わせる。
         俺達、この方向音痴を受け継がなくって良かったな。
         しみじみと頷く二人に、ホーエンハイムはエグエグと泣きながら、
         今までの事を語って聞かせる。
         「行く先々でお前達の噂が入って、何とか逢えないだろうかと
         そのまま旅に出ていたら・・・・・・。」
         ホーエンハイムは、キッと顔を上げると、仁王立ちになって、
         ロイを指差す。
         「私のエドワードが、こんな男に騙されて、け・・・結婚したと
         聞いて、慌てて来たんだ!!」
         当初の目的を思い出したのか、ホーエンハイムは、すっかり
         ロイに対して攻撃モードに入る。
         「こんな男っていうのは、なんだー!!」
         途端、エドも怒り出して、ホーエンハイムに食って掛かる。
         「いくら父さんでも、ロイの悪口は許さない!!」
         「エドワード、お前はこの男に騙されているんだ!!」
         ホーエンハイムの言葉に、カチンと来たエドは、無言のまま
         両手を合わせようとしたが、その前に、ロイの手がエドの手を
         握り締める。
         「エディ。花嫁の父なんて、みんな同じだよ。愛する息子を
         取られて、少し感情的になっているんだ。」
         「・・・・・ロイ・・・・。」
         見つめ合う二人に、ホーエンハイムの怒りが爆発する。
         「許さん!絶対に私は許さんぞ!!だいたい、この男は、
         私と対して年が変わらん、オヤジじゃないか!!
         6歳下の男に、義父と呼ばれたくはない!!」
         踏ん反り返って言い切る父親に、アルは内心舌打ちする。
         ”あ〜あ、駄目じゃん父さん。準将の地雷を思いっきり踏んじゃったよ。
         もう、ボクは知〜らない。”
         巻き添えは嫌だからと、アルはさり気なく部屋の隅に移動する。
         「・・・・・・確かに、私はエドワードと14歳離れています。」
         ブチ切れたロイが、ホーエンハイムに向かって焔を練成すると
         思っていたのだが、予想に反して、ロイは穏やかな目を
         ホーエンハイムに向ける。
         「ですが、私には自信があります。エドワードを愛する気持ちは、
         誰にも負けないと。彼を幸せに出来るのは、私だけだと。」
         ロイは、ソファーから立ち上がると、深くホーエンハイムに
         頭を下げる。
         「絶対にエドワードを幸せにします。どうか、エドワードを私に
         下さい。」
         真摯なロイの姿に、ホーエンハイムは黙り込む。
         「父さん。俺とロイの事を認めてくれ。頼む。」
         エドにまで頭を下げられ、ホーエンハイムは、ガックリと肩を落とす。
         「・・・・本当に幸せに出来るんだな。」
         ポツリと呟かれる言葉に、ロイは顔を上げると、自信に満ちた顔で
         頷く。
         「はい。勿論です。」
         「・・・・・・エドワードを頼む。」
         悲痛なまでの表情で、ホーエンハイムは、何とかそれだけを
         口にする。
         「父さん!!」
         その言葉に、パッと表情を明るくすると、エドは嬉しさのあまり、
         ホーエンハイムに抱きつく。
         「ありがとう。ありがとう。父さん。」
         「幸せになるんだよ。エドワード。」
         泣きながらコクコク頷くエドを、ホーエンハイムは優しく抱き締める。
         ほんわかムードの二人に、ロイはにこやかに微笑みながら、
         さりげなくエドをホーエンハイムから引き離すと、そう言えばと、
         言い出す。
         「そう言えば、義父上も、国家錬金術師でしたね。確か、銘は
         ”光”。」
         「へー。そうだったんだー。」
         初めて知る父の姿に、エドは驚く。
         「あぁ、そうだが?それが何か?」
         怪訝そうなホーエンハイムに、ロイはわざとらしく溜息をつく。
         その様子に、アルはピンとくる。
         ”うわぁ。準将、何か企んでるな。”
         「実は、査定のことなのですが。」
         「査定?」
         何で査定の話になるのかと、怪訝そうなホーエンハイムに、
         ロイは事務的に伝える。
         「はい。年に一回の国家錬金術師に課せられた査定です。
         しかし、ここ数年行方不明の為、査定を受けていませんね。」
         ロイの言葉に、ウッとホーエンハイムは言葉を詰まらせる。
         「本来ならば、資格を取り上げられるべきところなのですが、
         義父上の素晴らしい錬金術師の才能を惜しいと大総統の
         お言葉もありますし、エドワードの父親という事も含めて、
         保留という形になっています。」
         「・・・・そうか。査定、すっかり忘れていたな・・・・・。」
         自嘲する父親に、アルはエドを重ね合わせていた。
         ”親子そろって査定を忘れるなんて・・・・。”
         「とりあえず、大総統府へ赴き、生存の報告だけでも
         早急にした方がいいかと思いますが。」
         「そうか!急がないとな!」
         「そうだよ!父さん、急いで行かないと!!」
         膳は急げとばかりに、ホーエンハイムとエドはバタバタと
         準備を始める。
         「じゃあ、行って来る!!」
         「いってらっしゃい!気をつけて!!」
         慌てて家を飛び出す父親の背中を、エドは手を振りながら
         見送る。
         「・・・・・・これで、邪魔者は消えたな。」
         そんな二人の様子を、満足そうに見つめながら、ロイは
         ボソリと呟く。
         ”やっぱ、あのオヤジ発言が、効いているのか・・・・。”
         ロイの呟きに、アルは溜息をつく。
         超方向音痴の父親。一度外へ出ると、帰ってこれなく
         なるという特性をうまく突いた、ロイの作戦勝ちである。
         「さぁ、エディ。夕飯にしようか。」
         義父上は、軍に泊まるからというロイの言葉を
         素直に信じたエドは、ロイの腕に自分の腕を絡ませながら、
         家の中へ戻っていく。
         「それじゃあ、父さん。今度いつ会えるか分からないけど、
         元気で。」
         豆粒ほどに小さくなっていく父親の背を見つめながら、
         アルは手をヒラヒラさせる。そして、何事もなかったかのように、
         軽い足取りで家の中へと入っていった。




         今日もマスタング邸は平和である。






                                   FIN

 

 

 


                  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

    いきなり!次回予告!!

       「もしもし、エディか?」
       「ロイ?どうしたんだよ。」
       何か忘れ物か?と尋ねるエドに、ロイはさらに声を潜める。
       「いいかい。アルフォンス君にも、誰にも知られずに、駅まで
       来てくれないか?なるべく早く。」
       「どうしたんだよ!一体何が・・・・。」
       困惑するエドに、ロイは切羽詰った声を出す。
       「エディ!私を愛しているなら、急いでくれ!!」
       「わ・・・分かった。直ぐに行く!!」
       ロイの只事ではない雰囲気に、エドは慌てて電話を切ると、
       家を飛び出す。
       「どうしたんだよ。ロイ〜。」
       半分泣きそうになりながら、エドは駅までの道程を全力疾走
       で駆け抜ける。
       一体、ロイの身に何が起こったのか!!
       次回、『大佐の結婚生活シリーズ 7月 ・・・ふとある事に気づく』を、
       お送りします。乞うご期待!!




                      なお、予告もなく内容が変更する場合があります。
                      ご了承下さい。

 

                   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇