大佐の結婚生活シリーズ

           素晴らしきかな人生は

 

 

           5月  ・・・戦ってたら怪我しちゃいました

  

 

 

           マスタング家の朝は比較的早い。コトコトとキッチンで愛情込めた
           料理の腕を振るっているのは、先月結婚したばかりの、新妻、エドワード。
           「う〜ん。こんな感じかな?おーい。ちょっと味見してくれよ。」
           ちょっと首を傾げて、お玉をアーンとばかりに差し出す相手は、
           夫のロイ・マスタング・・・・ではなく、最愛の弟のアルフォンスだった。
           「うん!すごく美味しいよ♪また料理の腕を上げたんじゃない?」
           アルフォンスの絶賛に、エドは頬を紅く染めて、そっかなぁ〜と、
           照れている。
           「へへっ。じゃあ、これも味見を・・・・・。」
           再びアルに味見をさせようと、サンドイッチを手にしたところ、
           ガシッと腕を取られ、驚いて顔を上げると、そこには、にこやかに
           微笑むロイの姿があった。
           「おはよう。エディ。・・・・・ついでに、アルフォンス君。」
           「お・・・はよう。ロイ。今日は早いんだ・・・な・・・・。」
           眼だけが笑っていないロイに、エドは背筋が凍る。一体、
           何だってこんなに機嫌が悪いんだよぉ〜と、内心困惑する
           エドを見て、アルはエドを庇うように、ロイに挨拶をする。
           「おはようございます。マスタング准将。今日は随分お早いんですね。
           非番ではなかったのですか?」
           非番なんだから、もっとゆっくり寝てろよとは、アルフォンスの言い分。
           折角兄とのラブラブを邪魔されご立腹である。
           対するロイも、かなりご立腹であった。目が醒めたら、隣りにエドの
           姿はなく、慌てて飛び起きてキッチンに来てみれば、まるで
           新婚ラブラブバカップルのように、弟とイチャついている光景に、
           ロイの機嫌が急降下する。
           「あぁ、勿論。今日は非番だよ。」
           ロイは、アルに見せつけるようにエドの腕を握ったまま、
           エドが持っているサンドイッチを口に入れる。
           途端、ロイとアルの間に火花が散る。
           「美味しいよ。エディ。」
           蕩けるような笑みのロイに、エドの顔がパッと明るくなる。
           「本当か!さぁ、ロイも起きて来た事だし、朝ご飯にしようぜ♪」
           ロイの腕の中から抜け出すと、エドはテーブルの上に
           出来上がったばかりの朝食を、嬉々として並べ始める。
           「そうそう。さっき、アルと話してたんだけど。」
           席につくロイに、コーヒーを渡しながら、エドはニコニコしながら、
           話し掛ける。
           「なんだい?」
           エドからコーヒーを受け取りながら、話の続きを促す。
           「朝食を食べ終わったら、俺とアルで、買い物に行くから、
           留守番、頼むな♪」
           「な・・・なんだって!?」
           慌ててロイは椅子から立ち上がると、エドの身体を引き寄せる。
           「エディ。折角の休日なのだよ?」
           「だーかーらーだろ?折角の休日なんだ。ロイはちゃんと
           家で休んでてよ。」
           不服そうなロイに、エドは苦笑する。
           「私は、今日は一日中、エドと共にいるつもりなのだが・・・・。」
           諦めきれないロイは、エドの買い物に付き合うと言い出す。
           それに驚いて、エドはロイの説得を試みる。
           「だって、今日特売日なんだもん。荷物多いし。」
           「私は軍人だよ?多少の力仕事は大丈夫だ。」
           「・・・・・でも、もうお年、じゃなかった、疲れが残っているんじゃ
           ないんですか?」
           ロイとエドのラブラブ振りに、痺れを切らせたアルが、横から
           口を挟む。言外に、年寄りには荷物持ちはキツイからと、
           言われた気がして、ロイは流石にムッとする。
           「疲れなど・・・・・。」
           「でも、2週間振りの休日じゃん。」
           ロイの言葉を遮って、エドはしゅんと項垂れている。
           「エディ?」
           エドの様子がおかしい事に気付いたロイは、エドの顔を
           覗き込む。
           「もしも・・・・・ロイが・・・倒れたら・・・・・・。」
           半分涙目になりながら、心配そうにロイを見るエドに、
           アルの存在を忘れて、そのまま寝室へ直行したくなる
           ロイであったが、弟の存在が彼の暴走に歯止めをかける。
           「さぁ、兄さん。早く仕度しないと、良い物が売れちゃうよ。」
           さささっと食べようよと、アルはエドを促す。
           「・・・・アルフォンス君。食べ終わったら、ちょっといいかね?」
           急いで朝食を食べているアルにロイが声を掛ける。
           「良くないです。」
           スッパリ。バッサリ。アルはロイを切って捨てる。
           「なぁに。手間は取らせんよ。」
           だが、ロイも負けてはいない。アルに負けないくらい
           素早く朝食を食べ終わると、食後のコーヒーを
           飲みながら、不敵に笑う。
           「いつもの勝負といこうじゃないか。」
           「・・・・・お断りします。ボク、これから
           兄さんと、二人だけで出かけるんですから。」
           勝ち誇った笑みを浮かべるアルに、ロイの手の中のマグカップに
           亀裂が走る。
           「・・・・・・なるほど。私に負ける姿を、エディに見られたくないと
           いう訳だね。」
           ロイの兆発に、エドなら100%乗っかってしまうのだが、相手は
           アルフォンス。余裕の笑みを浮かべながら、全く兆発には乗らない。
           このまま、アルの勝利かとも思われたが、意外なところに伏兵が
           存在した。
           「なぁ、なぁ、何の話?」
           自分を無視している二人に、エドはちょっと機嫌を損ねたように、
           頬を膨らませる。
           「別に、何でもな・・・・。」
           「実はだね。アルフォンス君と組み手をする約束があってね。
           出かける前に、軽く手合わせをしようかと言ったのだよ。」
           アルの言葉を遮り、ロイはエドの話し掛ける。
           「ふーん?そうなんだ・・・。それじゃあ、俺、片付けとか、
           洗濯を干したりしているから、その間、組み手でもしててよ。」
           そう言うと、エドはお皿を流しの方へ持って行く。
           「図りましたね。准将。」
           キッとロイを睨み付けるアルに、ロイはニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
           「さて、始めようか。いつものように、勝った方が、エディと一緒に
           買い物に行けるというのは、どうかね?」
           「望むところです・・・・・。」
           両者の間で、激しい火花が散る。
           「ちょっと待った〜!!」
           一触即発の雰囲気に、エドが、トテトテと慌てて戻ってくる。
           「アル!暢気に組み手をしている場合じゃねぇ!!」
           エドは、財布を片手にアルの腕をガシッと掴む。
           「兄さん!?」
           必死の形相の兄に、アルは首を傾げる。
           「今日は5日。月に一度の【マ・ツーリ】の半額デーだ!!」
           「あっ!!」
           エドの言葉に、アルは声を上げる。1人、会話についていけない
           ロイは、エドに訊ねる。
           「【マ・ツーリ】?半額デー?」
           「そうだ!こうしちゃいられん!ロイ、留守番頼む!行くぞ!アル!!」
           そのままズルズルとアルを引き摺るように外へ出ようとするエドを、
           ロイはエドの身体を引き寄せるようにして引き止める。
           「離せ!ロイ!!」
           暴れるエドを苦もなく抱き締めると、その耳元で囁く。
           「少しの間だけ、待っていてくれ。直ぐに決着はつく。」
           ロイは、軽くエドの頬にキスをすると、アルフォンスに向き直る。
           「では、さっさと始めようか。」
           不敵な笑みを浮かべるロイに、アルも負けじと睨み付ける。
           「・・・・おい?どうしたんだよ・・・・?」
           呆気に取られたエドをその場に残し、ロイとアルは、庭へと
           足を踏み出した。








           「いつかは、こんな日が来ると思っていたよ・・・・。」
           ゆっくりと発火布の手袋を嵌めつつ、ロイは呟いた。
           「手加減なんて、できませんからね。」
           対するアルは、不敵に笑いつつも、用心深く間合いを取る。
           「おい!どうしたっていうんだよ!やめろよ!二人とも!!」
           風が吹きすさぶ中、対峙するロイとアルに、エドの制止の声が
           木霊するが、男達の熱き戦いに、それは何の意味を持たない。
           「では、こっちから、行きますよ!!」
           アルは、先手必勝とばかりに、大地を蹴るとロイに飛びかかった。
           「フッ。無駄だ。下がりたまえ!」
           ロイは、右手をアルに向けると、パチンと指を鳴らす。
           「くっ!!」
           間一髪、焔から逃れる事に成功したが、爆風をモロに受け、
           アルの身体は吹っ飛ばされる。
           「もう!好い加減にしろ!!
           エルリックカノン! 」
           だんだんと庭が壊されていくのを見て、エドの堪忍袋の緒が
           プツリと切れる。エドは両手をパンと合わせて地面に手を置くと、
           大砲を練成し、戦っているロイとアルに照準を合わせる。
           「二人の馬鹿ーっ!!!」 
           ドッカーンという音と共に、ロイとアルの二人が、華麗に空を舞う。
           「いいか!俺は【マ・ツーリ】に行って来るから、その間、二人で
           庭を直して置けよ!!」
           屍と化して、所々ボコボコと穴が空いている庭に倒れている二人に、
           ビシッと指をつき付けると、エドはクルリと背を向けて、タタタと駆け出す。
           「アルフォンス君のせいだ・・・・。」
           「・・・・准将のせいですよ・・・・・。」
           エドに置いて行かれた二人は、暫くの間、低次元な喧嘩を繰り返して
           いたのだった。







           「只今〜。」
           流石に、庭を直さないと、エドに口を聞いてもらえない事に、
           気付いた二人は、得意の錬金術で、庭を直していく。
           全てを直し終えたと同時に、タイミング良く、エドはご機嫌で
           帰ってきた。
           「お帰り。エディ。」
           嬉々としてロイはエドを抱き締めると、深く口付ける。
           「お帰りなさい!兄さん!疲れたでしょ?今、お茶を
           煎れるね〜♪」
           だが、アルも負けてはいない。ロイからエドを剥がすと、
           エドの荷物を持って、そのままエドをキッチンへと導く。
           「へへっ。今日の戦利品は凄いぜ!!」
           嬉々として買ってきたものを、テーブルに並べて行くエドの
           後ろから、ロイが覗き込む。
           「パン?」
           まさに出来たてホヤホヤのパンの山に、ロイは首を傾げる。
           「そっ。ここのパンって、超有名でさぁ、 いっつも、開店
           3時間には、全部完売しちゃうほど、人気なんだ。
           そんで、今日、5日は、月に1回の半額デーでさ、
           すんごい、戦場なんだよ。」
           あー、疲れた。と椅子に腰を降ろすエドに、アルは
           紅茶を差し出しながら、申し訳なさそうに言う。
           「ごめんねー。兄さん。
           本当なら、ボクも一緒に行くはずだったのに。」
           「気にすんなって。今日はラッキーな事に、ハボック中尉と
           会ってさー。」
           その言葉に、ロイとアルがピクリと反応する。
           「・・・・・ハボックだと・・・・?」
           「・・・・・ハボック中尉・・・・・?」
           一気に部屋が氷点下になった事に気付かず、エドは
           ニコニコと頷く。
           「あぁ、中尉がガードしてくれたおかげで、スムーズに
           買い物が出来て・・・・・って、二人ともどうしたんだ?」
           険しい顔で部屋を出て行こうとする二人に、エドは
           首を傾げる。
           「すまないね。エディ。ちょっと急用を思い出したのでね。
           出かけてくるよ。なに、直ぐに戻るから。」
           「ボクも、ちょっと出かけてくるね。勿論、ソッコー帰って
           くるから!!」
           黒いオーラを撒き散らしながら、二人は部屋を後にする。
           「なんだよ。二人して。」
           まるで、二人に仲間外れにされたような気がして、
           少々エドは面白くない。ムーッと頬を膨らませていると、
           柱時計が12時の時を告げる。
           「あっ、早く仕度しなくっちゃ。ホークアイ大尉との待ち合わせに
           間に合わない!!」
           パン屋を出たところ、偶然ホークアイ大尉に会い、
           午後から一緒に買い物へ行く事になっているのである。
           エドは、パタパタと仕度をすると、テーブルの上に
           置手紙を残して、慌てて部屋を後にした。







          一方その頃のロイとアルというと、セントラルの
          街を、一路ハボックの家まで、全速力で疾走していた。
          「・・・・准将。部下の躾がなっていないですよ。」
          チクチクしたアルの嫌味に、ロイは苦笑する。
          「すまないね。今、躾し直すから。」
          フフフと黒いオーラを纏った二人に、ハボックが
          有無を言わせず襲撃を受けるのは、15分後である。
          そして、その頃には、ホークアイはエドとデートを
          堪能していたのだった。





          「そう言えば、最近、ハボック中尉の姿が見えないようですが・・・・。」
          ホークアイの言葉に、ロイのニヤリと笑う。
          「何でも、戦ってたら怪我をしたそうだ。」
          「はぁ?」




          ・・・・・・ハボック1週間再起不能。お大事に。





                                            FIN







                  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

    いきなり!次回予告!!

        「お帰り〜♪ロイ!!」
        トテトテと駆け寄ってくる最愛のエドを、抱き止めながら、ロイは
        その柔らかな唇を堪能する。
        「只今。エディ。」
        ニッコリ微笑んで、再び唇を重ね合わせると、
        先ほどから、気になっている事をエドに訊ねる。
        「ところで、先ほどから気になっているのだが・・・・。」
        「何?ロイ?」
        きょとんと首を傾げるエドの可愛さに、ロイはその華奢な身体を
        抱き締めながら、耳元で囁く。
        「その、玄関の隅に蹲っている物体は?」
        「へ?あぁ、アレ?」
        途端、エドの顔が歪む。
        「あれは・・・・・・。」
        一体、その物体は何なのか!衝撃の事実が明らかに!!
        次回、『大佐の結婚生活シリーズ 6月 ・・・・じめじめするんだけど。』を、
        お送りします。乞うご期待!!




                      なお、予告もなく内容が変更する場合があります。
                      ご了承下さい。

 

                   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇