Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
             序章  ロイ編
  



それは、運命だったのかもしれない・・・・。
何かに呼ばれたような気がして、本来ならば絶対に
入っていかない、細い路地へと足を踏み入れた。
降りしきる雨の中、入り組んだ路地の奥にあった
小さな空き地。雨音に消されがちな小さな声は、
確かに私の耳にはっきりと届いた。
「何の声だ・・・?」
一瞬赤ん坊の泣き声に聞こえ、緊張した面持ちで
ゆっくりと声のする方へと足を向けると、雨でほとんど
原型を留めていないほど崩れたダンボール箱の中に、
衰弱しきった猫を見た瞬間、私は顔を顰めた。
まだ生後そんなに経っていないだろう、薄汚れた猫は、
ガタガタと震えていた。
どうしようかと、一瞬私は迷った。連れて帰っても、
この様子では1日持たない。そう判断して立ち去ろうとした時、
それまでぐったりと眼を閉じていた子猫の目が開いた。
その黄金の瞳が真っ直ぐ私を射抜いた瞬間、私は思わず
子猫を抱き上げると、コートの中に抱き込み、来た道を
急いで引き返した。
そして、大通りに出ると、近くにあった動物病院へと駆け
込んだ。
「すみません!!猫が死にそうなんだ!!」
受付の女性は、驚いたような顔で私の顔を凝視していた。
それはそうだろう。いい年をした軍人が、衰弱しきった子猫を
抱いて慌しく入ってきたのだから。
だが、事態を素早く察知したのか、直ぐに診察を受けられて、
私はホッと安堵した。診断の結果は栄養失調。おまけに
長時間雨に濡れた為、体力が著しく消耗しており、
あと少し遅かったら肺炎を起こして、死んでいただろうという
医者の言葉に、背筋が凍る想いをした。
あと少し遅かったら、この小さい命がなくなっていた・・・・。
軍人なのだから、死というものに今更ながら動揺しないと
思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
私は震える手でスヤスヤと眠っている子猫の頭を
優しく撫でた。そんな私の様子に、医者は尋ねた。
「ところで、その猫をどうしますか?」
意味が分からず眉を顰める私に、医者は事務的に
言葉を繋げた。
「この猫、捨て猫なんですよね。直るまでこちらで
預かって、里親を探しましょうか?」
どうやら、私が軍人であるのを見て、看病が出来ないと
判断されたのか、そんな事を言い出す医者に、
少し気分を害しながらも、表面上はにこやかに対応した。
「ご心配には及びません。これも何かの縁ですから、
私がずっと面倒を見ますよ。」
そう言って、私は子猫を愛しそうに見つめた。
温かいお湯で身体を洗うと、黄金の毛並みをした、
素晴らしく美しい子猫で、その上、黄金の瞳を持つ子猫に、
私はほんの一週間前に知り合ったばかりの少女を
重ね合わせていたのかもしれない。どうしてもこのまま
手放す事が出来なかった。医者は私の言葉に安心したのか、
初めて猫を飼う私に、猫の飼い方やしつけなど必要な事を
親切に事細かに教えてくれた。漸く猫の様子も安定して
病院を出た頃は、既に夜10時になっており、雨も止んで
綺麗な月が出ていた。
「君は今日から私の家の子になるんだよ。」
そっとタオルに包まれた子猫の寝顔を見る。安心しきった猫に、
さてどんな名前にしようかと考えるが、すぐに頭の中には
彼女の名前が浮かんできた。
「エドワード・・・ではあからさますぎるな・・・。エドでどうだい?」
眠っている子猫に尋ねてみるが、すっかりと寝入っている
子猫は反応しない。当たり前だ。だが、エドと呼んだ瞬間、
子猫が幸せそうな寝顔を私に向けた気がして、やはり子猫の
名前をエドにすることに決めた。
「今日からよろしく。エド・・・・。」
月明かりの中、私はこの小さなエドを抱きしめながら、
幸せな気持ちで家路についたのであった。






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一体、何事!?いきなりロイさん乙女爆発!!【爆笑】
今回は、ロイと猫のエドとの出会い編ロイバージョンです。
この後、猫のエドバージョンとエドワードと犬のタイサとの
出会い編エドワードバージョンと犬のタイサバージョンを
書いてから、漸く第1話を書き始めます。
ほのぼのラブストーリーですので、
暫くの間、お付き合いしてください。
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