Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 
         第4話 お茶会は天誅の後で



「エ・・・エドワードさん!?」
東方司令部では、守衛が、服を血だらけにしたエドワードを
一目見るなり、パニックを起こしていた。何故ここに【黄金の姫君】という
異名を持つ、イーストシティで超有名人のエドワード・エルリックが、
服を血だらけにして立っているのだろうか。何か事件に巻き込まれたのかと、
顔を青くしていると、エドがポロポロと泣きながら、詰め寄った。
「マスタング大佐は?マスタング大佐に会わせてください!大変なんです!!」
「え?マスタング大佐ですか?でも・・・今は・・・。」
先程、ロイが血相を変えて外に飛び出していった事を伝えようとすると、
丁度門の外へ出ようとしたハボックが、エドに気づき慌ててやってきた。
「エド?どうした?」
「ジャン兄!!」
良く知る人物に、エドは泣きながら、ハボックに抱きつく。
「おい!どうしたんだよ!その血はっ!!」
血だらけのエドに、ハボックは最悪の事を想像して、青くなった。
「マスタング大佐・・・・・・。」
「大佐!?エド、大佐に襲われたのかっ!!」
ロイの名前に、ハボックの怒りが爆発する。全く、未成年相手に何をしている
んだっ!!あの人はっ!!と吐き捨てるように言うハボックに、
エドは慌てて首を横に振る。
「違うの!マスタング大佐のニャンコが・・・・・。」
「ニャンコ?・・・・・エド・・・いや、少佐のことか?」
ハボックの言葉に、エドはキョトンと首を傾げる。
「少佐?マスタング大佐のニャンコだけど。?」
「大佐の猫には、少佐の地位を与えられているんだよ。」
ハボックの言葉に、エドは、あっと声を上げる。
「この間、父さんが電話で言っていた、東方司令部で少佐の地位を貰った
猫って、マスタング大佐のニャンコの事だったのか・・・・。」
「そう。大総統が、いたく気に入ってさ・・・・。で。少佐がどうしたって?」
「うん、実は・・・・・。」
エドが口を開こうとした時、ジャキンと音がして、次の瞬間、ハボックの脇腹に、
固いものが押し付けられる。
「ホークアイ中尉!?」
驚くハボックに、鋭い視線を送ると、ホークアイはエドワードを庇うように2人の
間に立つと、銃をハボックに向ける。
「ハボック少尉。か弱い女の子に!!」
「だーっ!!誤解です!!オイ!エド、お前も何とか言え!!」
ポカンと口を開けているエドに、ハボックは涙ながらに懇願する。
「エド?あなた、もしかして・・・エドワードちゃん?」
ホークアイの言葉に、エドは唖然としながら、コクリと頷く。
「あの時の・・・・。」
ホークアイはふと表情を和らげると、優しく尋ねた。
「今日はどうしたの?服に血がついているけど・・・・誰かに何かされたの?」
「違うんです!!マスタング大佐のニャンコが重症を負って・・・・それで、
急いで知らせに来たんです!!」
当初の目的を思い出したのか、エドは、やや興奮気味にホークアイに
訴えた。
「そのことなら大丈夫よ。今頃大佐は動物病院にいるから。」
「そうなの・・・?良かった・・・・・。」
ホッと嬉しそうなエドの様子に、ホークアイはニッコリと微笑んだ。
「折角だから、お茶でも一緒に飲まない?もう直ぐ大佐も戻ってくる
頃だと思うわ。」
「え・・・。でも・・・・。」
途端、真っ赤な顔になるエドに、ハボックは内心可愛いなぁと思いつつ、
一緒にお茶を飲むように薦める。
「いいじゃないか。少しくらい。」
「でも・・・犬の散歩の途中だし・・・。」
チラリとエドは自分の足元で、ハボックを威嚇するように、鋭い視線を向けている
タイサを見る。
「タイサ・・・。いい加減、俺を敵視するのは止めてくれ・・・・・。」
ガックリと肩を落とすハボックの言葉に、ホークアイは訝しげに言う。
「大佐?」
その言葉に、エドは真っ赤になって俯き、ハボックは、しまったと言う顔をした。
「え・・・その・・・犬の名前で別に大した意味は・・・・。」
フォローのつもりのハボックだが、全然フォローになっていなかった。だが、
ホークアイは賢明にもそれ以上の追求は止めて、エドに話しかける。
「私も、犬を飼っていて、時々ここに連れてくるの。だから、心配しなくても
大丈夫よ。」
にっこりと微笑むホークアイに、エドはコクンと頷いた。
その様子に、ハボックは、ホークアイの追求を逃れる事が出来て、
ホッと胸を撫で下ろす。しかし、エドが帰った後、ホークアイの執拗な追及が
待っていることには、気づかなかった。




「まぁ、それじゃあ、エド・・・じゃなかった、少佐を助けてくれたのは、
エドワードちゃんだったのね。」
ロイ個人の執務室に、エドワードを通すと、ホークアイはエドの前に
ケーキと紅茶を置く。そして、テーブルを挟んだエドの真正面に
腰を降ろす。ちなみに、ハボックは、ホークアイの隣に座っていた。
「俺がしたのは、応急手当だけ。本当にニャンコを助けたのは、
うちの犬なんだ。」
そう言って、エドは自分の足元で伏せをしているタイサを見る。
「俺、この子の散歩に出て街中を歩いていたんだけど、急にタイ・・・
いや、この子が走り出したから、慌てて後を追ったんだ。そしたら、
路地裏で、この子の傍らで、ニャンコが瀕死の倒れていたんだ。
俺びっくりしちゃって、何とか応急手当をして、知り合いの動物病院に
連れて行ったんだ。
一時危篤状態までいったんだけど、何とか持ち直して・・・・・・。
マルコー先生に、ニャンコがマスタング大佐の猫だって聞いたから、
容態が落ち着いたし、俺、一刻も早く知らせようって・・・・・。」
話しているうちに、その時の事を思い出したのか、エドは
肩を震わせる。無理もない。実際現場にいなかった、ホークアイと
ハボックも、猫エドが瀕死の状態だと聞いて、犯人に対する怒りが
新たに沸き起こったのだから。
「俺!あんな小さな生き物を殺そうとする奴、絶対に許さない!!
ジャン兄!何とか犯人見つからないかなぁ・・・・・。」
ウルウルと瞳を潤ませるエドに、ハボックは真実を告げるべきか
迷った。去年、エドはこの東方司令部に入り浸った為、東方司令部
全体のアイドルとなっていたので、ここの軍人達ととても仲が良かった。
いくら明日から配属になるとはいえ、東方司令部勤務の軍人が
猫に瀕死の傷を負わせたと聞けば、その優しい心は傷つけられるに
違いない。どうしようかと悩んでいると、ホークアイがあっさりと
真実を口にする。
「犯人達は既に逮捕してあるわ。」
「えっ!!」
驚くエドに、ホークアイは怒りに満ちた顔できっぱりと言った。
「犯人は、軍人なの。」
その言葉に、エドは顔色を失う。
「なっ!そんな馬鹿な・・・・。だって、ここの人達は全員いい人で・・・。」
「正確に言うと、明日ここの勤務になる者達だったの。今日は、たまたま
挨拶に来ていて、少佐が狙われてしまったのよ。直ぐに犯人達は
逮捕したのだけど、少佐が逃げ出してしまって・・・・みんなで総出で
探していたの。もしかしたらって、動物病院に行ったら、少佐が一命を取り留めたと
判って、本当にホッとしたわ。」
ホークアイは、エドを穏やかな眼で見つめると、頭を下げた。
「本当にありがとう。あなた達には、感謝してもしきれないわ。本当に
ありがとう。」
そんなホークアイに、エドは慌てて手を振る。
「そんな・・・俺、当然の事をしただけだよ。」
「でも、お礼がしたいわ。何がいいかしら。」
考え込むホークアイに、エドはオズオズと言ったように、尋ねる。
「ねぇ、何でもいい?」
「もちろんよ!何がいい?」
大きく頷く頷くホークアイに、エドは思いつめた顔で言った。
「犯人に会いたい。」
「エド?」
訝しげな顔のハボックに、エドは真剣な表情で言った。
「俺、言いたいんだ。ニャンコだって、生きているんだって。
だから、切り付けられれば、すごく痛いんだって。死ぬのは嫌だって、
言いたいんだ!!」
「エドワードちゃん・・・・。」
驚くホークアイに、エドはきっぱりと言った。
「そして、そいつら全員、ゲンコでボコる!!」
グッと拳を握るエドに、ハボックは青くなった。エドの格闘技センスは、
去年の東方司令部壊滅事件で立証済みだ。今回の相手はイズミでは
ないが、それに近い悲惨な状況になること思い、慌てて何とか
思い留めようと口を開こうとするが、それよりも先にホークアイが席を立つ。
「案内するわ。実は私も彼らに天誅を食らわせてやりたかったの。
一緒にやりましょうね。」
フフフとホークアイは黒い笑みを浮かべる。対するエドは、オーッ!!と
右腕を上げて気合十分だ。こうなっては、2人の暴走を止める事はできない。
ハボックは、どうかあまり建物に被害が出ませんようにと、心の中で強く願った。




猫エドを助けてくれたお礼にと、ロイは駄目にしてしまったエドのカーディガンの
代わりに買った服と、ハボックから聞き出したエドの大好物のケーキを持って、
エルリック家へと行ったのだが、あいにくエドワードは不在で、ロイは、がっかり
しながら、東方司令部に戻ると、そこで衝撃の事実が待っていた。
ロイが不在中、エドが来ており、猫エドを襲った犯人達に天誅を加え、その後
己の副官と部下達と共に、エドワードがお茶を飲んで、ついさっき自宅に
帰ったということを聞き、ロイはかなりへこんだ。しかも、何故かホークアイと
エドワードが意気投合してしまい、今度のホークアイの休みの日に、2人で
買い物に行くのだと、嬉々としてロイに言うホークアイに、ロイは一瞬殺意が
芽生えるが、ホークアイにそんな事が出来るわけもなく、大切な猫エドを
傷つけられた恨みとエドをホークアイに取られた怒りを、犯人達にぶつける
のだった。
ちなみに、この犯人達は、翌日、エド少佐暗殺未遂事件の容疑者として、
軍法会議所へ送られ、それ相当の刑罰が与えられるのは、また別の話で
ある。



********************
エドとホークアイの出会いというか再会です。
このまま、リザエド子になってしまうのかっ!
頑張れ!大佐。負けるな!大佐!!
暖かい励ましの言葉をお待ちしております。