Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
第5話 始まりはいつも雨
雨が降る・・・・。
人間に捨てられ、ロイに拾われたのも雨。
そして、俺は雨の日にあいつに出会った・・・・。
知らない軍人に猫エドが連れて行かれた先は、
司令部の裏庭だった。普段、周囲の人間に甘やかされて
育った猫エドは、警戒心という物が著しく欠如していたのも、
事実だ。だから、自分を殴った男を、茫然と凝視してしまったのは、
当然の結果と言えよう。だが、猫を殴りつけた男は、猫エドが
ショックのあまり茫然となっている状態を、自分を責めている
ように見えてしまった。
「何見てんだ。生意気な!!」
最初は、ニ・三発殴るだけにしようと思ったのだが、あまりにも
猫が自分を凝視するので、気味が悪くなり、腰に下げていた、
サバイバルナイフを取り出すと、猫エド目掛けて、振り下ろした。
「にゃあ!!」
もともと運動神経の良い猫エドは、危険を察知すると、ヒラリと
身を翻して、男の凶刃から身を守った。
「なっ!!くっそぉおおお!!」
ヒラリと地面に落ちて、もう自分を襲わないかと、男を振り返る
姿が、男には、猫が挑発しているように見えてしまった。
狂ったように男は猫エド目掛けて、ナイフを振りかざす。
最初は男の攻撃を余裕すら伺える身のこなしで避けていた
猫エドだったが、なにぶん、標準よりも小さい身体である。
すぐに体力が尽きてしまい、身体に数箇所、ナイフが掠ってしまった。
幸い、傷は浅いのだが、血が勢い良く流れた事に、ショックを
受けた猫エドが、思わず立ち止まってしまったのを、男が
見逃すはずもなく、エドの赤い首輪を掴むと、ゆっくりと猫エドの
腹部にナイフを深々と突き立てた。
「ギャアアアアアアアアアア!!」
あまりの痛さに、猫エドは、ショック状態に陥る。
逃げなければ・・・・。
そう本能が告げるのだが、身体が思うように動かない。
「これで、終わりだ!!」
狂気に満ちた男の眼を見た瞬間、猫エドは観念して目を閉じた。
(最後に、ロイに会いたかった・・・・・。)
悲しくて。
悲しくて。
猫エドは、ギュッと目を閉じた。
だが、次の瞬間、銃声が聞こえ、男の手から猫エドの身体は、
地面に落とされた。
「な・・・なに・・・・?」
何が起こったのだろう。
痛みで霞む眼をゆっくり開けて見ると、銃を片手に、ホークアイが
こっちに走ってくるのが見えた。
「助かった・・・・・。」
ほっと安堵の息を洩らすが、近づいてくるホークアイの青い軍服が、
先程の男と同じだと気づいた瞬間、猫エドは最後の力を振り絞るように
立ち上がると、駆け出した。
「エド君!!」
背後に、切羽詰ったホークアイの声が聞こえるが、恐怖心で一杯の
猫エドは脇目も降らず走る。
どうして?
ホークアイさんは、やさしいのに。
どうして、俺は逃げるの?
自分でも訳が判らないが、青い軍服を見ただけで、猫エドは
パニック状態に陥ってしまった。
青いの嫌!
青いの怖い!!
青いの嫌い!!!
逃げなきゃ・・・。
逃げなきゃ・・・・。
猫エドは涙でぐちゃぐちゃの顔で、一心不乱に逃げ出した。
いつの間にか雨が降り出してしまった。
だが、猫エドは、朦朧とする意識で、家に帰ろうと、痛む身体を
引き摺るように歩いていた。
「ロイ・・・・。」
もう既に、自分がどこにいるのかも判っていない状態で、それでも、
猫エドは家に帰ろうと、必死に足を動かす。
家に帰れば、ロイがいる。
あの青いのも襲ってこない。
だが、雨によって急速に冷やされた身体は、猫エドから体温を奪う。
男に切りつけられた複数の傷は、猫エドから生きる希望を奪う。
俺、死ぬのかなぁ・・・・・。
ぼんやりと猫エドは思った。
もう一歩も動けない。
猫エドは崩れるようにその場に倒れこんだ。
「おい。」
ふと傷に当たる、暖かい感触に、猫エドの意識が覚醒する。
「・・・・誰?」
傷を癒すように、優しく舐められた感触に、猫エドはそれが誰だか
知りたくなった。だが、猫エドが望んでいた言葉ではない、違う
言葉を投げられ、猫エドは困惑する。
「お前・・・死ぬのか・・・?」
その声に、猫エドはボンヤリと目を開ける。
「死にたいのか?」
何を言っているのだろう。そう思い、猫エドは
痛む身体を何とか鞭打って、ゆっくりと起き上がる。
「・・・死にたくねぇ・・・・。」
「では、生きろ。」
その言葉に顔を上げた猫エドの黄金の眼は、目の前の黒い瞳が、
言葉とは違う優しい労わるような眼であることに、安心して、意識を
手放した。
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犬タイサと猫エドの出会い編です。
犬のタイサは、ロイと違って、雨の日でも有能のようです。【笑】
ロイより犬タイサの方が何倍も大人のような気がするのは、
きっと気のせいでしょう。多分。
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