Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 第6話 不幸からの脱出大作戦!! 猫エドが傷つけられてから、ロイ・マスタングは 不幸に見舞われる事が多くなった。それは、 いままでのハボック不幸伝説を軽く抜くくらいに 不幸のどん底にいた。 「はぁあああ。」 ロイは、仕事の手を休めると、深い溜息をついた。 「大佐。手が止まっておりますが。」 途端、ホークアイのチェックが入り、慌ててロイは ペンを持ち直した。 その様子に、満足そうに頷くと、持っていた書類の 束を、ロイの机にドサリと置く。 「何かね、これは。」 「見てわかりませんか?本日処理の追加分です。」 途端、嫌そうな顔をするロイに、ホークアイは無表情に 言った。 「・・・・・中尉、これを今日中に処理しろと?」 「はい。当然です。」 そう言って、自分の席に戻ろうとしたホークアイに、 ハボックが声をかける。 「中尉。この書類なんですが・・・。あれ?新しい ピアスですか?よく似合ってますよ。」 書類をホークアイに見せようと近づいた時、いつもと 違うホークアイのピアスに気づたハボックに、珍しく ホークアイは微笑んだ。 「あら?わかったかしら。これは、エドワードちゃんと お揃いなのよ。」 途端、上機嫌になるホークアイとは対称的に、ロイの 機嫌は最高に悪くなる。 そう。ロイを襲う不幸の一つが、いつの間にか、自分 ではなく、ホークアイとエドワードの親密度が異常な までに高くなっていることであった。今では、【リザ姉】 【エドワードちゃん】と呼び合う仲になっており、 ホークアイの休みの日には、2人仲良く出掛けるほどだ。 勿論、その間、ロイはホークアイの陰謀で執務室に 監禁状態である。暇を見つけて街に出てみても、エドは、 いつものカフェには、いないし、ロイをガッカリさせた。 本人に直接会って、猫エドを助けてくれたお礼が言いたいと いう理由を隠れ蓑に、何度かエドの家に足を運んだが、 何故かいつも弟が出て、姉はいないと門前払いになる。 これが不幸と言わずに、何を不幸というんだ!というのは、 ロイの心の叫び。八つ当たりとばかりに、どんどん書類に、 ロイは乱暴にサインを書き殴る。 「へぇ〜。そういやあ、今朝エドに会ったんッスけど、 『今度リザ姉の家へブラハに会いに行くんだ!』って、 喜んでましたよ。」 「私も、エドワードちゃんの飼い犬に会えるから、今から 楽しみだわ。そう言えば、その犬は、まだハボック少尉を 敵視しているのかしら?」 「へっ?何だってそれを?」 驚くハボックに、ホークアイはクスクス笑う。 「エドワードちゃんが言っていたわ。『うちの犬は、 人見知りが激しいんだよ。特に、ジャン兄なんて、下手すると 追いかけられるんだ!』ってね。」 ホークアイの言葉に、ロイはチラリと嫉妬の眼差しで、 ハボックを見る。 (そういえば、コイツも彼女に【ジャン兄】って言われて るんだったな・・・・。) 「あの犬にも、困ったもんです。エドに近づく男を攻撃して いるんですよ。」 溜息をつくハボックに、ホークアイは、うんうん頷く。 「まっ、その犬の気持ちは判るわ。なんたって、 エドワードちゃんは、かわいいんですもの! 変な虫はどこにでもいるから、ワンちゃんも大変ね。 私も見習って、悪い虫から彼女を守らなければ・・・・・。」 チラリとホークアイは鋭い視線をロイに向ける。 「・・・・何故そこで私を見る。」 不機嫌そうなロイに、ホークアイはにっこりと微笑んだ。 「他意はありませんが、そろそろ書類が終わっている 頃合かと思いまして、見ただけです。」 バチッとロイとホークアイの間で激しい火花が出る。 「・・・・・これで終わった。ところで、少し出てきても いいかね。エドの様子を見に行きたいのだが・・・・・。」 最後の書類にサインを終えて、ロイは椅子から 立ち上がる。 「ええ。構いません。早くエド君に顔を見せて あげてください。」 ホークアイの言葉に、ロイは弱々しく微笑んだ。 「ああ・・・。だいぶ回復してきているのだが・・・・。」 「今朝、私もエド君のお見舞いに行きました。以前に 比べて、大分体重が落ちていますね。抱っこしたら、 以前の半分くらいになっていて、すごく驚きました。」 心底、心配しているホークアイの言葉に、ロイは 驚いた顔で振り返った。 「中尉、今の話は・・・・・。」 「私がエド君のお見舞いをするのは、変ですか?」 眉を顰めるホークアイに、ロイは首を振った。 「いや、そうではなく・・・・。エドは、君には大人しく 抱かれるのかい?」 「?そうですが・・・何か?」 心なし、蒼ざめた表情のロイに、ホークアイは 首を傾げる。 「いや・・・何でもない。」 茫然とした表情で首を振るロイに、ホークアイが 更に問い詰めようとした時、横にいたハボックが 口を開いた。 「エドの話だと、猫エドは、順調に回復してきて いるそうですね。」 「何故、彼女がエドの病状を知っているのだね?」 訝しげに尋ねるロイに、ハボックも首を傾げる。 「大佐、毎日猫エドの見舞いに行っているのに、 知らないんすか?エドも毎日猫エドの見舞いに 行っているんですよ?」 「なんだと!!」 初めて知る事実に、ロイはハボックに詰め寄る。 「いつも何時頃だっ!!」 ハボックの首を絞める勢いのロイの後頭部を、 ホークアイは思いっきり殴る。 「大佐!ハボック少尉を絞め殺す気ですかっ!!」 「しかしだね!」 言い争いを始めるロイとホークアイの間に挟まれる 形になったハボックは、恐る恐る口を出す。 「日によって違うみたいですよ〜。」 「そ・・・そうか・・・・。」 目に見えて、ガックリと肩を落とすロイが可哀想になり、 ハボックは助け舟を出す。 「あー・・・良かったら、今度彼女にさり気なく時間を 聞いておきますから。」 「本当だな!!ハボック!!」 目を輝かせるロイとは逆に、ホークアイは鋭い視線を ハボックに向ける。 「では、私はエドに会いに行ってくるとしよう。」 上機嫌で去っていくロイの後姿に、ホークアイは 溜息をついた。 「まぁ、今日は既に私とお見舞いに行っているから、 2人が会うことは、ないわね。」 「エド・・・・。具合はどうだい?」 極力驚かせないように、ロイがケージを覗き込むと、 猫エドは、嬉しそうに擦り寄ってくる。 「おいで・・・エド。」 その様子に、今日こそはと、ロイは猫エドを 抱きしめようと手を伸ばすが、次の瞬間、猫エドは、 怯えたように、ケージの角に逃げ出すと、ガタガタと 震え始める。 「今日も駄目か・・・・・。」 ロイは深い溜息をついた。顔を見ると、寄ってくる 猫エドだったが、何故か抱き上げようと手を伸ばすと、 嫌がるのだ。つい一週間前、無理矢理抱こうとして、 猫エドがパニック状態になり、傷口が開くという騒動を 起こしたばかりだった。 「マルコー先生も、看護婦も、ホークアイ中尉には、 平気なんだろ?何故私が抱こうとすると、君は 嫌がるのかね?私が嫌いなったのかい?」 もともと猫エドが怪我をした遠因が自分にある事を 自覚している為、自分に近寄らない猫エドの態度に、 どんどんマイナス思考に陥ってしまう。 「にゃあ〜。」 心配そうな顔で自分を見ている猫エドに気づいたロイは、 ふと表情を和らげる。 「大丈夫だ。君は怪我を治すことに専念するんだよ? じゃあ、また来るから。」 ロイが名残惜しげに立ち上がろうとした時、背後から 遠慮がちな声が聞こえた。 「マスタング・・・・・大佐・・・?」 「君は・・・・・・。」 ずっと聞きたいと思っていた声に、反射的に振り返った ロイは、そこに恋焦がれている人間が立っていて、 茫然と魅入っていた。 ********************** 漸く、ロイとエド子の再会です。 意地悪するのも可哀想だし、そろそろ逢わせないと、 ロイが大暴走もとい、話が先に進まないので。 (でも、ロイさんは既にストーカーと化していますが、 大丈夫なんでしょうか。このカップル・・・。) |