Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 第7話 重なり合う明日(みらい)へ 「君は・・・・・・。」 目の前に立っているエドワードの姿に、信じられない思いで、ロイは 茫然と呟く。 一瞬時間が止まったかと錯覚しそうになった時、みるみるうちにエドワードの 表情が変わる。 「あーっ!!ニャンコ!!」 いきなり叫び出したエドに、ロイは反射的にまだ扉が開いたままのケージに 視線を移すと、なんと猫エドがケージから落ちそうになっていた。 「エド!!」 慌ててエドが手を伸ばすよりも、エドが猫エドを抱き止める方が早かった。 「もう!あぶないだろ!!」 ホッと安堵の溜息をつきながら、エドは労りを込めた眼差しで、猫エドを優しく 撫でる。大人しく、エドの成すがままに、うっとりと眼を細める猫エドの 様子を、ロイは複雑な思いで見つめた。 「あっ!ごめんなさい。」 ハッと我に返ったエドは、慌ててロイに頭を下げる。 「いや。ありがとう。君にはいつも助けてもらってばかりだ。」 「別に、大したことは・・・・・。あっ!ニャンコちゃん。」 頬を紅く染めたエドは、未だに猫エドを抱きしめている状態に気づき、 慌ててロイに猫エドを返そうとするが、猫エドはそれを嫌がり、エドの服に 爪を立てて、必死にしがみ付いた。 「・・・・・私は、どうやらその子に嫌われたみたいなんだ・・・・。」 悲しそうな瞳をするロイを見て、ふとエドはある事に気づく。 「マスタング大佐!服脱いで!!」 「は!?」 いきなり好きな相手から、服を脱ぐように言われ、ロイは頭の中が 真っ白になる。自分が問題発言をしたと気づいていないエドは、 固まったままのロイに、イライラしながら更に言葉を続ける。 「いいから!早くコートと上着を脱ぐ!!」 逆らう事は許さないとばかりの強い口調のエドに、圧倒されたように ロイはコクコクと頷きながら、素早く黒いコートと上着を脱いだ。 その様子に満足そうにエドはニッコリと頷くと、猫エドに優しく言った。 「さぁ、もう怖くないよ。ニャンコちゃん。」 そう言って、エドは猫エドをロイに手渡す。また暴れ出すのではと、 焦ったロイだったが、猫エドが嬉しそうに身体を摺り寄せてくる事に 気づいて、信じられない思いで、エドを見た。 「信じられない・・・・。一体何故・・・・・・。」 戸惑うロイの様子に、エドはクスクス笑う。 「原因は、その軍服なんだ。」 「軍服?」 ロイは訝しげに尋ねる。 「うん。どうやら、ニャンコちゃん、傷つけられたショックで、軍服・・・ 青色の服が、トラウマになってしまったようなんだ・・・・・。」 切なそうにエドは猫エドを見つめる。 「そうだったのか・・・・。」 ロイはそっと腕の中で大人しく収まっている猫エドを優しく撫でる。 (あいつ・・・絶対に許さん!!) ロイは、さらに犯人達に対する怒りが込み上げてきた。 猫エドの身体を傷つけただけでなく、その心まで傷をつけるとは、 絶対に許さん!!消し炭にするだけでは飽き足らない。 どんな罰を与えようかと、ロイは復讐計画を頭の中で練る。 「気づかなくて、すまなかったね。」 久々の猫エドの体温に、ロイは傷に障らないように、優しく抱きしめる。 こんなに小さい身体で、ずっと恐怖と戦っていたのかと思うと、 ロイの心は悲しみで張り裂けそうになる。 愛しそうに猫エドを抱きしめるロイに、エドは嬉しそうな顔をすると、 それじゃあと、立ち上がる。 「ま・・待ちたまえ!!」 帰ろうとするエドに気づき、ロイは慌てて声をかける。 千載一遇のチャンスを逃すほど、ロイは馬鹿ではない。 「何か?」 キョトンとなるエドに、ロイは逃がしてなるものかという気迫十分に 早口で言った。 「この子の命の恩人である君に、お礼がしたいのだが・・・・・。」 その言葉に、エドは慌てて首を横に振った。 「そんな!お礼だなんて!俺はただ当然の事をしただけで・・・・。 そ・・それに!マスタング大佐には、コート借りたし・・・・それから、 そう!服!服をありがとうございました!!」 お礼が遅くなってごめんなさいと、半分パニック状態に陥っている エドは、慌てて頭を下げる。それに驚いたロイも、直ぐに頭を 下げる。 「いや!私の方こそ、お礼が遅くなってすまない!!君には、 この子の命の救って貰ったばかりでなく、犯人逮捕にも協力を して貰った。本当に、ありがとう。」 米搗きバッタよろしく、2人でペコペコ頭を下げ合う姿は、マルコーが 苦笑しながら止めるまで、続けられた。 「そんなに謝ってばかりいたら、話は先に進みませんよ。どうですかな? カフェでも行って、2人で落ち着いて話をしてみては。」 マルコーは、そう言うと、ロイから猫エドを取り上げ、有無を言わさず 2人を病院から追い出す。 「「先生!!」」 無情にも、目の前で閉められた扉を、情けない顔で見つめていた2人は、 ふと相手が気になり、そっと横目で様子を伺おうとすると、バッチリと 眼が合ってしまい、同時に苦笑する。 「さて、いつまでもここに立っていても仕方ない。エドワード嬢。 私は君と少し話がしたい。お茶でもご一緒に如何ですか?」 ロイはエドに優しく微笑みながら、右手を差し出す。 「・・・・・はい。」 憧れの人からの誘いに、エドは真っ赤になりながら、差し出された手に 自分の手を重ね合わせた。 ・・・・・これが、2人の明日(みらい)が、ぴったりと重なり合った瞬間だった。 ***************************** 漸く、ロイはエドをお茶に誘う事に成功しました〜。 長いよ。ここまで来るのが。 |