Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 第8話 秘め事 「おはよーございます。大佐。」 ハボックは、車から降りると、ロイの家の呼び鈴を 鳴らす。いつもなら、5分は出てこないのだが、この日は 何故か、一回鳴らした途端、ニョキッと扉から首だけ出して きた。珍しい事もあるもんだと、ハボックが慌てて敬礼すると、 ロイは首だけ出したまま、ハボックに、不機嫌そうに命令する。 「おい。エドが怖がるから、上着を脱いでこい。」 「へ?エドがどうしたんッスか?」 何故ここに猫エドが出てくるのか、訳が判らずハボックは首を 傾げていると、ロイの叱咤が飛ぶ。 「いいから早くしろ!!」 「イエッサー!!」 ハボックは慌てて上着を脱ぎながら車に戻ると、無造作に助手席に 上着を窓から放り投げた。 「全く、どうしたっていうんだ?」 ブツブツ言いながら、クルリと振り向くと、珍しく私服姿のロイが、 大事そうに猫エドを抱えながら、片手に2つも紙袋をぶら下げて 歩いてきた。 「エド、退院したんですか?」 ロイの荷物を受け取りながら、ハボックはロイの腕の中に大人しく 収まっている猫エドに笑いかける。 「ああ。昨日漸くな。」 上機嫌なロイに、ハボックは良かったッスねと、笑いながら、後部座席の ドアを開ける。滑るようにロイが車に乗り込むと、ドアを閉め、運転席に 回る。助手席にロイの荷物を置くと、シートベルトをかけ、ルームミラーを 直しながら、発車しようとするが、次のロイの一言で、慌ててブレーキを踏む。 「ハボック!!急停車するな!エドの身に何かあったらどうする!!」 怒るロイを気にする事もなく、慌てて後ろを振り返ると、ロイに食って掛かる。 「大佐!今、なんて言いました!?」 「急停車するな。エドの身に何かあったらどうする。」 憮然とした顔のロイに、ハボックは髪を掻き毟りながら身悶える。 「じゃなくって!!今、エドの家に向かえって言いませんでした?」 「言ったが?」 それがどうしたというロイに、ハボックは血走った眼をロイに向けた。 「大佐・・・・。犯罪に走ってはいけないッス!!」 「犯罪?何を馬鹿な事を言っている!!」 呆れ顔のロイに、ハボックは首を横に振りながら、ギロリとロイを睨む。 「いくらなんでも、ストーカー行為は駄目ッスよ!ここ暫くエドの姿が見れなくて 悲しい気持ちは判らないでもないですが。」 涙ながらに力説するハボックに、ロイは溜息をつく。 「何がストーカーだ。安心しろ。私が行くことは、エディも承知している。」 「は?エディ?一体、いつからそんなに親しくなったんですか?」 つい一週間前までは、どんよりと暗い影を背負って、世界で一番不幸な男だと 落ち込んでいたはずだったが・・・・。訳が分からず困惑するハボックに、ロイは ニヤリと笑う。 「ふっ。それは秘密だ。そんな事より、彼女を待たせるわけにはいかん! 急げ。ハボック。」 「イ・・・イエッサー・・・・。」 首を傾げながら、ハボックは今度こそ車を発進させた。 「エド、向こうに着いたら、良い子でな。」 ロイは、腕の中にいる猫エドの頭を優しく撫でながら、あと少しで逢える 想い人の顔を思い浮かべ、ロイは微笑んだ。 「では、エディ。この子を頼みます。」 猫エドのお出かけセット一式が入っている紙袋と猫エドを渡しながら、 申し訳なさそうな顔をするロイに、エドはニッコリと 微笑みながら、猫エドを受け取った。 「大丈夫!エド君の事は任せて下さい!!」 「ありがとう・・・・・。」 ニコニコ笑うエドに、ロイもニッコリと微笑む。 「いってらっしゃ〜い!」 エドは猫エドの前足を振りながら、玄関先でロイを 見送る。それに対して、ロイもにこやかに手を振り返す。 朝早くから、馬鹿ップルの様子を見させられたハボックは、 ルームミラー越しに、車に乗り込む上官を見つめながら、 ポツリと呟いた。 「なんか、子どもが生まれたばかりの若夫婦のようですよ。」 オアツイですね〜というハボックのからかいに、ロイは 真っ赤な顔で横を向く。 「う・・・うるさい!さっさと車を出せ!」 「イエッサー」 初々しいロイの様子に、ハボックはクククと笑いながら、 車を発進させた。 「姉さん、誰だったの?」 猫エドを腕に抱きながら、エドが家の中に入ると、弟のアルフォンスが、 階段から降りてくるところだった。 「ん?ほら、前に言っただろ?知り合いの猫を預かるって。」 ほら、可愛いだろ?とエドは猫エドをアルに見せる。 「うわぁ〜。すごく可愛い!!うちのアルに似てるね!もしかして、 兄弟だったのかも!!」 可愛い猫エドを一目で気に入ったアルは、エドから猫エドを抱き取ると、 頬擦りをする。 「そう言えば、猫アルは?」 いつもなら、足に纏わり付いて離れないのに、今朝は一度も見ていない 事に気づいて、エドは首を傾げる。 「ん?ああ、いつものヤツだよ。」 「またか・・・・。全く、仲が良いんだか。悪いんだか・・・・。」 溜息をつくエドに、アルの腕の中にいる猫エドがキョトンとした顔で エドを見つめる。 「ん?ああ、お前は気にしなくていいんだよ。うちにもお前と同じ猫と 犬がいるんだけど、あの二匹、暇さえあれば、喧嘩ばかりしているんだよ。」 なんで仲が悪いんだろうと、首を傾げるエドに内心アルは苦笑する。 猫アルも犬のタイサも、エドを独り占めしようと日々バトルを繰り広げている のだが、当の本人に全く気付く様子もない。 「ところで、この子の名前、なんて言うの?」 アルの問いに、エドはニッコリと微笑んだ。 「エド。」 「は?エド?」 アルはまじまじと腕の中の子猫を凝視する。金色の毛並みに黄金のつぶらな瞳。 どことなく、姉を彷彿とさせる愛らしいこの猫の名前が、姉の愛称である、 【エド】と聞いて、アルは嫌な予感を覚える。 (まさか・・・・。あの軍人さんでは・・・・・。) そう言えば、飼っている猫を助けてくれたお礼をエドに言いたいと、何回か家に やってきた軍人がいたことを思い出した。その軍人が、姉に執着しているような 気がしたので、門前払いをしたのは、一回や二回ではない。 (確か・・・名前はロイ・マスタング・・・・。) アルはチラリと姉を盗み見る。猫エドにニコニコ笑いかけている姉に、アルは 思い切って尋ねてみることにした。 「ところで、この子の飼い主って誰?」 「え?飼い主?だから、俺の知り合いだって。」 多少引き攣った笑みのエドを、アルは言い逃れは許さないとばかりに、じっと 見つめた。 「うん。で?その知り合いって誰?名前は?何している人?」 矢継ぎ早に聞くアルに、エドは冷や汗を流しながら、慌ててアルから猫エドを 奪い取る。 「あっ!そろそろこの子の薬の時間だった。まだ少し体調が悪いから、俺の 部屋に隔離するから、猫アルとか連れてくるなよ!じゃあ!俺忙しいから!!」 エドは早口で捲くし立てると、猫エドを抱きしめて、パタパタと二階の自室に 入っていった。 「ちょ!!姉さん!!」 階段の下からアルの声が聞こえるが、エドはそれを無視してドアに鍵をかける。 「焦った〜。」 別に飼い主の名前をアルに言ったからと言って、どうということはないのだが、 下手するとアルに自分がロイに片思いしている事がばれてしまうかもと思い、 思わず誤魔化してしまったエドだった。 「にゃあ〜。」 猫エドを抱いたまま、ずるずると床に座り込んでいたエドを、猫エドは不思議そうな 顔で見上げていた。 「あっ、ごめんね。吃驚した?」 エドは猫エドの頭を撫でる。 「エド君はいいなぁ・・・・。マスタング大佐と一緒にいられて・・・・・。」 エドは猫エドをギュッと抱きしめた。途端、今まで気づかなかったが、 猫エドの身体から、ロイのコロンの匂いがして、思わず真っ赤になって、 猫エドから身体を離す。 「えっ!あの!その!!」 1人慌てふためくエドに、猫エドはキョトンとなる。それに気づいたエドは、 真っ赤になって、猫エドに笑いかけた。 「ハハハ・・・・。俺って、馬鹿みたいだな。1人で騒いで・・・・。」 猫エドの頭を撫でながら、エドはクスリと笑う。 「まさか、自分でもこんな大胆な行動を起こすなんて、思いもよらなかった。」 一週間前、マルコー医師に半ば追い出されるように、病院を出された二人は、 エドのお気に入りのカフェでお茶を飲むことにした。 最初は緊張のあまり、ぎこちない2人だったが、共通の趣味の錬金術の話から、 打ち解けあい、楽しい時間を過ごす事が出来た。その話の中で、ロイが、 猫エドが退院した後、暫く付きっ切りでいたいが、果たして軍服恐怖症の猫エドを 司令部に連れて行って良いものかという言葉に、エドは自分が預かると 言ったのだった。ロイの事を抜きにしても、エドは猫エドが大層気に入っており、 どうしても面倒が見たかったのだ。最初は、受験生のエドに迷惑をかけられないと 辞退したロイだったが、頑として譲らないエドに、ロイは根負けして、猫エドを 預かってもらう事にしたのだ。 「エディと呼んでも?」 帰り際、ロイが頬を紅く染めて、エドに尋ねた。 「え?」 驚くエドに、ロイは、はにかみながら、言った。 「折角親しくなったのだから、エドワード嬢だと堅苦しいと思ってね。かと言って、 【エド】では、うちの猫と同じだから・・・・【エディ】と呼びたいのだが・・・・・。」 構わないだろうか?と問われて、エドは真っ赤になって頷いた。途端、 嬉しそうな顔で笑ったロイの顔に、エドは見惚れてしまった。 「みゃあ〜。みゃあ〜。」 ふとスカートを引っ張られる感覚に、それまで自分の世界に入ってたエドは、 ハッと我に返った。気がつくと、いつの間にか猫エドが腕から逃げ出しており、 必死にエドのスカートについているリボンで遊んでいた。 「・・・君の恐怖症は、どうやったら直るのかな?」 こんなに可愛い猫の苦しみが、一刻も早く終わって欲しいと、エドは心の底から 願いながら、猫エドの身体を抱き上げると、優しく抱きしめるのだった。 ****************************** まだ両想いになっていない2人なのに、甘々ですねぇ。 というか、ロイの性格が変!!乙女過ぎ!! こんなに乙女で、あの黒アルに対抗できるのでしょうか!! 次回からは、犬タイサと猫エドをメインに話を進めつつ、 水面下で繰り広げられる、ロイとホークアイ&黒アル連合隊との 戦いになります。 感想などを下さると、とっても励みになります!! |