Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 
         第9話  兄弟再会



  カリカリカリ・・・・。
  猫アルは、先程から、エドワードの自室の扉に爪を
  立てて、中に何とか入り込もうとしていた。
  「エドワードさ〜ん。開けて〜。」
  いつもなら、ニャアと鳴けば、開けてくれる扉も
  今日に限って、鉄壁の守りに徹しており、全く開く
  気配がない。
  「無駄だ。」
  背後からの声に、猫アルは嫌そうに振り返った。
  「今日はその部屋の中には入れない。」
  不機嫌そうに言うのは、猫アルの天敵である、
  犬のタイサだった。
  「どうしてさ!エドワードさんが、このボクを締め出すなんて
  ありえない!!」
  向きになる猫アルに、犬のタイサはフッと鼻で笑う。
  「当分、ご主人の部屋には入れん。客がいるからな。」
  「客?」
  首を傾げる猫アルに、犬のタイサは溜息をつく。
  「猫だそうだ。怪我をしているから、ご主人はその猫に
  掛かりきりになるらしい。」
  「なっ!!ボクの他に猫がっ!!そんな!」
  猫アルは、ますますエドを独占できないじゃないか!
  と憤慨すると、新たなライバルに宣戦布告すべく、
  一層激しくドアの前で鳴きだす。
  「にゃあ〜。にゃあ〜。にゃあ〜。」
  「どうしたんだよ。猫アル。静かにしなきゃ駄目じゃないか。」
  あまりの煩さに、エドワードが首だけ出して、猫アルを叱る。
  だが、もともと小さい子猫の猫アルは、扉が開いた瞬間、
  ダッシュで部屋の中に入っていく。
  「あっ!こら!!待ちなさい!猫アル!!」
  慌てて猫アルを捕まえようと、一瞬気を逸らせたエドに、
  犬のタイサもチャンスとばかりに、素早く部屋の中に入る。
  その瞬間、犬のタイサの中で時間が止まった。
  ベットの下の犬のタイサお気に入りの場所に、エドワードの
  お気に入りのクッションを敷いて、金色の毛並みの小さな猫が
  チョコンと丸くなって眠っていた。
  (あの時の・・・・・。)
  雨の日に自分が見つけた猫が目の前にいて、犬のタイサは
  思わず固まってしまった。
  「死にたいのか?」
  あの日、自分が言った言葉に、子猫は怪我をした体で、
  ゆっくりと起き上がると、黄金の瞳に焔を灯して言ったのだ。
  「・・・死にたくねぇ・・・・。」と。
  あの瞳を見た瞬間、犬のタイサの心はまるで鷲掴みされた
  ように痛んだ。そして、それ以来犬のタイサは、その子猫の
  事を一度だって忘れた事がなかった。今まで、エドワード
  至上主義だったのが、嘘のように、気がつくと子猫の事ばかり
  考えている自分に、犬のタイサは落ち込んだ。
  もう二度と会えないのに、何故こんなにも気になるのか。
  そんな悶々とした日々を過ごしていたのだが、思いかけずに
  目の前にあの時の子猫がいて、心の準備が出来ていない
  犬のタイサは、固まってしまったのだ。
  「駄目だよ。猫アル。エド君は怪我をしているから、また
  今度遊んでね。」
  エドの言葉に、犬のタイサは、ハッと我に返ると、猫アルを
  見た。
  猫アルは、エドに優しく頭を撫でられながら、真剣な表情で
  じっと猫エドを凝視しており、それが犬のタイサには気に
  食わなかった。
  (あの猫を見ていいのは、私だけだ!!)
  犬のタイサは、猫アルの首を摘むと、部屋の外へ追い出そうと
  するが、それよりも先に、猫アルが暴れだした。
  「離せよ!!タイサ!!」
  「駄目だ。」
  取り付く島もなく、犬のタイサは猫アルを扉の外へ連れ出そうと
  するが、続く、猫アルの言葉に、思わず咥えていた口を開けて
  しまった。
  「兄さん〜!兄さん!!助けて〜!!」
  「・・・兄さん?」
  あの子猫と猫アルが兄弟?
  ありえん!!そんな馬鹿な!!
  信じられない思いで、犬のタイサは、猫アルを凝視するが、
  猫アルは犬のタイサから逃れると、一目散に猫エドの方へと
  駆け出した。
  「ん〜?なんだ〜?」
  猫アルの声に、猫エドは目を擦りながら、大きく欠伸をした。
  「兄さん!!兄さんだよね!!」
  起きた猫エドに、猫アルはまるでタックルするように、猫エドに
  しがみつく。
  「ほえっ!もしかして、お前は!!」
  完全に目が覚めた猫エドは、猫アルを一目見た瞬間、
  泣きながら、抱きつく。
  「弟よ!!」
  「兄さん!!」
  じゃれ合う二匹の子猫に、一瞬あっけに取られたエドワードは、
  ポヤヤンとにっこりと微笑んだ。
  「すっかり仲良しさんだね〜。」
  などと子猫のじゃれ合いを、ニコニコと眺めている。
  そんな二匹と1人に、犬のタイサは、ムッとすると、優しく猫エドの
  毛を舐めている猫アルの首をひょいっと咥えて、スタスタと
  歩き出す。
  「タイサの馬鹿〜!離せ〜!!」
  暴れる猫アルを今度は離さずに、部屋の外へ連れ出そうとすると、
  今度は猫エドが、怒って犬のタイサに食って掛かる。
  「おい!弟をどこへ連れて行く気だ!!」
  威勢のいい猫エドに、犬のタイサはチラリと一瞥すると、そのまま
  廊下に出ると、扉が開いている部屋へと猫アルを押し込め、扉を
  パタンと閉める。
  そして、再び意気揚々と、犬のタイサがエドの部屋へ戻ると、
  部屋の外から聞こえる猫アルの悲痛な叫びに、猫エドの怒りは
  頂点に達していて、犬のタイサの前に立ち塞がった。
  「許さねー!!覚悟しやがれ!!」
  猫エドは犬のタイサに向かって、日頃から鍛えている猫パンチを
  お見舞いすべく、犬のタイサに突進しようとしたが、犬のタイサの
  ある部分に気づき、悲鳴を上げてエドワードの元へと、一目散に
  逃げ出した。
  「ふみゃああああああああ!!」
  「エド君!!」
  いきなり猫エドに、悲鳴を上げられ、犬のタイサは困惑気味に
  エドワードを見上げる。
  決して猫エドを怖がらせるつもりはないのに、自分の何が
  いけないのだろうか。
  犬のタイサはドオオンと落ち込んだ。
  「大丈夫だよ。エド君。大丈夫。」
  猫エドをあやしながら、エドワードは犬のタイサを見て、ふと
  ある事に気づいた。
  「そっか・・・・。首輪・・・・。」
  (首輪?)
  首輪が一体どうしたんだ?そう目でエドに訴えるが、エドは
  何も言わずに、犬のタイサを部屋から出て行くように促す。
  「ごめん。タイサ。ちょっと部屋から出ててね。」
  名残惜しそうな犬のタイサを出しながら、エドワードは
  必死に猫エドを宥める。
  「大丈夫だよ。エド君。もう【青色】はないからねー。」
  (青色?)
  青色というキーワードに、犬のタイサはピクリと反応した。
  確かに今日の自分の首輪の色は青だ。それと猫エドの異常な
  までの怯えに、犬のタイサの眉間の皺が深くなる。
  パタンと閉じられた扉を、犬のタイサは、いつまでも微動だに
  せずにじっと睨みつけていた。




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猫エドと犬のタイサの再会(?)編。
無自覚ながらも、すでに犬のタイサの猫エドに対する独占欲は
相当強いです。しかし、猫エドの方は、犬のタイサを嫌っています。