Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 第11話 父、帰る 「この!この!この!!」 まるで、親の敵を見るような真剣な表情で、先程 から猫エドは、犬のタイサから貰った、古い犬のタイサの 首輪と格闘していた。 「兄さん〜。そんな首輪なんて放っておいて、ボクと 遊ぼうよ〜!!」 猫エドの後ろでは、猫アルがウロウロしながら、何とか猫エドの 気を引こうとするが、一つの事に集中すると、回りが見えなくなる 猫エドには、全く相手にされなかった。 「打倒!タイサ!!うりゃうりゃうりゃうりゃ〜!!」 先程から、猫エドは、首輪に猫パンチを繰り返しながら、そんな事を 叫んでいた。 「兄さん〜。」 半分涙目になっている猫アルに、猫エドは、にっこりと微笑みながら、 振り返る。 「大分慣れてきたぞ!!後少しだ!!」 そう言って笑う猫エドの身体は、次の瞬間、持ち上げられて、猫エドは 軽いパニック状態になる。 「へっ!!ふみゅああああああああ!!」 「兄さん!!」 猫アルは驚いて、兄を抱きしめている人間の足に、必死に猫パンチを 食らわせる。 「この!この!兄さんを放せ!!」 「ん?君も抱っこされたいのかな?」 そう言って、猫アルも一緒に抱っこされてしまい、猫エドと猫アルは 途方にくれた目をお互いに向ける。 「なぁ、こいつ誰なんだよ。」 猫エドの問いに、猫アルは首を横に振る。 「ボク、知らないよ。初めて逢った人だもん!」 とりあえず、この状況をどうしようかと、兄弟が考え込んでいると、 救いの女神が、慌てて部屋の中へと駆け込んできた。 「やっぱ、ここかっ!!父さん!!」 部屋に駆け込んできたのは、エドワード・エルリック。 エドはつかつかと父親に近づくと、腕の中から猫エドを救出する。 「あ・・・・・いいじゃないか。エド。」 無類の猫好きの血が騒ぐのか、父、ホーエンハイム・エルリックは、 名残惜しげに猫エドへ手伸ばすが、愛娘のエドワードの冷たい視線に ガックリと肩を落とす。 「あのな!さっきも言っただろ?この猫は人から預かっているんだ!」 おまけにまだ怪我が完治していないんだ!と怒るエドに、父親である、 ホーエンハイム・エルリックはシュンと悲しそうな顔をする。 「だが、折角噂の【少佐】に逢えたんだよ?少しくらい抱っこしたって いいじゃないか。キングの話を聞いてから、ずっと逢いたくて逢いたくて 仕方がなかったのに!!」 ホーエンハイムの言葉に、エドは頬を膨らませながら、プイと横を向く。 「何だよ。この子に逢いに来ただけなのかよ。母さん、ずっと父さんに 逢いたいって言っていたのに・・・・・・。」 母さんに言って来る!と駆け出そうとするエドに、慌ててホーエンハイムは、 エドの首根っこを捕まえる。 「何を言っているんだ。エド!私はトリィや可愛い子供達に逢いに、遙々 セントラルから帰って来たに決まっているじゃないか!!」 「・・・本当かよ。」 疑わしそうな目で見るエドに、ホーエンハイムは大きく頷く。 「勿論。」 「じゃあ、さっさと母さんの側に行く!!」 エドは、有無を言わさずに、ホーエンハイムを部屋から追い出した。 「エドワード!!」 パタンと扉を閉めて、ホーエンハイムを追い出すと、エドは腕の 中の猫エドをギュッと抱きしめた。 「もう大丈夫だよ。怖かったね〜。」 今日のホーエンハイムの洋服が、青色であった為、エドは慌てて ホーエンハイムを猫エドから引き離したのだった。 「・・・あれ?そう言えば・・・・・・。」 エドは、ふとある事に気づいて、マジマジと猫エドの顔を覗き込む。 「エド君、【青色】怖くない・・・・・の?」 いつもなら、怯えて部屋の角に逃げ込む猫エドなのだが、全く 怯えていない様子に、エドは首を傾げた。 「・・・・一体、いつの間に・・・・。」 ふと部屋の角に転がっている犬のタイサの古い首輪に気づくと、 エドはにっこりと微笑みながら、猫エドの頭を優しく撫でる。 「えらいね〜。エド君。」 猫エドはエドに頭を撫でられながら、エドの言葉に茫然となっていた。 そう言えば、さっきの男の服が青色だったが、全く気にならなかった。 「これも、全部タイサのおか・・・・げ?」 犬のタイサへの対抗心から、青色のモノに、片っ端から喧嘩を売った 結果、ほぼ弱点を克服したらしい。 「よし!!勝負だ!タイサ!!」 猫エドはエドの腕の中から抜け出すと、ヒラリと華麗に着地して、 嬉々として、部屋を飛び出していった。 「ターイーサー!どこだー!!」 家の中を隈なく歩き回った猫エドだったが、どこにもいないタイサに、 不貞腐れたように、庭へと出て行く。 「どこへ行ったんだよ!!」 折角弱点を克服したというのに!と憤慨しながら、庭を歩いていると、 ふと道の向こう側に、タイサの姿を見つけて、猫エドは嬉々として 走り出した。 「お〜い。タイ・・・・・・。」 勝負だっ!!と言う言葉は、次の瞬間、飲み込まれてしまった。 猫エドの視線の先には、綺麗なメス犬に、優しそうな眼で微笑んでいる タイサがいて、猫エドはその二匹の間に入る事が出来ず、ガックリと 肩を落とすと、トボトボと家の中へと入っていった。 (どーしたって言うんだ?どうして俺の心が痛くなるんだよ・・・・。) 猫エドはエドの自室に戻ると、タイサの首輪を咥えると、猫エドの お気に入りのクッションへ落とす。そして、その上に猫エドは丸くなって 眼を閉じる。 「タイサの馬鹿!馬鹿!俺はもう知らねぇ!!」 何に対して怒っているのか、全く判らずに、猫エドは更にタイサの首輪に 身を摺り寄せるように、身体を縮こませた。 夕飯を食べ終わり、エドとホーエンハイムは、食後の紅茶を 飲みながら、錬金術師の話に花を咲かせていたが、ふと 思い出したかのように、ホーエンハイムは、自分の膝の上で、 すやすやと気持ち良さそうに眠っている猫エドの頭を優しく 撫でた。 「本当に、【少佐】は愛らしいねぇ。キングの言った通りだ。」 「そー言えば、キングおじさんは元気?」 この国の最高権力者、キング・ブラットレイ大総統と、 ホーエンハイムは幼馴染で、家族ぐるみの付き合いをしていた。 特にエドは、子どものいない大総統夫婦に可愛がってもらっている。 「ああ。元気だとも。キングが、お前に会いたがっていたぞ。」 「うーん。受験が終わったら、おじさん達に逢いにセントラルへ 行くよ。」 ティーカップを両手で抱えるように持ちながら、エドはゆっくりと口に つける。 「その事なんだが、エド。」 ホーエンハイムは、持っていたティーカップをテーブルに置くと、 真剣な表情でジッとエドを見つめた。 「高校に進学するにしても、国家錬金術師の資格を取って研究所に 入るにしても、今後の活動拠点を、セントラルにしないか?」 「え?」 エドは驚いて顔を上げる。 「父さんと、セントラルで暮らそう。エドワード。」 ホーエンハイムの言葉に、エドの手からティーカップが離れた。 ******************************* やっと猫エドの青色恐怖症が、どうにか克服出来そうな気配だったのに、 またしても問題が浮上してきました。 果たして、猫エドに浮気現場(?)を見られた、タイサの今後はどうなるのか。 そして、エド子は、セントラルへホーエンハイムに拉致られてしまうのかっ!! |