Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 第12話 動き出す運命 「セ・・・セントラル・・・?」 茫然と呟くエドに、ホーエンハイムは慌てて愛娘の手を握る。 「エド!?熱くなかったか!!火傷は!!」 運が良かった事に、殆ど空であった為に、火傷は免れて、 ホーエンハイムはホッと胸を撫で下ろす。 「一体、どうしたんだい?エド。」 優しく未だ惚けているエドの髪を撫でる。 「ん・・・べ・・・別に・・・・。」 エドは、俯きながら首を横に振る。そのエドの様子に、勘違いした ホーエンハイムは、安心させるように言う。 「勿論、来年アルフォンスも中学を卒業したら、母さんと一緒に セントラルに来るぞ。一年間だけ父さんと2人だけの生活だが、 いいだろ?」 「そ・・・それは・・・・。」 エドが何かを言いかけた時、玄関のチャイムが鳴った。 「あっ、エド君を引き取りに来たんだ!!」 エドはそう言うと、ホーエンハイムの腕の中で眠っている猫エドを 引っ手繰るように腕の中に収めると、玄関に向かって走り出す。 「マスタング大佐!!」 「エドワードちゃん!?」 泣きそうな顔で扉を開けると、そこには、ホークアイが驚いた顔で 立っていた。 「あっ・・・リザ姉・・・。ごめん。間違えちゃった・・・・。」 ガッカリとした表情のエドに、ホークアイは心配そうな顔で 声をかける。 「何かあったの?」 「ううん!何でもない!それよりも、今日はどうしたの?」 首を傾げるエドに、ホークアイはニッコリと微笑む。 「エド君を引き取りに来たの。」 「・・・・・なんで・・・リザ姉が・・・・。」 何故、ロイの飼い猫をホークアイが引き取りに来たか、エドはショックの あまり、目の前が真っ暗になる。 「大佐が、今夜どうしても抜けられない用事があるらしいの。」 だから、代わりに引き取りに来たのよと言うホークアイに、エドは 動揺した顔で尋ねる。 「ねぇ、リザ姉・・・・。よくエド君を引き取る・・・の・・・?」 「ええ。大佐が家に帰れない時にはね。」 本当は、猫エドを独り占めする為に、ホークアイがロイを家に帰らせない のだが、そんな事情はエドには判らない。 「そ・・・そうなんだ・・・。じゃあ・・ね。エド君・・・・。」 エドはしょぼんとした顔で猫エドをホークアイに押し付ける。 「エドワードちゃん!?」 いつも笑顔を絶やさないエドの沈んだ様子に、ホークアイは驚いて エドに手を伸ばそうとするが、寸前で閉められたドアに、茫然と佇む。 「・・・どうしたんッスか?」 茫然と扉の前で佇むホークアイに、中々戻ってこないホークアイを 心配したハボックが、車から降りて、声をかける。 「・・・・ってしまったわ・・・・。」 「は?なんですか?」 小声で聞き取れないホークアイの言葉を、ハボックは聞き返す。 「そんなの、私にも分からないわ!でも、エドワードちゃんに嫌われて しまった〜!!」 珍しく感情も露に大泣きするホークアイに驚きながら、ハボックは 優しくホークアイの背中をあやす様に叩いた。 「エド?どうしたんだい!!」 泣きながら二階に駆け上がる娘を心配したホーエンハイムの声に 答えず、エドは自室に篭ると、中から鍵を閉める。 「うっ・・・うっ・・・・。」 流れ落ちる涙を、エドはグイッと袖で拭うと、自嘲した笑みを浮かべる。 「クゥーン。」 そんなエドの様子に、先程まで猫エドが眠っていたクッションで 身体を休めていた犬のタイサが気づき、心配そうにエドの顔を 見上げていた。 「タイサ〜。」 エドは、犬のタイサをギュッと抱きしめると、しくしくと泣き出す。 「やっぱ、リザ姉とマスタング大佐って、付き合ってたんだ・・・。 馬鹿だな。俺、1人で舞い上がって・・・・・。」 犬のタイサは、心配そうにエドの顔を覗き込むと、そっと涙を ペロペロと舐める。 「ありがとう・・・。タイサ・・・・・。」 エドは、犬のタイサを抱きしめながら、一晩中、失恋の痛みに 涙を流し続けるのだった。 その頃、イーストシティで一番の高級ホテルの一室では、 先程から不毛な争いが繰り広げられていた。 「お断りします!」 自分の前に置かれた見合い写真を、目の前でニコニコ笑っている キング・ブラッドレイ大総統に向かって、ズズッと押し出す。 「だが、君も29歳だ。そろそろ身を固めてもおかしくないだろう。」 にこやかに微笑みながら、大総統は、再び見合い写真を、ロイに 押し戻す。 「結構です。そんなに見合いをさせたいのならば、私ではなく、 ライにでも持っていって下さい。」 ロイは、また写真を大総統へ戻す。 「ライにも、勿論持っていったぞ。だが、顔を見るなり、逃げられたんだ・・・。」 シュンとなる大総統に、ロイも良い事を聞いたとばかりに、無言で 部屋を出て行こうと立ち上がりかけるが、素早い動きでロイの腕を押さえると、 大総統はニヤリと笑う。 「ロイ。写真を見るだけも・・・・。」 大総統は、無理矢理、写真をロイに押し付けようとするが、それよりも 前に、本気で怒ったロイが、大総統の腕を振り払いながら、席を立ち上がる。 「その手には乗りませんよ。写真を見たが最後、私に拒否権は ないのでしょう!!」 その言葉に、大総統は、悲しそうな顔をする。 「ロイ。私はただ、可愛い甥が未だ一人身なのを心配して・・・・。」 「それがありがた迷惑なんです!!急に人を呼び出しておいて、 一体何の話かと思えば・・・・いいですか、伯父さん。結婚相手は 自分で見つけます!!」 失礼しますと、頭を下げて、部屋を出て行こうとしたロイに、大総統の 厳しい声が飛ぶ。 「ロイ・マスタング大佐。これは大総統命令である。見合いをしなさい!」 「・・・・・卑怯な・・・・。」 ギリリと唇を噛み締めるロイに、大総統は満足気に頷いた。 「では、ロイ。一週間後にセントラルに戻ってきなさい。相手のお嬢さんは お前を知っているだろう。フェスタール准将の娘のジョシーだよ。」 「ジョシー?」 ロイの脳裏に勝気な彼女の顔が浮かび上がる。よりにもよって、何故 自分の苦手な女性を見合い相手に選ぶのだろうと、ロイは大総統を 睨み付ける。 「では、一週間後に逢おう。ロイ。」 もう用は済んだとばかりに、退出するように命じる伯父に、ロイは無言で 頭を下げると部屋を出て行く。 「見合いか・・・・・。」 部屋を出た途端、ロイは溜息をつく。 自分には想い人がいる。 彼女以外自分の妻は考えられない。 だが、彼女は? 彼女は自分の事をどう思っているのだろうか。 それを思うと、ロイは伯父にエドの事を言いだせずにいた。 「だが、私は諦めない!」 こうなったら、一週間以内に両想いになって、見合いをぶち壊してやる! ロイは決意も新たに、顔を上げると、足音も荒く歩き出した。 「本当か!?エド!!」 朝食の席で、エドは泣き腫らした眼をしながら、父親にこう切り出していた。 「俺、セントラルに行く。」 大喜びをする父親とは対称的に、アルフォンスは、青褪めた表情のエドワードを 酷く心配げに見つめていた。 ******************************* ほのぼのラブコメディを目指していたのですが、 やはり、人生にはスパイスがあってこそ、楽しいのです。(←鬼だ。) 今回、猫エドに続き、エド子さんまで誤解しています。 しかも、ロイも犬のタイサも、全くその事に気づきません! その上、ロイにお見合いのお話がっ!! 一体どうなる!このカップル達は!! そして、『ライ』とは一体誰なのか!! |