Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 


           第13話  すれ違う想い



    俺、変だ・・・・・。どうかしたのかなぁ・・・・・。
    この間から、タイサの顔がチラついて、胸が
    ギュッとなるんだ・・・・・。
    猫エドは胸の痛みに耐えるかのように、ロイの
    腕の中で丸くなった。
    「ん?どうしたんだい?エド?」
    腕の中の猫エドの様子がおかしい事に気づいた
    ロイは、訝しげな顔で、猫エドの顔を覗き込む。
    「さっきまで、あんなに元気だったのに・・・・・。」
    家を出る前、猫エドは元気に走り回っていたのだ。
    ところが、エドワードの家に近づくに従って、猫エドの
    様子がおかしくなった。
    さっきまで、ピンと立てていた耳やヒゲが、今では、
    クタリと垂れ下がっている。
    「やはり、まだ怪我は完治していないのか・・・・・。」
    ロイはギリリと唇を噛み締める。
    「ハボック、エドの様子がおかしい。エディの家に
    寄ってから、動物病院へ向かう。」
    ロイは、自分の腕の中で、小さく震えている猫エドの
    身体を優しく撫でながら、小さく溜息をついた。





    「え?いない?」
    エドではなく、アルフォンスが応対に出たことで、
    戸惑っていたロイだったが、猫エドの様子がおかしいので、
    動物病院に連れて行くこと。そのまま病院で預かってもらう事を
    簡潔に述べた後、いつまでも、玄関先に出てこないエドに、
    ロイはもしかして、病気かもと、心配げにエドを尋ねると、
    アルは意外な事を言った。
    「姉さんですか?今ごろセントラル行きの列車に乗っている
    頃ですよ。」
    ニコニコと笑うアルに、ロイは眉を顰めた。
    「姉さん、中学を卒業したら、セントラルに引っ越すので、
    その下見を兼ねて、父さんと一緒に、セントラルに行ったんです。」
    アルの言葉に、ロイの顔がさっと強張る。
    「しかし、エディは、地元の高校に通うと・・・・・。」
    高校を卒業と同時に、国家錬金術師の資格を取って、伯母を
    説得するつもりだとエドは言っていたのに、何故急にセントラルへ
    行くのか。
    訳が判らず、ロイはアルに尋ねる。
    「さあ?よっぽどショックな事でもあったのかな?ボクは
    良くわかりません。」
    「ショック!?一体、何に!!」
    驚くロイに、アルはニッコリと微笑む。
    「あなたに、関係ありませんから!!」
    バタンと目の前でドアを閉められ、ロイは唖然となる。
    「フミャア〜?」
    キョトンと腕の中で自分を見上げる猫エドに気づき、ロイは
    優しく微笑む。
    「大丈夫だ。さぁ、病院に行こうな?」
    後ろ髪を引かれつつ、ロイはハボックの運転する車に戻ろうと、
    踵を返した時、フイに、猫エドが身体を益々小さくさせて、震えて
    いる事に気づき、驚いて猫エドを見下ろす。
    「エド?」
    ジッと猫エドが凝視している先を見ると、庭に真っ黒な犬が、
    日向ぼっこしているところだった。
    「確か・・・・エディが飼っている犬がいたな・・・・・・。」
    あれがそうなのかと、思わずじっと見ていると、犬のほうでも
    視線に気づいたのか、ピクリと耳を持ち上げると、上体を起こし、
    じっと自分を見つめてくる。
    「名前は何と言ったかな?」
    犬を飼っていると聞いた事はあるが、名前までは知らなかったと、
    今更ながらロイは気づいた。
    「ふみぃ・・・・・。」
    自分の考えに没頭していたロイは、腕の中の猫エドが、
    せつなそうな声で鳴いていることに気づき、猫エドを見下ろす。
    「?お友達と遊びたいのかね?」
    じっと黒い犬を凝視する猫エドの様子に、ロイはかわいそうになる。
    このまま猫エドと犬を遊ばせてあげたいと思うが、猫エドの体調を
    考えると、ここは心を鬼にしなければならない。ロイは、自分に
    近づいてくる犬に微笑みかける。
    「すまないね。エドの体調が優れないんだ。元気になったら、
    また遊んであげてくれ。」
    そう言って、犬の頭に手を置こうとして、手を伸ばすが、
    犬にしては鋭い眼光に、ロイは伸ばしかけた手を止める。
    ”なんだ・・・・この殺気は・・・・・。”
    腐っても軍人。気配を読むことには長けている。犬の本気の
    怒りを感じ、自分は何故ここまで嫌われなければならないのかと、
    本気で頭にきた。
    だが、犬のタイサにも、十分すぎる程の言い分がある。
    主人が一晩中泣いていたのは、主人の言葉の端端から、
    この目の前の男が原因である事を知っていたし、今度は猫エドを
    連れて行ってしまうのだ。これで怒るなと言う方が無理な話だ。
    そう、自分に結論つけると、ロイをけん制しつつ、ロイの腕の中で
    丸くなっている、猫エドをチラリと見る。
    「今日は、弟に会っていかないのか?」
    タイサの言葉に、猫エドはピクリと身体を揺らす。
    「・・・・タイサには、かんけーねー。」
    プイと横を向く猫エドに、タイサは訝しげな顔をする。
    「毎日あんなにベッタリだったのに?具合でも悪いのか?」
    ロイの腕の中に抱かれている猫エドを見て、頭に血が上った
    タイサだったが、よくよく見てみれば、猫エドの様子がおかしい。
    急に心配になったタイサは、もっと良く猫エドを見ようと、さらに
    顔を近づけるが、次の瞬間、猫エドの猫パンチが鮮やかにタイサに
    決まる。
    「エド!!」
    「タイサなんか知らねー!オレの側に寄るな!!アンタは、
    メス犬でも追っかけていろ!!」
    そう叫ぶと、ロイの腕から逃れて、ハボックの待っている車に
    駆け込む。
    「エド!?何の話だ!!」
    叫ぶタイサの頭を、ロイはポンと叩くと、そのまま車の方へと
    歩いていく。
    その時見たロイの勝ち誇った顔に、タイサのブラックリスト
    ナンバー1に、ロイの名前がデカデカと書かれる。
    (絶対にコイツだけには、負けん!!)
    走り去る車を、タイサはいつまでも睨みつけていた。
    







    セントラルに行く前に、東方司令部に用事があるという
    ホーエンハイムの言葉に、エドはホーエンハイムの用事が
    終わるまで、東方司令部の中庭で時間を潰していた。
    もしかして、ロイとホークアイに出逢うかもと、内心ビクビク
    していたのだが、どうやら逢わずに済みそうだと、ほっと
    胸を撫で下ろす。ロイへの想いを吹っ切ったとはいえ、
    流石に仲睦まじい二人の様子を見る事は嫌だった。
    (マスタング大佐とリザ姉・・・・お似合いじゃん!2人とも
    大好きなんだから、祝福しなくっちゃ!)
    よし!と気合を入れた時、廊下をホークアイが歩いている
    事に気づいた。
    「リザ姉?」
    声を掛けようかと思ったが、ホークアイの沈んだ様子に、
    声を掛けることも出来ず、茫然と見送るしかなかった。
    「どうしたんだろう・・・・。すごく悲しそうな顔だった。」
    まるで、この世の終わりのようなホークアイの沈んだ様子に、
    心配になって、エドはコソコソとホークアイの後をつけようと
    した時、ホークアイとは、反対方向から来た二人組みの
    軍人の言葉に、思わず足を止める。
    「おい、聞いたか?マスタング大佐の話。」
    (マスタング大佐?)
    ピクリと反応するエドの目の前を、男達は話しながら、
    通り過ぎる。どうやら、話に夢中でエドがいることに
    気づいていないらしかった。
    「お見合いだろ?とうとう大佐も年貢の納め時か。」
    (お見合い!?マスタング大佐が!?)
    エドはショックで頭が真っ白になる。
    (そんな・・・・マスタング大佐にはリザ姉がいるじゃん!!)
    そこで、ハッと先程のホークアイの顔が浮かび上がる。
    ホークアイの悲痛な表情の理由が、ロイのお見合いの話に
    よるものだと思い当たったエドは、怒りに震える。
    (酷いよ!リザ姉を悲しませるなんて!!)
    一言文句を言ってやる!とエドはロイの執務室に向けて、
    駆け出そうとした所、後ろからホーエンハイムの声がかかる。
    「待たせたね。エド。」
    「父さん!!オレ、ちょっとマスタング大佐に用事が!!」
    そのまま駆け出そうとするエドに、ホーエンハイムは、
    のほほんと言う。
    「彼なら、まだ来ていないよ。それよりも、列車の時間に間に
    合わない。急ごう。」
    そのまま、ズルズルとエドの腕を取ると、久し振りの愛娘との
    時間に、足取りも軽く、駅へと向かう。
    「マスタング大佐の馬鹿〜!!」
    エドの絶叫が東方司令部に響き渡った。




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ロイとタイサの初対決!!
是非とも、タイサには頑張って欲しいものです。