Stay by my side 〜陽だまりの中で〜


 
             第15話  囚われた猫




  「な・・・なんだよ!俺に何の用だよ!!」
  猫エドは、精一杯虚勢を張って、犬のタイサを睨み
  つけるが、タイサの何もかも見透かすような視線に、
  居心地が悪くなり、一瞬の隙をついて、タイサから逃げだそうと、
  走り出すが、タイサの横を通り過ぎた瞬間、急に猫エドは、
  身体の浮遊感に、思わず硬直して、目をギュッと閉じる。
  「普段、こう大人しくすれば、可愛気があるのに。」
  頭上から聞こえる、心底ウンザリとした声に、猫エドは、
  恐る恐る目を開けて、後ろを振り返ると、タイサが自分の
  首輪を咥えている事に気づき、真っ赤な顔で暴れだす。
  「離せ!!馬鹿タイサ〜!!」
  ニャンニャンと凄まじく泣き出す猫エドに、タイサは、溜息をつくと、
  トコトコと塀の側まで歩き、乱暴に猫エドを放す。
  「ムギャ〜!!」
  ベチョッと顔から落ちる猫エドに、タイサはクスリと笑う。そして、さり気なく
  退路を絶つと、前足で顔を抑えている猫エドの顔を、ベロリと舐める。
  「うわぁああ!何すんだ!!変タイサ!!」
  半分涙目になる猫エドに、タイサは意地の悪い笑みを浮かべる。
  「傷を親切に舐めただけだろうが。お礼を言って欲しいくらいだ。」
  「お礼って・・・・・。アンタが落とさなければ、俺は怪我なんてしなかった!!」
  憤慨する猫エドに、タイサは馬鹿にしたように笑う。
  「お前、猫のくせに、どうして、そんなにどんくさいんだ?」
  「なっ!!」
  あまりの事に固まる猫エドに、タイサは、更に追い討ちをかける。
  「本当の事だろ?猫のくせに、無様に落ちて・・・・・エド?」
  タイサは、そこで、猫エドがポロポロ泣き出している事に気づき、慌てて
  猫エドの涙をペロペロ舐める。
  「泣くな・・・・・。エド・・・・・。」
  「うっ・・・・くっ・・・・タイサの・・・馬鹿ぁあああ・・・・。」
  エグエグと泣き止まない猫エドに、どうして良いか判らず、タイサは、
  半分パニックになりながら、とにかく猫エドの口を塞ごうと、猫エドの口を
  ペロペロ舐める。
  「!!」
  思ってもみなかったタイサの行動に、猫エドは真っ赤な顔で硬直する。
  「泣くな・・・・。お前に泣かれると・・・・・どうしていいか、判らなくなる。」
  硬直する猫エドを、タイサは切なそうな顔で見つめると、猫エドの身体に
  頭をこすり付ける。
  「君と出会ってから・・・・私は自分の感情がコントロールできない。
  いつも弟と一緒で・・・・それを見て、イライラする自分に、更にイライラして
  いる・・・・。そして、君の意識を自分に向けようと、必死になっている
  事に気づき、ずっと疑問に思っていた。何故、私は君に対して、こんなに
  一生懸命なのか・・・・。何故、一日中、君の顔が脳裏から離れないのか。
  そして・・・・どうして、こんなに君が愛しいのか・・・・・。」
  「愛しい・・・・って・・・・・。」
  ポカンとなる猫エドに、タイサは苦笑する。
  「君が私を見てくれる。それだけで、私の心は温かくなるのだよ。」
  タイサは、ペロリと、惚けている猫エドの頬を舐める。
  「私は・・・・・君を愛している。」
  「え・・・・・・・。」
  タイサは、驚く猫エドに、蕩けるような笑みを浮かべて、そっと猫エドの
  唇に、己の唇を重ね合わせる。
  「・・・だ・・だって・・・俺、猫だし・・・・・。」
  パニックになっている猫エドに、タイサは、微笑みながら、さり気なく猫エドの
  身体をペロペロ舐めて、毛づくろいをする。
  「俺、男だよ?」
  困惑する猫エドに、タイサは、顔を上げると、優しく微笑む。
  「そんな事は関係ない。私はエドだから愛している。」
  じっと真摯な目で自分を見つめるタイサの黒い瞳に、エドは囚われたように
  目が離せない。
  「・・・・タイサ・・・・。」
  「愛しているよ・・・・。エド・・・・・・。」
  そして、再び唇を合わせようと、タイサが猫エドに顔を寄せようとした時、
  タイサの直ぐ脇を、小さな爆発が起こる。
  「なんだ!!」
  タイサは、背後の殺気に気づくと、猫エドを後ろに庇いながら、殺気を放っている
  方を素早く振り向く。そこには、黒いコートを羽織った、ロイがタイサを射殺さん
  ばかりに睨んでおり、その後ろでは、滅多に感情を表に出さないホークアイが、
  驚きに目を見開いていた。
  「・・・・・貴様・・・・私のエドに・・・・・。どうやら、消し炭になりたいようだな・・・。」
  ゆっくりと右手に発火布の手袋を嵌めるロイに、猫エドは、反射的に、タイサと
  ロイの間に割って入る。
  「エド!!」
  驚くタイサを庇うように、猫エドは必死にロイに訴える。
  「ロイ駄目だっ!!」
  必死の形相で鳴く猫エドに、ロイは優しく微笑みかけると、肩膝をついて、
  左手を猫エドに差し出す。
  「エド。迎えに来たよ。おいで。」
  普段なら脇目も振らず、ロイに抱きつく猫エドだったが、ロイの右手が、
  相変わらずタイサを狙っている事に気づき、まるでタイサを守るように、
  ピタリとタイサにくっ付く。
  「エド・・・。私が嫌いになったのかね?」
  悲しそうなロイの顔に、猫エドはどうしていいのか判らず、何度もロイと
  タイサの顔を見比べる。
  そんな猫エドの様子に、ロイのタイサに対する嫉妬は、燃え上がる。
  「何やっているんですかっ!!大佐!!」
  一触即発の事態だったが、我に返ったホークアイが、指を今にも
  擦り合わせようとする上司の後頭部を、銃の柄の部分で、思いっきり
  殴る。
  「エド君に当たったら、どうするんですかっ!!それに!エドワードちゃんの
  愛犬に怪我をさせようとするなんて!!」
  エドワードというキーワードに、ロイは漸く我に返ると、慌てて手袋を
  外す。
  「すまない!ついカッとなって・・・・・・。」
  ロイは、タイサに深々と頭を下げる。もしも、エドワードの愛犬に傷一つでも
  つけたのが、自分である事を彼女が知ったと思うと、ロイの背中に冷たいものが
  走る。
  「ったく・・・・ショックだったのは、わかりますが・・・・・。」
  動物病院から逃げ出した猫エドを求めて、血眼になった捜した結果、愛猫が、
  犬とまるで恋人同士のようなキスをしていた所に遭遇してしまった、
  ロイのショックは、娘と彼氏のキスシーンを目撃してしまった父親と同じだろう。
  「さ、おいで。エド。」
  漸く殺気の収めたロイに、今度は安心して、猫エドはロイの方へ駆け出す。
  その様子を、タイサは悲しそうな顔で見送る。
  「エド。家に帰ったら、直ぐに消毒をしよう。」
  猫エドをギュッと抱きしめながら、ロイはさり気なく、タイサが舐めたと思われる
  場所を、ハンカチで優しく拭う。
  「・・・・・では、私は、タイ・・・いえ、この犬をエドワードちゃんの家に
  送っていきます。」
  じっと猫エドを見つめるタイサが可哀想になり、ホークアイは、ロイに声をかける。
  「何?エディの家にか?では、私も行こう。」
  もしかして、エドが帰っているかもという淡い期待を込めて、ロイは嬉々として、
  自分も一緒に行くと言い出す。そんなロイに、ホークアイは呆れた顔をする。
  今朝セントラルに向かって、もう帰ってくるはずがないのに・・・と思うが、
  恋する男(独身。29歳。)に、常識は通用しないようだ。猫エドを腕に抱いて、
  スキップをしそうなくらい、軽い足取りのロイを、ホークアイは溜息をつきながら、
  タイサを促して、後を追いかけようとした時、前方から声が聞こえた。
  「その必要はありません・・・・・。」
  前方には、黒い笑みを浮かべた、アルフォンスが、じっとロイを見つめて
  立っていた。



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キターッ!!やりました!タイサの告白です!!
犬の方が何万倍も甲斐性があります!(犬に先を越されるって
どうよ?しかも、それに気づかない事が哀れでもあります。)
しかし、残念ながら、まだこの二匹は両想いになっておりません。
(だって、まだ猫エドの誤解が全然解けてないし〜。ロイの
邪魔が入ったし〜。でも、チューをGET出来たタイサの手の早さ、
もとい、行動力は、ロイさんにも見習って欲しいものです。)
このままタイサと猫エドの恋の成就に向けて、一直線!と
行きたいところですが、黒アルさんの登場で、どうなるか・・・・・。