Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 

     第16話   猫さんこちら 手の鳴る方へ




  「君は・・・・アルフォンス君。」
  不機嫌なアルに、ロイは訝しげに眉を顰める。
  何故、ここに彼がいるのか。
  訳が判らず、ロイはアルを凝視する。
  戸惑うロイに、アルはゆっくりと近づくと、
  冷たい眼を向ける。
  「・・・・・どうして、あなたはそうなんですか?」
  「アルフォンス・・・・君?」
  様子がおかしいアルに、ロイは探るように見つめる。
  「今朝、猫エドの様子がおかしいと、あなたは言いましたね。」
  アルの言葉に、ロイは無言で頷く。
  「だったら、何故ちゃんと面倒を見ないんですか!?」
  痛いところを突かれ、ロイはそっと眼を伏せる。
  腕の中の猫エドをギュッと抱きしめるロイに、アルは
  ムッとしながら、ロイの腕から猫エドを奪う。
  「アルフォンス君!!」
  驚くロイに、アルはキッと睨みつける。
  「あなたに、猫を飼う資格はない!!この子は、ボクが
  ちゃんと面倒をみます!!」
  そのまま猫エドを抱いて走り去ろうとするアルの肩を、
  ロイは慌てて掴む。
  「落ち着きたまえ!アルフォンス君!」
  「落ち着け!?ボクはいつだって落ち着いています!!」
  アルはロイの腕を乱暴に振り払うと、猫エドを抱きしめる。
  「どうして、あなたはこの子の寂しい気持ちがわからない
  んですか?今日、この子は1人でうちまで来たんですよ!」
  その言葉に、ロイはショックで何も言えず、ただ黙って
  猫エドを見つめる。
  「エド・・・・・。寂しい思いをさせて・・・すまなかった。」
  そっと猫エドに触れようとして手を伸ばすが、アルが
  その手を叩く。
  「謝ればいいって訳ではないでしょ?軍人さんが、猫を
  飼える訳ないじゃないですか!!」
  アルの絶叫に、ロイの目が冷たく細められる。
  「軍人だから?軍人だと猫を飼ってはいけないのかね?」
  絶対零度の冷たさを放つロイに、アルは自分は決して
  言ってはいけない言葉を言ってしまったと、顔を青褪めるが、
  直ぐにここで負けてはいけないと思い直し、真っ向から
  ロイと対峙する。
  「軍人という職業柄、自宅に帰るのもままならないと聞いています。
  今は、姉さんが預かっています。でも、それだって何時までも
  姉さんが面倒を見れるわけがない。第一、姉さんはセントラルに
  行くんだから!そうなったら、この子は1人でお留守番ですか?
  それって、すごく可哀想じゃないですか!!」
  アルの絶叫に、ロイは眼を伏せると、静かに口を開く。
  「確かに、私は軍人だ。ひとたび事件が起きれば、何日も家を
  空けなければならないだろう。この子にも寂しい思いをさせると
  判っている。しかし・・・・私にはこの子が必要なんだ。」
  ロイはゆっくりと眼を猫エドへと向ける。
  「この子の存在が私を救ってくれる。」
  そこで言葉を切ると、ロイはアルをじっと見つめる。
  「・・・・エドに選ばせてやってくれ。この子が君を選ぶというなら、
  私は潔く諦めよう。」
  頼むとアルに頭を下げるロイに、見かねたようにホークアイがアルに
  声をかける。
  「アルフォンス君。確かに大佐は雨の日は無能な上に、仕事を溜める
  駄目駄目人間だわ。でも、猫エド君に対する愛情は、並々ならぬ
  ものがあるわ。・・・とりあえず一回、エド君に選ばせたらどうかしら?」
  褒めているのだか貶しているんだかわからない言葉だが、一応、
  ロイの援護に回るようだ。もっとも、ホークアイにしてみれば、
  可愛い弟分である、アルフォンスの望みの通りにしてあげたいという
  気持ちはあるが、そうなれば、今度は自分と猫エドとの接点が
  なくなってしまうという事実に、心の中でアルに謝りつつ、何とか
  猫エドをロイ元にいられるように、必死だ。どこまでも己の心に
  忠実なホークアイの言葉に乗せられる形で、アルは、渋々猫エドを
  地面に下ろすと、頭を撫でながら、言い聞かせる。
  「猫エド、君が一緒に住みたいと思う人の所に行くんだよ。ちなみに、
  ボクのうちにくれば、猫アルと一緒に暮らせるんだよ。」
  アルの猫アルの一言に、猫エドの耳がピクピク動く。それに慌てて
  ロイがアルに食って掛かる。
  「卑怯だぞ!アルフォンス君。」
  「卑怯?ボクはただ事実を言ったまでですよ?」
  ニヤリと笑うアルに、本当にコイツはエドの弟かと疑いたくなったロイだった。
  その証拠に、猫エドに猫じゃらしをチラつかせつつ、自分の方に誘導している。
  「・・・・フッ。そんなモノで釣らないと、エドに選んでもらえないとは、哀れだな。」
  「大佐、顔が引き攣っていますけど、大丈夫ですか?」
  ロイは、ホークアイのツッコミを軽く流すと、片膝をついて、猫エドに手を差し伸べる。
  「さぁ、エド、私と一緒に帰ろう。」
  ロイの一言に、猫エドはピクピクと耳を揺らすと、一目散にロイの元へ走った。
  「エド!!」
  自分の勝利を確信して、ロイが嬉しそうな顔で猫エドを抱き上げようとした。
  しかし、猫エドが向かった先は、ロイの後ろにいる、ホークアイだった。
  「まぁ、私を選んでくれたの?エド君!!」
  ニコニコと上機嫌なホークアイに、ロイは振り返ると眼を細めて、ホークアイが
  持っているものを凝視する。
  「中尉。その手に持っているのは何かね?」
  「そろそろエド君がお腹を空かせているのではと、おやつですが?」
  何を言っているのかと、ホークアイは猫エドに猫用のドーナツを
  食べさせながら答えた。
  「・・・・リザ姉さんの所に行ったってことは・・・・・。リザ姉さんの弟分である
  ボクの勝ちですね!!」
  嬉々として猫エドを抱こうとするアルに、負けじとロイは猫エドとアルの間に
  入って妨害する。
  「何を言う!ホークアイ中尉は私の部下だ。よって、私の勝ちだ!!」
  両者にらみ合う中、お腹一杯で満足した猫エドは、ふああああと、
  大きな欠伸をする。
  「ああ。エド。眠いのだね。さぁ、家に帰ろうか。」
  嬉々として猫エドを抱こうとするロイの額に、次の瞬間、ホークアイの
  銃がゴリゴリと押し付けられる。
  「大佐。今、帰るという言葉を聞いたのですが、私の気のせいですよね?」
  にっこり。
  ホークアイの笑みに、ロイはヒッと小さく悲鳴を上げる。
  「気のせいですね?」
  念を押すホークアイに、ロイは弱々しく反抗する。
  「いや・・・なに・・・エドが眠くなって可哀想だし・・・・・。」
  「仕事が山盛りなのに、帰る訳ありませんよね。私とした事が、失礼しました。」
  ロイの言葉を遮り、ホークアイは最後通告をする。
  仕事に戻るかここで死ぬか、二つに一つの選択を迫るホークアイを見ながら、
  アルは嬉々として、猫エドに手を伸ばす。
  「さぁ、ボクの家に帰ろうね〜。」
  そう言って、猫エドに触れようとするが、その前に、黒いものが、一瞬の隙に
  猫エドを奪う。
  「タイサ・・・・。どういうつもりなのかな?」
  真っ黒でオドロオドロしいオーラを出しながら、アルは犬のタイサに向かって、
  にっこりと笑う。そして、その心は、さっさと猫エドを放せ!なのだが、
  タイサは、我関せずとばかりに、猫エドを加えたまま、自宅の方へと歩き出す。
  「タイサ?」
  アルの言葉に、ロイは反応するが、アルは、ズンズン先を行くタイサの後を
  追うべく、走り出したため、ロイの疑問には、しぶしぶホークアイが答える。
  ロイが調子に乗る事が判っているから、本当は言いたくはないのだが、
  いずれはバレる事と、早々に腹を括る。
  「あの犬の名前です。」
  「ほう・・・。エディの愛犬の名前が【タイサ】なのか?」
  一瞬驚いて眼を見開いたロイは、視線を徐々に小さくなっていく犬に合わせる。
  「・・・・・私は期待してもいいのかね?エディ・・・・。」
  フフフフ・・・と不気味に笑う上官に、ホークアイはため息をつくと、銃をロイの
  後頭部に突きつける。
  「さぁ、エド君の無事が判ったのですから、さっさと司令部に戻って
  仕事をして下さい。」
  ガックリと肩を落としながら、トボトボと司令部に戻るロイの後姿を見ながら、
  ホークアイは深いため息をついた。
  この幸せボケをしている上官に、いかに仕事をさせるか考えると、頭の痛い
  事だった。



  そして、東方司令部に戻った二人に、新たな事件が
  待ち構えており、ホークアイは更に頭を悩ませる事となる。

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とりあえず、黒アルとロイの初対決は、引き分けってことで。
猫エドがタイサにお持ち帰りされている事に、ロイは全く気づいて
おりません。無能です。