Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
 
            第17話   衝撃の事実!?




     「何だと!!エディがトレインジャックの人質に!?」
     東方司令部に渋々戻ってみると、何故か司令部全体が
     慌しい。不思議に思って、丁度廊下を走ってきた
     ハボックを捕まえて事情を聞くと、イーストからセントラルへ
     向かう列車がトレインジャックに合って、現在、お忍びで
     列車に乗っていたキング・ブラッドレイ大総統と国家錬金術師
     トップのホーエンハイム・エルリック、そして、その愛娘である
     エドワード・エルリックを人質に、鉄橋の上で立て篭もっている
     と言うのだ。ロイはハボックの胸倉を掴むと、ガクガクと揺さぶる。
     「それで!!エディは!!エディは無事なのか!!」
     「いい加減にして下さい!大佐!!」
     取り乱すロイの後頭部を、ホークアイは手加減なしで、ポカリと
     叩く。
     「これが落ち着いていられるかっ!!ああ!!エディ!!」
     頭を抱えて座り込む駄目な上官に、さっさと見切りをつけたホークアイは、
     ハボックに詳しい説明を求める。
     「それで、犯人の要求は?他の乗客達は無事なのかしら?」
     ハボックは、ゲホゲホと咳き込みながらも、なんとか状況を説明する。
     「他の乗客乗員全て鉄橋に差し掛かる前に、解放されました。犯人
     グループは、”黒き疾風”と名乗っており・・・・・・。」
     「黒き疾風・・・・・?」
     その言葉に、ホークアイのこめかみがピクリと動く。自分の愛犬と
     同じ意味を持つテログループの名前に、ホークアイは静かに怒りを溜める。
     「ちゅ・・・中尉?」
     ドロドロと黒いオーラを放つホークアイの様子に、ハボックは犯人グループの
     末路を見て、心の中で同情した。
     「・・・・報告を続けて下さい。」
     ガシャンと弾を確認しているホークアイに、内心冷や汗をかきながら、
     報告を続ける。
     「犯人達からの要求はパターン通りで、リーダーと仲間の解放です。
     あ、あと、マスタング大佐にご指名がありますよ。なんでも、自分の奥さんが
     大佐のファンだそうで、怒り狂っているみたいです。ぶっ殺すと喚いている
     そうです。」
     その言葉に、ホークアイは、ギロリとロイを睨む。
     「あなたの、無駄に女性に優しい事によって、エドちゃんの身に危険が
     及んだのですね・・・・・・。」
     ガチャンと銃をロイに突きつける。
     「とりあえず、元凶を始末した方がいいかしら?」
     ニヤリと黒い笑みを浮かべるホークアイに、ロイは震え上がる。
     「お・・落ち着きたまえ・・・。中尉。不可抗力だ。」
     両手を挙げるロイに、一瞥すると、視線をハボックに戻す。
     「でも、変ね。何故エドワードちゃんは、大人しく人質になっているのかしら。」
     「それなんですよね〜。俺が引っかかっているのは。」
     あのエドなら、こんな大事になる前に、テロリスト達を全員捕らえている
     はずだ。だが、エドの実力を知らないロイは、違う事を思いついたようだ。
     「そうだ!おかしい!!あの大総統が大人しく人質になっているなんて!!」
     急に叫びだしたロイを、ホークアイとハボックは驚いて見る。
     だが、ロイは2人に気にかける事無く、自分の考えに没頭する。
     「あの人なら、テロリストを捕まえる事など、簡単な事だろうに・・・・・何故だ?
     しかも、国家錬金術師トップのホーエンハイム氏までいるというのに!!」
     ロイの言葉に、ハボックは、ああと合点が言ったような声を出す。
     「そうか。大総統もいるんじゃ、ホーエンハイムおじさんは暢気にお茶でも
     飲んで、寛いでいるとか?」
     ハハハ・・・と乾いた笑いをするハボックに、ロイの眉が顰められる。
     「どういうことだ?」
     国家錬金術師のトップに君臨しているホーエンハイムと大総統である
     ブラッドレイは面識があるだろう。しかし、この場合、何故2人は
     寛いでいるという結論に達するのか、ロイには不思議だった。
     「大佐、知らないッスか?大総統とホーエンハイムおじさんは、大親友で、
     昔から家族ぐるみの付き合いをしているんですよ?」
     逆にハボックに問われて、ロイは唖然となる。
     「大親友!?知らんぞ!そんな話!!」
     驚くロイに、ホークアイまでもが呆れた顔をする。顔には、デカデカと、
     【この無能!!】と書かれている。
     「大佐、この話は、軍の中では有名ですよ?」
     「軍の中でも!?それは本当かね!!」
     身内である自分ですら知らなかった事が、軍の中では有名である事を
     知り、ロイはショックを隠しきれない。
     「じゃあ、この話も知りませんか?大総統と光のホーエンハイムは、
     面白い事をトコトン楽しむ性格だと。おかげで、周りの人間が苦労するって
     話ですが。」
     つまり、今回の事件に関して、大総統とホーエンハイムの2人は
     面白がって、あえて手を出さないのではと、ハボックは言う。
     「そんな理由で・・・・・もしも、エディに何かあったら、消し炭にしてやる!!」
     2人の遊びに付き合わされたエドを思い、ロイは憤慨する。きっと今頃は、
     心細くて泣いているのではと、勝手に妄想を膨らませていく。
     「でも、エドワードちゃんは大総統の大のお気に入りですから、危険な
     目に合わないと思いますよ。しかも、娘を激愛する父親もいることですし。」
     きっとエドちゃんに指一本でも触れれば、大総統とホーエンハムは、
     犯人をボコボコにするわね。
     そんなホークアイの爆弾発言に、ロイは驚く。
     「エディが大総統の大のお気に入り?」
     ロイの疑問に、ハボックが答える。
     「何でも、お子さんのいない大総統夫妻は、昔からエドを実の子どものように
     可愛がっているそうですが・・・・・本当に知らなかったんですか?」
     アンタ、仮にも大総統の甥だろ?と不審な目を向けるハボックに、ロイは
     茫然と呟いた。
     「知らなかった・・・・・。くそっ!!もっと早く知っていれば!!」
     ロイは頭を掻き毟る。
     もっと早く知っていれば、自分はエドが物心つく前から、甘やかし、自分以外を
     見ないように、あらゆる手を尽くしたのに!!と、ロイは悔しがる。
     「こんな事なら、頻繁に大総統の所に出入りしておけば良かった!!まてよ!
     伯母はヒューズも真っ青な写真好きだ・・・・・。大総統邸には、エディの貴重な
     お宝写真が!!」
     今すぐにでも大総統邸に襲撃して、エドの写真を強奪しようとするロイに、
     ホークアイは銃を向ける。
     「大佐。エドワードちゃんを見捨てるつもりですか?写真は逃げません。
     後で、写真を東方司令部に郵送してもらえば良いではありませんか。」
     最も、ロイの手に入る前に、ホークアイはその写真を手に入れようと、
     素早く頭の中で計算する。仕事が滞る度に、写真をちらつかせて、
     出来なければ、自分のものにする。どう転んでも、自分に有利に
     なると、ホークアイは内心ほくそ笑む。
     「そ・・・そうだった!!エディを助けなければ!!」
     ロイはハッと我に返ると、最新の情報を得ようと、司令室へと走り出した。
     






     「さあ、エドちゃん。これは、最近セントラルで人気がある、お菓子なんだよ。」
     おいしいかい?とニコやかに微笑みながら、ブラッドレイは、エドに
     お菓子を勧める。エドは、小さな口を一生懸命動かしながら、ブラッドレイに
     微笑みかける。
     「うん!とっても!!ありがとう。キングおじさん。」
     「ほら、エド。頬に食べかすがついているぞ。」
     ホーエンハイムは、ニコニコと嬉しそうな顔でお菓子を食べている愛娘を、
     幸せそうに見つめながら、エドの頬についた食べかすを取ってやる。
     イーストシティからセントラルへ向かう列車の中で偶然出会ったブラッドレイと
     エルリック親子は、ブラッドレイが取った、特別車両の中で、優雅にお茶会を
     開いていた。
     「お前ら!!人質という自覚はねぇのかぁああああああ!!」
     そんな三人に、先程エドの肩に手を触れたと、ブラッドレイとホーエンハイムの
     2人から、ボコボコにされたテロリスト達の絶叫が、響き渡った。




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ブラッドレイとホーエンハイムにとって、テロリスト達は自分達の玩具です。
面白ければ、全てOKってことで。