Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 

               第18話   姫君救出




    「ところでさ・・・・。何であんた達、こんな事をしているんだ?」
    ふとお菓子を食べる手を止めて、エドは小首を傾げながら、
    首謀者と思われる男に、話しかける。その愛らしい姿に、
    男が思わず見とれていると、ホーエンハイムの目がキラリと
    光る。
    「貴様・・・・・私のエドワードを見つめたな・・・・。さては、
    エドワードに懸想しているな!!」
    ユラリと椅子から立ち上がるホーエンハイムに続き、ブラッドレイまでも
    手に剣を持って立ち上がる。
    「私の目の黒いうちに、エドちゃんに指一本触れさせん。」
    「ひえええええええ!!お許しを!!」
    先程、ボコボコにされた恐怖を思い出し、男は土下座をして
    許しを請う。
    「父さん!キングおじさん!!何言ってんだよ!!」
    エドは真っ赤になると、男に申し訳なさそうに謝る。
    「ごめんな。2人が暴走して・・・・・。」
    「いえ!!私どもがいけないのです!!」
    男は、ズボンのポケットからハンカチを取り出すと、これまでの
    経緯を涙ながらに語った。
    男は、元々イーストシティに奥さんと2人で住んでいたらしい。
    それがここ数ヶ月の間に、奥さんが妙に余所余所しくなり、
    問い詰めたところ、ロイに一目惚れしたことが分かったのである。
    話を聞くと、いつも行くオープンカフェでお茶を飲んでいると、必ず
    ロイから熱い視線を受けると、夢見がちな目でうっとりと
    告白する妻に、男はカッとして大喧嘩をした挙句、妻に
    逃げられ、日々無気力に過ごしていた。そんな中、出逢ったのが、
    今回釈放を要求している、【黒き疾風】のリーダーだった。
    男は、テロという生きがいを与えてくれた恩を返すために、
    このトレインジャックを決行したと、涙ながらに訴えた。
    ついでに、自分の人生を壊したロイへの復讐も入っている
    らしい。その男の言葉に、エドは少なからずショックを受けていた。
    (そんな・・・・リザ姉がいるのに・・・・人妻にまで・・・・・。)
    「あのマスタングという男だけは許せん!どうせ、顔がいいから
    女をアクセサリーの一つとしか思っていないんだ!!」
    吼える男に、エドはぶち切れる。
    「なんだよ!!マスタング大佐の事、何にも知らないくせに!!」
    脳裏に浮かぶのは、いつも優しい笑みを浮かべているロイの姿。
    もうエドの中には、ロイがホークアイを捨ててお見合いをするとか、
    人妻に手を出したという事柄が、スッポリと抜け出ていた。
    目の前にいる、ロイを悪く言う人を許せない。ただ、それだけだった。
    「エド?」
    「エドちゃん!?」
    だが、ここにはエドを激愛している父親であるホーエンハイムと
    その大親友のキング・ブラッドレイがいた。いきなり怒り出した
    エドに、2人は困惑を隠しきれない。だが、そんな2人の様子など
    まるで目に入っていないエドは、男に向かって怒り出した。
    「大佐は、人の心を弄ぶような人間じゃない!!」
    ハァハァと肩で息を整えるエドに、最初は呆気に取られていた男だった
    が、不機嫌そうに顔を歪ませる。
    「なんだ。お前もあの男に騙されているのか?いいかい。お嬢ちゃん。
    男は顔じゃねえ。ここ。」
    男は、自分の心臓を親指で指差す。
    「心が大事なんだよ。わかったか?」
    その言葉に、エドは更にむかつく。
    「そうだよ!心だよ!!大佐は傷付きやすい人間なんだ!!そんな人間が
    人を傷つけて平気な訳ない!!」
    「この女・・・!!」
    食って掛かるエドに、男は頭に血が上ったのか、怒りに任せてエドの
    胸倉を掴むと、いきなり殴りつけた。いきなりの事に、上手く受身が取れ
    なかったエドは、後ろによろけたのだが、、運が悪い事に、倒れこんだ先に
    テーブルがあり、その角に思いっきり身体を打ち付けて、呻き声を
    あげながら、床に転がった。
    「エド!!」
    「エドちゃん!!」
    ゴボッと口から血を流すエドに、ホーエンハイムとブラッドレイの怒りは
    頂点に達する。
    「貴様!!よくも私の大事な大事な大事な娘を〜!!!」
    「許さんぞ!貴様!!生きてここから出られると思うな!!」
    ホーエンハイムとブラッドレイが敵に切り込もうとした瞬間、背後の
    扉が爆音と共に吹き飛んだ。
    「!!」
    全員が扉に注目する中、煙の中から、1人の男が必死の形相で、駆け込んできた。
    噂の人物、ロイ・マスタング、その人である。
    「ロイ!?」
    驚くブラッドレイを気にも留めずに、ロイはエドが血を吐いて床に倒れている
    事に気づくと、惚けているホーエンハイムとブラッドレイを押しのけるように
    エドに駆け寄ると、慌てて抱き起こす。
    「エディ!!エディ!しっかりするんだ!!」
    泣きそうになりながら、必死にエドに呼びかけるロイに、エドがうっすらと
    目を開ける。
    「大佐・・・・?」
    「エディ!!気がついたんだね!一体、誰が君にこんな事を!!」
    ギュッとエドの身体を抱きしめるロイに、エドは弱々しく呟く。
    「マスタング・・・大・・・・佐・・・・。おねが・・・い・・・・・。」
    「エディ!喋るな!今医者に連れて行くから!!」
    ポロポロと涙を流すロイの顔に触れようと、エドはゆっくりと手を伸ばす。
    その手をきつく握るロイに、エドは悲しそうに顔を歪ませる。
    「おねが・・い・・・・。お見合い・・・なんて・・・しない・・・で・・・・・。」
    「エディ!?」
    そのまま、ゆっくりと目を閉じるエドに、ロイは慌ててエドを抱き上げた時、
    ホークアイも切羽詰った顔で車両の中に駆け込んできた。
    「エドちゃん!無事なの!!」
    だが、口元に血の跡があり、ロイの腕の中で目を閉じているエドに気づき、
    ホークアイの怒りは最高潮に達すると、部屋の隅にいるテロリスト集団に
    向かって、発砲する。
    「エドワードちゃんをこんな目に合わせたのは誰!!」
    凛とした声が辺りに響き渡る。その声に、全員がエドを傷つけた男を
    見る。全員の注目を浴び、怯える男に、ホークアイは壮絶なまでの
    笑みを浮かべる。
    「そう・・・・。あなたなの・・・・・。」
    フフフ・・・とゆっくりと男に銃を向けるホークアイに、ロイは指示を出す。
    「私はエディを病院に運ぶ。後は任せた。それから、エディに怪我を
    負わせた男は、私の分まで取っておくように。」
    ロイは言うだけ言うと、エディを抱き上げたまま、外に飛び出していった。
    「お・・・おい。」
    「ああ・・・・私たちも追うぞ!」
    ロイの姿が見えなくなった頃、漸く我に返ったホーエンハイムとブラッドレイは、
    慌ててロイの後を追うべく、駆け出した。




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エド子流血!?