Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 第19話 暴かれた真実 「先生!!エディは!!具合は!!」 処置室から病室へと運ばれるエドの後に続いて出てきた医師に、 廊下で待っていたロイは、慌てて詰め寄る。 「お・・落ち着いて下さい。患者さんは大丈夫ですから!!」 「しかし!血を吐いて!!」 青褪めた表情のロイに、医師は安心させるように微笑んだ。 「大丈夫です。倒れこんだ時に、口の中を切ったので、血が 出ただけです。見た目ほど深い傷ではありません。」 医師の言葉に、ホッと安堵しつつ、それでも心配そうな顔で 病室へ運ばれていくエドを目で追うロイに、医師は言葉を 繋げる。 「あと、少し寝不足のようですね。」 その言葉に、ロイはふとアルの言葉を思い出す。 (そう言えば、アルフォンス君が、エディに何かショックなことが あったと・・・・・。) そして、脳裏に思い浮かぶのは、己の腕の中で気を失う直前に お見合いをしないでと呟いたエドの言葉。 (まさか、エディは、私がお見合いをすると知って!!) 多分、ブラッドレイの親友である父親からでも、噂で聞いたのだろう。 (なんてことだ!!エディを不安にさせるとは・・・!!) こうしてはいられない。 ロイはエドを今すぐ抱きしめたくて、慌てて病室へと向かおうと、 走り出そうとした時、背後から地を這うような、低い声が聞こえた。 「・・・・どこへ行く気だ?ロイ・マスタング・・・・・・。」 その声にロイが振り返ると、背後に焔を背負った、ホーエンハイムが 怒りの形相で立っていた。 「ホーエンハイム・・・・さん・・。」 ロイも国家錬金術師。査定などで何度か顔を合わせている為、 ホーエンハイムの顔を知っていた。が、こんなに怒りの形相の ホーエンハイムを見るのは初めてだった。普段、のほほんとした 掴み所のない、のんびりとした表情しか知らなかったロイは、 思わず後ろに一歩下がる。 「き〜さ〜ま〜、私のエドに、一体何をぉおおオオ!?」 ロイに飛び掛ろうとするホーエンハイムだったが、次の瞬間、 いきなり前に顔面から倒れ込む。しかも、後頭部には、でっかい コブまでついているという、オマケ付きだ。 「ホーエンハイムさん!?」 驚くロイに、場違いなほど明るい声で声がかけられる。 「大総統!?」 ふと顔を上げると、にこやかに微笑むキング・ブラッドレイの姿が あった。手には鞘に入ったままの剣が握られており、どうやら ホーエンハイムを昏倒させたのは、ブラッドレイのようだ。 唖然となる医師に、ホーエンハイムの手当てを頼むと、ブラッドレイは、 ロイに向かってニッコリと微笑む。 「マスタング大佐。すこ〜し、事情を聞きたいのだが・・・・いいな?」 ギロリン。だいぶ機嫌を損ねているブラッドレイに、ロイも丁度良いと ばかりに、大きく頷く。エドをみすみす傷付けられたのを、黙って 見ていたブラッドレイに対して、ロイは内心怒りに満ちていた のだった。 ブラッドレイに促されるまま、ロイは屋上へと歩き出した。 幸いにも、屋上には誰もいなかったのを良い事に、扉に鍵を掛けると、 ブラッドレイは、鋭い視線をロイに向ける。だが、怒りに我を忘れている ロイは、開口一番、ブラッドレイを詰る。 「伯父さん、何故さっさとテロリスト達を捕らえなかったのですか!!」 ぐったりとなったエドの様子を思い出し、ロイはギリリとブラッドレイを 睨み付ける。それに対して、ブラッドレイはどこまでも静かにロイを 見つめている。そのあまりの静かさが、ブラッドレイの怒りのマックス 状態を示しているのだが、頭に上ったロイは気づかない。尚も ブラッドレイを罵ろうと口を開きかけたところに、ブラッドレイは漸く 言葉を発する。 「今回の事件は、全てお前の責任だ。」 その言葉に、ロイは眉を顰める。 「どういうことです?」 「・・・・私は人の恋愛にとやかく口を挟む趣味はない。が、お前のは、 あまりにも酷すぎる!!人妻に手を出しおって!!」 ブラッドレイの言葉に、ロイは驚いて茫然となる。それを肯定と受け取った ブラッドレイは、ロイに冷ややかな目を向ける。 「ふん。お前がそんな男だったとは、見損なったぞ!ロイ!!それなのに、 エドちゃんは、お前を庇って怪我を・・・・・。」 怒り心頭のブラッドレイに、ロイは慌てて詰め寄る。 「どういうことです!!エディの怪我は一体!!」 「お前が人妻に手を出して、怒った夫が今回の事件を引き起こした。 お前を擁護して犯人と口論したばっかりに、エドちゃんは、犯人に殴られた んだぞ!!」 「ちょっと待ってください!!さっきから人が黙って聞いていれば、 聞き捨てならない事を!!一体、いつ私が人妻に手を出したと言うんですか!!」 確かに、エドと出会う前は、来るもの拒まぬ主義の為、女性関係は派手 だった。しかし、その頃でも、人妻にだけは決して手を出した事がない。 一体、何を根拠にそんな事を言うのかと、ロイはブラッドレイを睨みつける。 「お前、イーストシティのオープンカフェでお茶を飲んでいた女性を、熱い瞳で いつも見つめていたそうじゃないか。彼女は人妻だったんだよ。」 ブラッドレイの言葉に、ロイは首を傾げる。 「オープンカフェ?熱い視線・・・?」 何の事を言っているんだという目を向けるロイに、ブラッドレイは、おや?と 思った。 「心当たりがないというのか?」 訝しげなブラッドレイに、ロイは暫く考え込んでいたが、やがてハッと顔色を 変えた。 「違う!誤解だ!!私が見ていたのは、エディだっ!!」 その言葉に、ブラッドレイはピクリと眉を上げる。 「エディ・・・?エディというのは、まさかと思うが、ホーエンハイムの娘の、 エドワード・エルリック嬢のことかね?」 長い間、実の娘と思うほど可愛がっていたエドを、この目の前の甥は、 ストーカーをしていたのかと、内心怒りに震えていた。 「・・・・・一目惚れなんです・・・。」 ロイがふと表情を和らげると、ポツリと呟いた。 「ある事件をきっかけに、エディと出会ったんです。彼女のおかげで、 犯人を捕らえる事が出来たのですが、それ以降、親しく話す機会に 恵まれなくて・・・・・・。」 オープンカフェで彼女の姿を見ることだけが、幸せでしたと、 頬を紅く染めて俯くロイを、ブラッドレイは信じられないものを見たという 顔をした。まるで初恋をした少年のようなロイの顔に、ブラッドレイは、 アングリと口を開けて驚く。 「それで、ストーカーを・・・・。」 ブラッドレイの言葉に、ロイはムッとする。 「違います。すれ違うたった10秒間の間、見ていただけです。犯罪は 犯してはおりません!!」 そこで咳払いをすると、ロイは真剣な目でブラッドレイを見つめる。 「私の猫が怪我をした件はご存知ですね。その時エドを助けてくれたのが、 エディだったのです。」 エドを間に、親しくなれたと、嬉しそうにロイは言葉を繋げる。 「伯父さん。私は真剣にエドワードを愛しています。」 ロイは急に真顔になると、ブラッドレイを見つめる。 「お願いです。今回のお見合いの件をなかった事にして下さい!!」 頭を下げるロイに、ブラッドレイは、腕を組んで渋い顔をする。 「大総統自らの縁談を断った事に対して、何年でも謹慎します。場合に よっては、軍を辞めてもいい。しかし、私はエディを諦めることは出来ない んです!!」 お願いしますと叫ぶロイに、ブラッドレイは、ため息をつく。 「お前とジョシーのお見合いは、ただの暇つぶし、もとい、ついでだったのだよ。」 「・・・・ついで?」 困惑するロイに、ブラッドレイは、コホンと咳払いをする。 「私とクレアには、子どもがいないだろ?長い間、エドワードちゃんを実の子どもの ように可愛がっていたのだよ。しかし、いくら可愛がっても、実際血が繋がって いるわけではない。エドワードちゃんと結婚する奴の一族に、可愛い エドワードちゃんが取られてしまうのが、本当に悲しいのだよ。」 何故、そこにエドワードの名前が出るのか、ロイはますます訝しげにブラッドレイを 見る。 「そこでだ!エドワードちゃんをどこかの馬の骨に取られる前に、私たちの身内の 1人と結婚させてしまえば、いいと結論付けたという訳なのだよ!そこで、 白羽の矢に当たったのが、ライだ。」 その言葉に、ロイの顔から表情が消える。 「・・・・ライ?」 「ああ。ライに縁談を持ってって、双子の弟であるお前に持っていかないのは、 流石に可哀想に思ってな。適当に捜したら、ジョシーがいいのではと・・・・。」 ブラッドレイは、そこでロイがゆっくりと発火布の手袋を嵌めている事に気づき、 言葉を切る。 「どうして・・・・・・。」 「ロイ?どうした・・・?」 流石のブラッドレイも、本気で怒っているロイに、一歩後ろに下がる。 「どうして、ライなんですか・・・・。どうして!エディのお見合いの相手が私では ないんですかっ!!」 「そ・・・それは仕方がないことだったんだ!!」 ロイは目を細める。 「仕方がない?」 ブラッドレイは頷く。 「ホーエンハイムの奥方のトリシャの姉君を知っているかね?」 「お名前だけなら。」 ロイの言葉に、ブラッドレイは深いため息をつく。 「イズミさんは、大の軍人嫌いで、しかも、国家錬金術師に殊の外嫌悪を 抱いている。そこで、軍人で、国家錬金術師でもあるお前より、写真家の ライの方が上手く行く可能性があるのではと・・・・・・。それに、根無し草の 旅を続けているライならば、何だかんだと理由をつけて、エドワードちゃんだけを 私たちで引き取れるのではと思ったのだが・・・・・。」 「・・・・本人の意志は無視ですか。」 醒めた目のロイに、ブラッドレイは踏ん反り返る。 「エドワードちゃんと一緒に暮らしたかったのだよ!!」 「そういう魂胆だったのか!!キング!!」 ロイの背後で練成の光が光った瞬間、バンと音を立てて扉が開かれた。 そこには、頭に包帯をグルグルに巻いたホーエンハイムが、不気味な笑みを 浮かべて立っていた。 ******************************** 以前、名前だけ出てきたライさんの正体は、ロイの双子の兄でした。 (覚えてくれている方が、一体何人いらっしゃるか・・・・・。) パターン通りのものしか書けない自分が悲しい・・・・・。 |