Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 第20話 ゆずれない願い 「おお!ホーエンハイム!!我が真の友よ!!」 ホーエンハイムの本気の怒りに、ブラッドレイは 慌てて取り繕うように笑う。 「怪我の具合はどうかね?あまり無理をするものでは ないよ。さて、私も忙しい身の上だ。そろそろ失礼 させてもらうよ。」 そそくさと逃げようとするブラッドレイを、ホーエンハイムは 視線だけで動きを止めさせる。 「全て聞かせてもらったよ。キング・・・・。」 フフフ・・・・と、ホーエンハイムは笑いながら、ブラッドレイに 一歩近づく。 「どうも、エドをセントラルに呼び寄せるのを、私に勧めると 思ったら・・・・・そういう事だったのか・・・・。」 ユラリとホーエンハイムの背後で、陽炎が舞う。そして、 ギロリと横目でロイを睨みながら、ブラッドレイと対峙する。 「キング!はっきりと言っておく!!私のエドは、 絶対絶対絶対絶対に嫁に出さないと決めているんだ!! ましてや、こんなロリコン男など論外だっ!!」 「お前がそれを言うのか?お前とトリシャは20歳も 違うではないか。ロイとエドちゃんは14歳差だぞ?」 全く〜ホーさんったら、我侭なんだから〜と、ブラッドレイは クネクネと身体を揺らしながら笑う。その言葉に、ホーエンハイムの 怒りが爆発する。 「煩い!あの時のトリシャは、20歳だった!!立派な大人だ!! エドはまだ15歳だぞ!未成年だぞ!!コイツは立派なロリコンだ! 私と一緒にするな!!」 叫ぶホーエンハイムに、ロイが食って掛かる。 「お待ち下さい。私はエドワードだから愛しているんです!!決して ロリコンではない!!」 その言葉に、ホーエンハイムはニッコリと微笑む。 「ほう?私に逆らうか?国家錬金術師の資格を剥奪するぞ。」 脅しをかけるホーエンハイムに、ロイも負けじとニッコリと微笑む。 「どうぞ。ご自由に。国家錬金術師の資格がなくとも、私が 大総統の地位につけば、何の問題もありません。」 その言葉に、ブラッドレイは目を見開く。 「お前、そんな大それた野望を・・・・・。私はお前をそんな風に育てた 覚えはないぞ。」 「・・・・育てられた覚えもありませんが。伯父さん、いい加減私を 玩具にして遊ぶのは止めて下さい。今、真剣な話をしているんです!!」 ロイに一喝され、ブラッドレイは、頬を膨らませると、不貞腐れたように、 しゃがみ込んで、指でコンクリートの床にのの字を書く。 「ひどいぞ・・・。ロイ・・・。折角、場の雰囲気を和ませようとしたのに・・・。」 クスンクスンと芝居がかったブラッドレイの愚痴に、ロイのイライラは 最高潮に高まる。 「いいから!茶化さないで下さい!!」 ロイは咳払いをすると、真剣な顔でホーエンハイムを見つめる。 「お父さん。私は真剣にエドワードを愛しています。お願いです。エドワードを 私に下さい!!」 頭を下げるロイに、ホーエンハイムは壮絶に微笑む。 「い・や・だ!」 「お願いします!」 「お・こ・と・わ・り!」 ベーッと舌を出すホーエンハイムに、ロイはゆっくり身体を起こす。 「・・・・理由をお聞かせ下さい。」 ロイの真剣な表情に、ホーエンハイムも真剣な顔になる。 「・・・・私はトリシャの泣き顔を、見たくないのだよ。」 「・・・奥様の・・・ですか?」 眉を顰めるロイに、ホーエンハイムは悲しそうな顔をする。 「イズミさんが軍人、とりわけ国家錬金術師を嫌っているのは、 私のせいなのだよ。20歳も年上の男と可愛い妹が結婚した のが、許せないのだ。」 ホーエンハイムは、そこで言葉を切ると、ロイをじっと見つめた。 「トリシャと結婚する時、私とイズミさんはかなり大喧嘩をした。 それに一番心を痛めたのはトリシャだ。その時に、私は誓った。 二度とトリシャに悲しい想いはさせないと。軍人で国家錬金術師。 おまけに、君とエドの年の差で、イズミさんは、絶対に君とエドの 仲を認めないだろう。またあの時のような騒動が起こる。そして、 トリシャと、エドまでが悲しい思いをする。夫として、父としても、 騒動が起こると分かっていて、君を認める訳にはいかん。」 ホーエンハイムの言葉を静かに聞いていたロイは、じっと ホーエンハイムの顔を見つめる。 「あなたは、奥様とご結婚されて、後悔されているのでしょうか?」 「何を馬鹿な事を、幸せに決まっているではないかっ!!」 憤慨するホーエンハイムに、ロイは更に質問を投げかける。 「奥様は、あなたとご結婚されて、不幸せだったとお思いですか?」 「そんな事はない!トリシャはいつも幸せだと言ってくれる!!」 ホーエンハイムの言葉に、ロイはニッコリと笑う。 「ならば、問題はありませんね。要は、本人同士の気持ちの問題です。」 ロイは真顔になると、頭を下げる。 「私は必ずエディを幸せにするとお約束します!ですから!!」 「あのな・・・ロイ。ちょっといいか?」 またしても、ブラッドレイの邪魔に、ロイはイライラしながらギロリと睨みながら ブラッドレイを振り返る。 「ホーエンハイムにエドちゃんとの結婚の了承を取る前に、やることが あるのではないのか?」 「やる・・・こと?」 眉を顰めるロイに、ブラッドレイは、ため息をつく。 「エドちゃんの気持ちはどうなんだ?お前、エドちゃんに告白すら していないのではないのか?」 その言葉に、ロイは真っ青な顔で、ホーエンハイムを押しのけて、 屋上から駆け出して行く。 「エ・・・エディ〜〜〜〜〜〜〜!!」 ロイの絶叫を聞きながら、ブラッドレイは、ホーエンハイムを見る。 「女の子は、父親と同じような男に嫁ぐそうだぞ?」 「ふん!私の若い頃は、あいつよりも、格好良かったぞ!!」 不貞腐れて横を向くホーエンハイムの肩を、ブラッドレイは、笑いながら 叩いた。 「エディ!!」 「大佐!お静かに!!」 ロイが息を切らせてエドのいる病室に駆け込むと、既に着替えを済ました エドと、ホークアイとハボックの三人が、楽しそうに談笑していた。 「ああ・・・すまない。エディ。大丈夫か?どこか痛いところは・・・・。」 ロイが心配そうにエドに近づくと、エドはサッと表情を曇らせる。 「エディ?」 訝しげなロイに、エドは意を決したような、思いつめた顔でじっとロイを 見つめると、口を開く。 「あの・・・お見合いの事・・・・・。」 不安そうなエドに、ロイは嬉しそうな顔で微笑む。 「心配しなくてもいい。お見合いなどしないよ。」 そう言って、エドを抱きしめようとするが、エドは嬉しそうに笑って、 ホークアイに抱きつく。 「良かったね!リザ姉!マスタング大佐、お見合いしないって!!」 「エドちゃん?お見合い?何の話?」 だが、エドは興奮して、ホークアイの手をギュッと握る。 「だって2人は付き合っているんだろ?」 今朝ホークアイを見かけた時、酷く落ち込んでいたようだったから、 てっきりロイのお見合い話が原因だと思ったというエドに、ロイと ホークアイは同時に叫んだ。 「「誤解だ(です)!!」」 「ほにゃ?」 ずずっと、ロイとホークアイの両方から詰め寄られて、エドは思わず引く。 「ああ!エディ!そんな恐ろしい誤解をしないでくれ!!」 ぎゅううっと、ロイがエドを抱きしめると、ホークアイがロイを蹴飛ばして、 エドから引き離す。そして、うるうると潤んだ瞳でじっとエドを見つめると、 エドの両手をギュッと握り締める。 「エドちゃん!それは誤解よ!私がこんな無能と付き合う訳ないわ!!」 「え・・・でも・・・・。エド君をリザ姉がいつも預かっているんでしょ?」 困惑するエドに、ホークアイは、だからエドの様子がおかしかったのかと、 漸く気づいた。 「エドちゃん。私がエド君を預かったのは、軍の中で生き物をちゃんと 面倒を見れるのが、私しかいないからなのよ。」 「ふえ?そう・・・なの・・・?」 首を傾げるエドに、それまで茫然と成り行きを見守っていたハボックが、 頭をガシガシさせながら、上司の為にエドの誤解を解くために、 口を開く。 「そうだぞ。軍の人間のほぼ全員、独身寮に住んでいて、寮は生き物が 飼えないんだよ。それに・・・・・。」 ハボックはニヤリと笑うと、ホークアイの肩を抱き寄せる。 「中尉と付き合っているのは、大佐じゃなくって、オレだから。」 「ほえええええええええええ!!そうなの!ジャン兄!!」 驚くエドに、ホークアイもニコニコ笑う。 「ええ。本当よ。」 「うわあああ〜。いつの間に!?ほにゃあ!!」 嬉々としてホークアイとハボックの付き合うきっかけを聞こうと、目を 輝かせていたエドだったが、いきなり後ろから抱きつかれて、エドは 驚いて声を上げる。 「エディ・・・・。誤解は解けたかい?」 抱きついたのは、復活したロイだった。ロイはさり気なくエドを自分の腕の 中に抱きしめると、そっと耳元で囁く。いきなりのロイの行動に、エドが 真っ赤になって身体を硬直させるのと、ホークアイの怒りの枕攻撃は 一緒だった。 「大佐!時と場所を考えて下さい!!」 大丈夫?とホークアイはエドの身体を抱きしめる。 「中尉!少尉!命令だ!暫く外に出ていたまえ!」 顔面を思いっきり枕で強打され、後ろに倒れこんだロイは、怒りながら、 ホークアイとハボックに退室を命じる。 「大佐。エドワードちゃんは、テロ騒動で疲れています。お話は後日に なさってください。」 大切な妹分とこの無能な上官を2人っきりにさせまいと、中尉は、 エドをベットに横たわらせると、ギロリと睨む。 「大事な話だ。」 「後にして下さい!!」 両者一歩も譲らず。 険悪な2人の雰囲気に、エドが縋るようにハボックを見たのと、 いきなりドアが開いたのは、同時だった。 「静かにしなさい!!ここは、病院ですよ!!」 バンと荒々しく病室に入ってきたのは、アームストロング少佐の実の 姉ではないかと思うような、そっくりな婦長だった。 婦長は、ズンズンと近づくと、固まっているロイとホークアイの襟首を 掴んで、ポイッと病室の外に放り投げる。 「・・・・面会時間は、とっくに終了です。」 「す・・・すんません。直ぐに帰ります。じゃあ、明日な!エド!!」 ギロリと横目で睨まれ、ハボックは乾いた笑みを浮かべながら、 エドに手を振ると、そそくさと、病室から出て行く。 「・・・騒いでしまってすみません・・・・。」 1人取り残されたエドは、シュンと頭を下げる。 「いえ。話は聞いたわ。人質で辛い思いをしたのね。明日には、 退院できるから、がんばるのよ!」 「うぎゃああああああああ!!」 そう言って、婦長にむぎゅ〜と抱きしめられて、エドの絶叫が病院内を 駆け巡った。 「・・・そっか。リザ姉とマスタング大佐は付き合ってなかったのか・・・。」 就寝時間、明かりの消えた病室で、エドは頬を紅く染めながら、 闇に浮かび上がる月を見上げた。 「想うだけなら・・・・まだいいよ・・・・ね?」 エドは、先程ロイを直撃した枕を、抱きしめながら、そっと目を閉じた。 ******************************** やっとエド子の誤解が解けました〜。さて、次回はいよいよタイサと猫エドの お話です。感想を送ってくださると、とても励みになります〜。 |