Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 第22話 仁義なき戦い 「エディ!!退院おめでとう!!」 エドワードが一歩病院から出た途端、視界一面に 赤色で覆い尽くされた。 「えっ!?何!?」 慌てて一歩下がると、目の前には、大量の真っ赤な 薔薇の花束を手に、ロイが嬉しそうに立っていた。 「マスタング大佐!?」 唖然となるエドに、ロイは花束ごとエドを抱きしめた。 「良かったよ。君が無事で。」 人質になったと聞かされて、生きた心地がしなかったと 言うロイに、エドはふと犯人の言葉を思い出し、 悲しそうな顔で目を伏せる。 「あの・・さ・・・マスタング大佐の好きな人って・・・ 人妻・・・・・。」 「エディ。君は誤解している。あの犯人の奥方と 私は何の関係もない。全て向こうの誤解なのだよ。」 エドの言葉を遮ると、ロイは懐から手紙を取り出す。 「あの犯人も誤解が解けて、君にとても済まながっていた よ。これは、お詫びの手紙だそうだ。」 そう言って、差し出したのは、実は早朝ロイが犯人を脅して 書かせた謝罪文だった。何とか犯人の妻を探し出した ロイは、2人の誤解を解くと、エドの誤解を解くべく、犯人に 謝罪文を書かせたのだった。だが、そんな事とは知らないエドは 犯人の手紙を読んで、誤解ですれ違ったが、今後夫婦仲良く 暮らすという一文に、自分の事のように、素直に喜んだ。 「良かった!!」 「すまなかった。誤解とは言え、私のせいで君に怪我をさせて しまって・・・・・。」 そう言って、エドの身体を優しく抱き寄せるロイに、エドは 真っ赤な顔で首を横に振る。 「別にマスタング大佐のせいでは・・・・・。」 「いーや!!ぜーんぶ、100%、コイツが悪い!!」 パコーンという音と共に、ロイの額に、何かがぶち当たる。 良く見ると、病院の待合室に備え付けてある、灰皿が 倒れているロイのすぐ近くの地面に落ちていた。 「マスタング大佐!?」 倒れているロイに駆け寄ろうとしたエドだったが、その前に、 後ろから肩を掴まれる。 「さぁ、会計も終わったし、帰ろうか♪エド!」 ニコニコと笑っているのは、父親のホーエンハイム。ホーエンハイムは エドの肩を引き寄せると、ロイを無視して、歩き始める。 「ちょ!!」 焦るエドを無視するように、ホーエンハイムは一方的に話しかける。 「家ではトリシャとアルフォンスが心配しながら待っているぞ。 早く帰ろう!!」 そう言って足早に去ろうとするが、その前に、ロイによって阻まれる。 「エディ。忘れ物だよ。」 ロイは素早く復活すると、エドの横を歩きながら、花束を差し出す。 「えっ!?これ・・・俺・・・に・・・?」 真っ赤な顔のエドに、ロイは蕩けるような笑みを浮かべる。 「勿論だとも!退院おめでとう。エディ。」 「ありがとう・・・・。」 エドは嬉しそうに受け取るが、それを面白くない顔で見つめている のは、ホーエンハイムだった。自分を無視して、2人だけの世界を 築こうとするロイに、メラメラと対抗意識が燃え上がる。 「マスタング君。悪いがうちの花瓶は全て使用しているんだよ。 花束を貰っても飾れなくてね。」 と遠回しに断りを入れるホーエンハイムだったが、毎日、古狸を 相手に鍛えているロイは、ニッコリとそれを逆手に取る。 「そうですか。でもご安心下さい。これでも私は国家錬金術師。 花瓶を練成しましょう。ところでエディ。君の好きな花瓶を練成 しよう。どんなのがお望みかね?」 そう言うと、ロイはホーエンハイムからエドを奪い、肩を抱き寄せる。 「ああ!そうだ!エド、母さん達にお土産を買って帰ろう! では、マスタング君。私たちはこれで。」 負けじとホーエンハイムは、ロイからエドを奪うと、がっちりと 肩を抱く。 「俺!ドーナツ!!」 キラキラと目を輝かせるエドに、ホーエンハイムは満足そうに頷くと、 そのまま2人で、目の前のドーナツ屋に入ろうとするが、またしても ロイに阻まれる。 「エディ。実は君にもう一つ退院祝いがあるのだよ。ここのドーナツが 君のお気に入りと聞いてね。朝早くから並んで買ったのだよ。」 でかい花束に気を取られていて気づかなかったが、ロイの手には、 大きな紙袋が握られていた。その紙袋に書かれている店のロゴを見て、 エドは嬉しそうに顔を輝かせる。 「それ!!もしかして、俺の好きな【ウエスギカフェ】の!?」 「ああ。君の大好物の【ウエスギカフェ】のイーストドーナツだよ。 勿論、ハニードーナツもあるよ。」 全種類あるからねと、ロイはエドに紙袋の中を見せる。 「うわ〜!!いいの!?こんなに貰って!!」 幸せそうな顔のエドに、ロイも幸せそうに微笑む返す。 「これでテロに逢った君の心の傷が癒せるとは思わないが、少しでも 気が紛れたらと思ってね。」 「マスタング大佐・・・・・・。ありがとう。」 真っ赤な顔で俯くエドとは対称的に、ホーエンハイムの顔が青くなる。 「エ・・・エド!!食べ物に釣られるんじゃない!!」 「おい!親父!!俺の事そんなに意地汚い人間だと言うのかよ!!」 ギロリとエドに睨まれ、ロイを排除するつもりが、愛娘を怒らせて しまった事に気づいたホーエンハイムは、慌てて首を横に振った。 「違う!誤解だ!!エド!!」 「親父なんか嫌いだ!!行こう!マスタング大佐!!」 プリプリ頬を膨らませるエドに、ロイは優しく微笑む。 「エディ。明日から【ウエスギカフェ】で、新作のドーナツが発売に なるそうだよ。今度の休みの日にでも、一緒に行かないか?」 「本当!!嬉しい!!」 途端機嫌が直るエドの肩をさり気なく抱き寄せながら、ロイは勝ち誇った 笑みをホーエンハイムに向ける。 (おのれ!マスタング!!) ホーエンハイムはギリリと歯を噛み締めると、慌てて2人の後を追いかけた。 ****************************** 舅と婿のプチ対決。とりあえずロイの1勝。 |