Stay by my side 〜陽だまりの中で〜

 
     第23話   アルフォンスの憂鬱




 

「で?それで、このザマなの?」
冷ややかな目を向ける息子に、ホーエンハイムは
シュンと小さくなる。
「でもな、アル。父さんは努力したんだよ?」
ウルウルとした目で見つめられても、50過ぎのオヤジでは、
キモイだけである。これがエドワードならアルの顔もヘニャ〜と
崩れるのだろうが、ホーエンハイム相手では、アルの目が更に
冷たく細められるだけだ。
「父さん。いくら努力しても、結果が伴わなければね。」
辛辣な息子の言葉に、ホーエンハイムは、ますます小さくなる。
「全く、父さんさえしっかりしていれば、あんな事にはならなかった
のに!!」
チラリと肩越しに振り返ると、そこには、ロイとエドが幸せそうな
顔で談笑していた。そのエドの足元には、これまた幸せそうな
タイサが猫エドを抱きしめて離さない。猫アルは、何とか兄の
気を引こうとやっきになっているが、ドーナツに夢中の猫エドは、
そんな弟の姿に気づかず、タイサの側で幸せそうにドーナツを
頬張っている。
「・・・・・父さんに任せていられません!ボクが何とかします!!」
「アル!!」
高らかに宣言する頼もしい息子に、ホーエンハイムは、惜しみない
拍手を送る。
「姉さん。退院したばかりで疲れてるでしょう?そろそろ休んだら?」
アルは、心配そうな顔でエドに近づくと、ジロリとロイを見る。本来ならば、
玄関先でロイを追い返すことに成功したのだが、たまたま家の奥から
出てきた、母親のトリシャのお昼を一緒にの一声で、ロイまで一緒に
お昼を食べる事になってしまったのである。そして、そのままロイの
買ってきたドーナツで食後のデザートに雪崩れ込んでいたりする。
姉を狙う男を、家の中に招き入れてしまった事が、アルにとっては、
ワースト1位に輝くくらいの失態だ。
「そうだね。君も疲れているだろう。今日はゆっくりとお休み。」
駄々を捏ねると思われるロイが、意外にもあっさりとアルの言葉に
頷くと、椅子から立ち上がる。
「え!?もう?」
逆にエドは悲しそうな顔をして、アルの心を罪悪感で一杯にさせる。
ショボンとなるエドに、ロイは優しく頭を撫でると、タイサの側に
いる猫エドを見ながら、困ったような顔をする。
「エド・・・・その犬とまだ遊びたいのかね?」
ロイの言葉に、当然とばかりに、猫エドの首輪を掴んで離さない
タイサに、エドは困惑気味に叱る。
「エド君、帰らなければならないんだよ?」
そう言って、タイサから猫エドを奪おうとするが、タイサは嫌だと
ますます猫エドを離さない。
「困ったな・・・・・。私はこれから軍に戻らなければならないんだが・・・。」
腕組をするロイに、アルはロイの企みに気づく。猫エドを理由に、また
夜にやってくるつもりのロイの計画を阻止しようと、慌ててアルが口を
挟もうとするが、その前にエドが口を開く。
「あの!良かったら、今日はうちでエド君を預かりましょうか?」
少し頬を赤らめるエドに、ロイは一瞬嬉しそうな顔をするが、直ぐに
済まなそうな顔をする。
「しかし・・・それでは、君に迷惑が・・・・。」
「大丈夫!俺、どこも悪くないし!エド君がいてくれて、すごく嬉しいし・・・。」
駄目?と上目遣いで見る凶悪なまでに可愛いエドの姿に、ロイは
頬を赤らめながら、いいのかい?と尋ねる。コクリと頷くエドに、ロイは
幸せそうな顔で言った。
「ありがとう。今日は定時に上がれるから、直ぐに引き取りに来れるよ。
ああ、そうだ!いつも君に迷惑をかけているからね。お土産にケーキを
買って来よう!何のケーキがいいかい?」
ロイの言葉を聞いて、奥から紅茶のお代わりを持ってきたトリシャが
クスクス笑いながら、話に加わる。
「あら、マスタングさん。そんなに気を使わなくてもいいのよ?エド君が
来てくれて、うちも楽しいのだから。」
トリシャはロイのカップにお茶を注ぐと、ニッコリと微笑む。
「今日は、うちでお夕飯でも食べて下さい。エドワードもその方が嬉しい
ものね。」
クスリと笑うトリシャに、エドは真っ赤な顔で俯く。
「母さん!!マスタング大佐だって、予定があるんじゃ・・・・・。」
慌ててアルが止めようとするが、その前に、ロイがにこやかな顔で
トリシャに返事をする。
「今日のお昼は本当に美味しかったです。お昼をご相伴出来ただけでも、
望外の喜びですのに、夕飯まで誘って頂けるとは・・・・・。
ありがとうございます。」
深々と頭を下げるロイを、アルは憎々しげに睨み付ける。
(よく言うよ!全部計画的だったくせに!!)
例え、今トリシャが夕飯に誘わなくても、ロイのことだ。エドを丸め込んで
ちゃっかり夕飯を一緒にしようとするに違いないと、アルは読んでいた。
「トリィ・・・・・。」
そこに、神妙な顔のホーエンハイムが声をかけてきたので、アルは一縷の
望みを父親に託した。
(よし!父さん!!ここは、家長としてビシッと!!)
「いいわよね?あなた?」
ニッコリと微笑む妻に、ホーエンハイムがだらしない顔で頷く。
「トリィがいいのなら。」
(かーっ!!使えない!!情けないよ!父さん!!)
内心アルは頭を抱える。この父親は、妻にトコトン甘い事を思い出した。
「では、私はこれで失礼します。では、エディ。夜にまた・・・・。」
ロイは上機嫌でエドに微笑みかける。
「あっ、俺、玄関まで送るね!!」
エドは真っ赤な顔で、ロイの後をパタパタと追いかけていく。
(こうなったら、リザ姉さんに頼んで・・・・・。)
アルは、ホークアイにチクッて、ロイを残業攻めにしようと、受話器に
手をかける。
「アル?どこに掛けるの?」
やんわりと受話器ごと手を取られ、アルは驚いて後ろを振り返ると、
ニッコリと微笑む母親の姿があった。
「えっと・・・ちょっと友達の家に・・・・・・。」
冷や汗をダラダラ流しながら、アルはそう答えるが、母親に嘘が通用する
訳でもなく、しっかりと釘を刺す。
「アル?エドを悲しませるような事は・・・・しないわよね?」
ニッコリと微笑む母に、アルは一瞬目を逸らせる。
「しないわよね?アルは姉思いですもの!!」
「・・・・・勿論だよ。母さん。」
弱々しく頷くアルに、トリシャは、満足そうに頷くと、手を離す。
「ねえ、母さん。」
嬉しそうな顔でテーブルの上を片付けるトリシャに、アルは面白くなさそうな
顔で尋ねる。
「母さんは、あの人を認めるの?」
そんなアルに、トリシャはクスクス笑う。
「母親ですもの。幸せを誰よりも願ってるわ。エドもアルも私の自慢の子供達よ。
そして、私は貴方達を信じているわ。」
エドの選んだ人間だから信じると言う母に、アルは何も言い返せない。
(でも、ボクはあの人が嫌いだ!!)
たとえ母が許しても、絶対に姉を渡さない!!
いつの間にか母を味方につけていたロイに、アルはメラメラと闘志の焔を
燃やすのだった。



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トリシャさんエルリック家最強です。