Stay by my side 〜陽だまりの中で〜

 
     第24話   揺れる心







「エドワードちゃん。もう具合はいいのかね?」
電話口で心配そうな声を出すのは、この国の大総統。
キング・ブラッドレイ。実の娘同様に可愛がっているエドの
様子を心配したブラッドレイは、事件から一週間後、
エドの自宅に電話をかけてきたのだ。
「キングおじさん!心配かけてごめん。もう、すっかりと
元気だよ!!」
もともと口の中を少し切っただけなのだ。そんなに大げさに
考えなくてもと思うが、自分を心配してくれているブラッドレイの
気持ちが痛いほど分かるので、素直に近況を報告する。
「実はだね、今度うちの妻が、写真の個展を開く事になったのだよ。」
「クレアおばさんが!?おめでとうございます!!」
自分の事のように嬉しがるエドに、ブラッドレイも上機嫌だ。
「そこで、君を是非個展に招待したいんだが、こちらに来ないかい?」
「嬉しい!!久し振りにクレアおばさんにも逢いたかったし!!」
大喜びするエドに、ブラッドレイは言葉を繋げる。
「だが、あんな事件のあった後だからね。護衛を用意したよ。」
ブラッドレイの言葉に、エドは驚く。
「え?護衛なんかいいって!今度トレインジャックにあっても、全員
捕らえてみせるから!!」
だから心配すんな!というエドに、ブラッドレイはとんでもない!!と
説得する。
「しかしだね。若い女性の1人旅は危険だよ。そこでだ。東方司令部の
ロイ・マスタング大佐に君の護衛を頼んだのだよ!!」
「え!?マ・・・マスタング・・・大佐に!?そんな迷惑じゃ・・・・・。」
オロオロするエドに、ブラッドレイはクスクス笑う。
「では、今度の土曜日においで。逢うのを楽しみにしているよ。」
「あっ!!おじさん!!」
言うだけ言って、さっさと電話を切ってしまったブラッドレイに、エドは困惑
しながら、受話器を置く。
「マスタング大佐と・・・・セントラルに・・・・。」
ロイと2人きりで列車の旅が出来る事に、エドの顔が真っ赤になる。
「姉さん?どうかした?」
真っ赤な顔で、ぼーっと突っ立っているエドに気づき、アルが心配そうな
顔で声をかける。
「な・・な・・・何でもない!!俺、明日早いから、もう寝るね!!」
そのまま階段を駆け上がっていくエドを、アルは不思議そうな顔で見つめて
いた。







「え?マスタング大佐、都合が悪くなった・・・・の?」
出発当日、興奮して前日眠れなかったエドの前に現われたのは、
済まなそうな顔をするホークアイとハボックだった。
「ええ。ごめんなさい。護衛には、私とジャンがつくから、安心してね?」
頭を下げるホークアイに、エドは慌てて首を横に振る。
「そんな!2人とも忙しいのに!!ごめんなさい。」
シュンとなるエドに、ホークアイとハボックは慌てて宥める。
「何言ってるんだよ!公然と仕事をさぼれて、こっちが感謝してるんだぜ?」
「ええ!そうよ!!エドちゃんと一緒で、とても嬉しいのよ!!」
必死に自分を慰める2人に、エドは申し訳ない気持ちで一杯だった。
だが、自分がいつまでも落ち込んでいたら、2人に悪いと、慌てて
元気な振りをする。
「ありがとう・・・・。そうだ!おばさんにお祝いを贈りたいんだ!セントラルに
着いたら、大総統邸に行く前に、買い物に付き合ってくれる?」
「もちろん!そうだわ!他にも色々と見て回りましょうね!!」
何とか、エドの機嫌が浮上した事に、ホークアイは内心安堵のため息を洩らすと、
エドワードを車の後部座席に座らせ、自分もその横に座る。
(ったく!!これというのも、全てあの無能のせいよ!!見つけ次第
殺す!!)
今朝になって、急にエドの護衛をするはずのロイと連絡が取れず、困った
ハボックが、今日非番のホークアイに泣きついたのである。そこで、急遽
自分が休みを返上して、ホークアイがエドの護衛をする事にしたのである。
それをそのままエドに伝えては、エドが傷付くと思い、ホークアイは
急な仕事が入って、ロイが来れなくなったと嘘をついたわけなのだが、内心は、
マグマが沸々と煮えたぎっていた。エドを悲しませた罪をどうやって償わせようか
と、アレコレ頭の中で検討する。そんなホークアイの横では、エドがホークアイに
気づかれないように、そっとため息をついた。
(なんか、俺馬鹿みたいだ・・・・。1人で浮かれちゃって・・・・・。)
最近、何かと構ってくれているから失念していたが、司令官であるロイが自分なんか
の為に、時間が取れるわけが無い。それなのに、浮かれていた自分がひどく
子どもっぽくって、恥ずかしかった。
寂しそうな顔で俯くエドを、ハボックがルームミラー越しに、心配そうに見つめていた。





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折角発展しそうだったのに・・・・お馬鹿なロイさん。