Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
第26話 赤ずきんちゃんの憂鬱
「エード!!これは一体どういうことよ!!」
学校が終わり、久々にお気に入りのカフェで優雅な
ティータイムを満喫していたエドの前に、怒りの形相で
近づいてきたのは、幼馴染のウィンリィ。エドは、何故
ウィンリィが怒っているのか分からずに、キョトンと首を
傾げた。
「どうしたんだよ。ウィンリィ。」
何も分かっていないエドに、ウィンリィのこめかみが
引き攣る。ウィンリィは、無言でエドの前に座ると、エドが
まだ口にしていないオレンジジュースを一気に煽ると、
乱暴にグラスをテーブルの上に置く。
「あー!!俺のジュース!!」
驚きのあまり、立ち上がるエドに、ウィンリィはギロリと
睨みつける。その様子に、エドは本能的に逃げ出したい
想いに駆られるが、今までの経験上、大人しく座り直した。
「・・・・・進路。」
ポツリと呟くウィンリィに、エドは漸く目の前の幼馴染の
怒っている原因を悟り、神妙に項垂れる。
「・・・・ごめん。」
エドの言葉に、ウィンリィは、深くため息をつく。
「謝ってほしいわけじゃないよ。」
ウィンリィは、寂しそうな笑みを浮かべてエドを見る。
「アンタが志望校を変えたって事は、色々考えた
結果だと思ってるから。でも・・・・・・。」
ウィンリィは、シュンと項垂れる。
「せめて私にだけは教えて欲しかった。」
「・・・・・ウィンリィ・・・・。ごめん。ウィンリィに話さなかった
のには、別に他意があったわけでは・・・・・。」
慌てて弁解するエドに、ウィンリィは俯いたまま、ガサゴソと
制服のポケットから小銭入れを出すと、中から数枚のコインを
取り出す。
「・・・・ジュース飲んじゃってごめん。これで足りる?」
エドは、ウィンリィの手を咄嗟に掴む。
「エド?」
驚くウィンリィに、エドは泣きそうな顔で微笑んだ。
「ごめん。ウィンリィ・・・・・。今さらだけど・・・俺の悩みを
聞いてくれる?」
そのあまりにも思いつめた表情に、ウィンリィは、驚いて
深く頷いた。
「俺が国家錬金術師の資格を取りたいって、知っているだろ?」
エドの言葉に、ウィンリィは、コクリと頷く。幼い頃からの父親と
伯母の確執をなんとかしたいという想いと、錬金術で病に苦しむ
動物達を直してあげたいという将来の夢を叶える為に、エドが
イーストシティの高校へは通わず、早くから国家錬金術師となり、
セントラルにある研究所に入りたいと願っていることは、ウィンリィは
知っていた。ところが、最近になって急に地元の高校に通うと
宣言し始めたエドに、訝しく思いながら、また高校でも同じ学校に
通えると、ウィンリィは深く考えもせずに、素直に喜んでいたのだった。
「俺、実は好きな人がいるんだ・・・・・。」
真っ赤になって俯くエドに、ウィンリィは、やっぱりと思った。
「やっぱね。」
クスクス笑うウィンリィに、エドはキョトンとなる。
「何?もしかして知られていないとでも思っていたわけ?一体何年
幼馴染をしてると思ってるのよ。」
途端、更に真っ赤な顔になるエドに、ウィンリィは表情を改める。
「で?急にセントラルの高校へ志望校を変えるのは、その人のせい?」
「・・・・違う!これは俺の意思なんだ!!」
エドは激しく首を横に振る。
「俺ね・・・その人の事が好きなんだ。でも、その人は大人の男の人で、
俺なんか相手にしてくれないと思っていたんだ。ところが、ある事が
きっかけで、その人と親しくなれて・・・・このまま離れたくないと思って、
高校を地元にしようと思っていたんだ。」
エドの告白に、ウィンリィは優しく微笑みながら口を開く。
「別におかしいことじゃないでしょ?それって、普通の考えじゃない。」
だが、エドは弱々しい笑みを浮かべて項垂れる。
「でさ、最近になってその人にお見合い話が持ち上がって・・・・。」
その言葉に、ウィンリィは思わず立ち上がる。
「ちょ!待ってよ!!それじゃあ、何?アンタがいるのに、その人は
お見合いしたっていうの!!」
許せない!!と怒り出すウィンリィに、エドは慌てて腕を掴むと、
強引に椅子に座らせる。
「違うって!!俺の完全なる片思いなの!!その人は、俺の事を
単なる妹としか見てないんだよ!!」
「エド・・・・・・。」
目に涙を溜めながら必死にウィンリィに訴えるエドに、ウィンリィは
何も言えず、大人しく椅子に座り直した。
「・・・・それじゃあ、その人、結婚する・・・の?」
だから、イーストシティから逃げるように、セントラルに行くのかと問う
ウィンリィに、エドはフルフルと首を横に振る。
「お見合いは・・ね、俺の勘違いだったらしいんだけど・・・・・。」
「だったらいいじゃない。地元の高校に行ったって!!」
不満そうな顔のウィンリィに、エドはため息をつく。
「最初は、あの人の側にいられなくて、たまたま帰ってきた父さんの
勧めもあって、セントラルに行く事を了承したんだ。でも、お見合いの
話が勘違いって判って、やっぱり高校は地元にしようかと思って
いたんだけど。」
そこでエドは言葉を切ると、新しく注文したアップルジュースに手を
伸ばして、一口飲む。その様子をじっと見つめているウィンリィに、
エドは意を決したように顔を上げると、泣き笑いのような笑みを浮かべた。
「どっかから、俺がセントラルに行くって話を聞いたらしくて、その人、
俺を問い詰めに来たんだよ。【一体、君は何がやりたいのかね?】ってさ。」
エドは、その時の真剣なロイの顔を思い出し、目に涙を溜めると、乱暴に
袖で拭う。
「・・・・その人の真剣な目を見ていたら、進路の事より、その人の側に
いたいっていう俺の気持ちが、急にみっとも無く思えてきてさ・・・・・・。」
エドの言葉に、ウィンリィは大きく首を横に振る。
「そんなことない!!誰だって好きな人の側にいたいよ!!」
「・・・・ありがと。でも、その人、親身になって俺の進路の事を、色々考えて
くれてさ・・・どうしても、あなたの側にいたいからって、言えなくて・・・・・。」
シュンとなるエドに、ウィンリィはなんと言って声を掛けていいのかわからず、
2人して俯く。
「それで、セントラルの研究所へ?」
ウィンリィの言葉に、エドは苦笑する。
「そうするつもりだったんだけど、その人が、俺がまだ若いから、そんなに早く
研究所に入ることはないって言うんだ。セントラルにある、アメストリス学園の
錬金術学科がいいんじゃないかって・・・・・。」
エドは自嘲した笑みを浮かべる。
「結局、あの人にとって、俺はただのガキで、【妹】のような存在なんだ
なって・・・・思い知った。」
引き止めるどころか、セントラルへ行けというロイの言葉に、エドはひどく
ショックを受けていたのだ。
「・・・・なぁ。あの人が俺の事をただの【妹】と思っていても、俺、あの人の事を
好きでいていいよ・・な?セントラルへ直前まで・・・・・側にいてもいいかなぁ・・・。」
ポロポロと涙を流すエドに、ウィンリィは、唇を噛み締める。今のエドに、例え
気休め程度でも、適当な言葉を掛ける事はできなかった。
「・・・・エド、告白しないの?」
ウィンリィの言葉に、エドはピクリと身体を揺らす。そんなエドに、ウィンリィは
真剣な表情でさらに言葉を繋げる。
「エド。このままずっと引き摺っていていいの?」
ウィンリィの言葉に、エドは音もなく立ち上がる。
「エド!!」
クルリと背を向けるエドに、ウィンリィも慌てて椅子から立ち上がる。
「愚痴聞いてくれて、ありがとう。おかげで、少しすっきりした。」
振り返らずに呟くエドに、ウィンリィは顔を歪める。
「エド・・・・・。」
「俺、これから塾なんだ。ごめんな。」
エドは作り笑いをしながら、顔だけ振り向くと、ウィンリィに手を振る。
「塾って・・・・。そんなの行かなくてもエドなら・・・・。」
ウィンリィの驚いた顔に、エドはそっと目を伏せる。
「1人だと・・・どうしてもあの人の事が浮かんじゃうんだ。だから、勉強に
集中したくて・・・・・・。それじゃあ!」
目に涙を浮かべて走り去るエドに、ウィンリィは、呼び止めようとしたが、
呼び止めても、掛ける言葉が見つからない今、空しく手は空を切る。
「・・・・エド。」
はぁあああああと、深いため息をつきながら、ウィンリィはボスンと椅子に
乱暴に腰掛ける。
「とにかく、情報を収集しなくちゃ。」
まさかそんな悲しい恋をしているとは、夢にも思っていなかったウィンリィは、
エドの為に、今自分が何が出来るのか、まるで分からなかった。相手の
名前も年齢も何をしているのかもわからない今、無闇に動いて、2人の仲を
最悪のものにしかねない。もしかして、片思いと言うのは、エドの勘違いで、
相手もエドの事を好きなのかもしれない。
「とりあえず、アルを締め上げなくっちゃ。」
ウィンリィは、愛用のスパナを手に持つと、ニヤリと笑った。
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ロイさん・・・まだ告白してなかったんですね・・・・。
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