Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 
     第27話  狼さんの主張




 ルン ルン ルン
 例えて言うならば、そこはお花畑?を連想させるほど、
 最高司令官の背後には、春の長閑な風景が広がっている。
 (不気味だ・・・・・・。)
 ハボックは、その異様な光景を正視出来ずに、視線を正面に
 向けると固まった。
 ヒュールリ〜 ヒュルリ〜 ララ〜
 ハボックの向かい側の席で仕事をしている、上官の背後には、
 ここは極寒の地ですかい!?とツッコミを入れたくなるほど、
 ブリザートが吹き荒れていた。
 右には長閑な春。
 正面には、極寒の冬。
 部屋の異常気象に、ハボックは耐え切れず、仲間に
 縋るように、左に視線を向けるが、危険を察知した仲間は、
 当の昔に外へと避難していた。
 (この状況を、俺にどうしろと?)
 完全に逃げるタイミングを失っていたハボックは、勇敢にも
 状況を打破しようと、口を開きかけたが、それよりも前に、
 ロイがホークアイに話しかける。
 「中尉。まだ他に仕事はないかね?」
 どんどん仕事を終わらせるよ。はっはっはっ・・・・と、上機嫌に
 仕事をしているロイの言葉に、ハボックは、咥えただけの
 タバコを、ポロリと落とす。
 今、自分は信じられない事を聞いた気がする・・・・・。
 既にハボックの脳は、超常現象を受け止めるだけの気力はなかった。
 茫然とロイを凝視するハボックの目の前に座って、自分の仕事を
 していた、冬の女王は、無言で椅子から立ち上がると、どこに
 そんなに隠し持っていたのかと思われる書類の束を、ロイの机の
 上に、ドンドンドンと3つの山にして置く。
 「ああ。ありがとう。」
 いつもなら、見ただけで何とか逃げ出そうとするロイが、
 何をトチ狂ったのか、嬉々として書類の山に手を伸ばし、なおかつ、
 ホークアイにお礼まで言ったのだ。ハボックは、驚いて椅子から
 立ち上がると、ロイに詰め寄る。
 「一体、アンタは誰ですか!!」
 「何を言っているのだね?ハボック?」
 キョトンとなるロイの胸倉を、ハボックは掴む。
 「アンタ偽者だな!!本物の大佐は、真面目に仕事なんかしねぇんだよ!」
 「はっはっはっ。いきなり何を言いだすのかと思えば、まるで私がいつも
 サボっているみたいではないか。」
 クククと笑い出すロイに、ハボックは掴んでいた手を離すと、両手で自分の
 ヒヨコ頭を掻き毟る。
 「ダーッ!!みたい!じゃなくて、そうなんです!!」
 「・・・・・大佐。お話があります。」
 騒ぐハボックを尻目に、ホークアイは不機嫌な目をロイに向ける。そんな
 ホークアイの様子に、ロイは若干表情を改めると、何かね?と話を促す。
 「・・・・来春から、セントラルへ異動をしたいのですが。」
 ホークアイの言葉に、ハボックの動きが止まる。
 「・・・・何故と聞いても?」
 スッと目を細めるロイに、ホークアイも負けじと目に力を込める。
 「エドワードちゃんを守るためです。」
 「エディを?」
 クスリと面白そうに笑うロイに、ホークアイの怒りが爆発する。
 「エドワードちゃんから聞きました。セントラルのアメストリス学園の
 錬金術学科を受けるように、大佐が勧めたと。」
 ホークアイの言葉に、ロイは大きく頷く。
 「何かおかしな点でも?彼女の将来を考えれば、そこが一番妥当だと
 いうことが、君にも分かるだろ?」
 ホークアイはため息をつきながら、首を縦に振る。
 「我が国最高峰の高校で、そこの錬金術学科は、特に国家錬金術師
 への登竜門であることも存じ上げております。しかし・・・・・。」
 ホークアイは、バンとロイの机を両手で叩く。
 「セントラルは危険すぎます!この間、エドワードちゃんとセントラルの
 街で買い物をした際、少し目を離した途端、まるで砂糖に群がる
 蟻のごとく、男達がエドワードちゃんに声をかけてくるのですよ!!」
 無言の圧力で男を制し、それでも諦めない男達には、ホークアイの
 教育的指導が炸裂したのは、言うまでもない。
 「私はエドワードちゃんが心配です!そう言う訳ですので、エドワード
 ちゃんがセントラルへ行く際には、私は中央司令部への転属を希望
 します!!」
 ゼーゼーと肩で息を整えるホークアイに、一瞬唖然となっていたロイ
 だったが、すぐに爆笑する。
 「大佐!!」
 ロイの態度に怒りを覚え、ハボックは叫ぶが、ロイはツボに嵌ったのか、
 身体をくの字に曲げて爆笑している。そんなロイに、ホークアイはヒクヒク
 こめかみを引き攣らせると、クルリとロイに背を向ける。
 「話はそれだけです。失礼しました。」
 そのまま自分の席に着こうとするホークアイを、ロイは笑いながら止める。
 「待ちたまえ。君はせっかちだな。恋人を置いて、セントラルへ異動するの
 かい?」
 面白そうな顔で尋ねるロイに、ホークアイはニッコリと極上の笑みを浮かべる。
 「まさか。ジャンと一緒にセントラルへ戻ります。」
 相談もなく決定事項なんですか・・・・・。いえ、あなたの行く所、俺はどこでも
 お供しますという顔のハボックを、チラリと同情を込めた目で見ていたロイは、
 フーッとため息をついて、組んだ両手の上に、顎を乗せると、ホークアイを
 面白そうに眺める。
 「どうしても異動したいというのならば、私は止めないが・・・・・。そうそう、何か
 君は勘違いしているようだから、訂正させてもらうとしようか。」
 勿体つけた話し方に、ホークアイは素早く愛銃をホルダーから抜き取ると、
 ロイに照準を合わせる。
 「おやおや。物騒だね。」
 ニコニコニコニコ。
 動じず。騒がず。あくまでも紳士的にと言った風に、ロイは口元に笑みを
 浮かべている。
 「大佐。あまり私を怒らせない方が身のためかと。」
 ニッコリと微笑みながら安全装置を外すホークアイに、ロイは降参とばかりに
 両手を上げる。
 「いや。すまない。少し戯れが過ぎたようだ。」
 ロイの言葉に、ホークアイは漸く銃を下ろす。それを見計らったかのように、
 ロイはニッコリと微笑みながら爆弾発言をする。
 「アメストリス学園の錬金術学科は、1・2年がイーストシティ校。3年になって、
 漸くセントラル校へと行けるのだよ。」
 ロイの言葉に、ホークアイは、珍しくポカンと口を開けたまま絶句した。
 「はぁ!?じゃあ、最初からアンタは知っていて!!」
 驚くハボックに、ロイは当然とばかりに大きく頷く。
 「当たり前じゃないか。私がエディを手放すとでも思っているのかね?」
 ブンブンと首を横に振るハボックに、ロイは満足気に微笑む。
 「・・・・では、今朝から真面目に仕事をしているのは・・・・・。」
 漸く状況が読めてきたホークアイは、こめかみに手を当てる。
 「勿論、2年後にセントラル勤務になる為だよ。」
 今年異動になって直ぐにセントラルへ戻れるほど、軍は甘くない。少なくとも、
 3年間は異動が出来ない事になっているのだ。
 「最短の3年でセントラルに戻ってみせる!!そして、エディの高校卒業と
 同時に挙式だ!!」
 はっはっはっと高笑いするロイに、ハボックはボソリと呟いた。
 「その前に、告白ッスよ・・・・。大佐・・・・・・。」
 

 
 
 

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ハボさんの言うとおり。