Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 
     第29話  それぞれの思惑





 「君にしてもらいたい事は、来春からの私の
 仕事の調整だよ。」
 ロイの言葉に、ホークアイは手に持っている書類に
 目を落とす。
 「この、アメストリス学園錬金術学科特別講師という
 ものを、本当になさるおつもりですか?」
 ただでさえ業務が大変なのに、その上、更に仕事を
 増やすつもりなのかと、無言で訴えるホークアイに、
 ロイは大きく頷く。
 「もちろんだとも。考えてもみたまえ。学校という
 閉鎖された空間に、エディ1人だけを置いておけるかい?
 今までは、幼馴染がいたお陰で何とかなっていたようだが、
 高校からは別々になってしまって、エディを害虫から
 守る人間が居なくなってしまう!!」
 だったら、やはり幼馴染と一緒の学校を勧めれば
 良かったのではと、ハボックは思うが、それを口にすると
 消し炭にされるため、賢明にも黙ったままだ。
 「それに・・・・アメストリス学園の制服は、全国1位を
 獲得するほど可愛らしい。さぞエディに良く似合うだろう
 なぁ・・・・・。」
 想像しているのか、ポヤヤンと閉まりのない顔のロイに、
 ホークアイが剣呑した眼を向ける。
 「このロリコン変態佐。」
 ポツリと呟くホークアイに、ロイはニッコリと微笑む。
 「君は私の副官だからね。特別に学園に入れるように
 権限を与えてもらおう。上手くすれば、エディとお昼を
 一緒に出来るかもしれないね。」
 「大佐!時間が勿体無いです。さっさと計画を立てましょう!!」
 俄然やる気のホークアイに、ロイはニヤリと笑う。こうも自分の
 都合の良いように事が運んで、何やら恐い気がしないでも
 ないが、そこは自分の日頃の行いが良いおかげだなと、自分に
 都合の良いように考えていた。だから気づかない。ホークアイが
 ロイに協力する振りをして、実はロイを牽制しつつ自分にだけ
 都合の良いように物事を進めようとしている事に。
 (大佐が単純で助かったわ。)
 2年で中央に戻る為です!と言いつつ、わざと大量の書類攻めに
 しようかとか、学校でロイがエドに不埒なマネをしないように、
 助手と称して、ピッタリと張り付こうかしらとか、色々と頭の中で
 色々と計画を立てながら、ホークアイはニヤリと笑う。不特定
 多数の害虫をロイに退治してもらえば、自分はロイだけに
 目を配っていれば良いのだ。
 (大佐、笑っていられるのも、今のうちですから・・・・・。)
 フフフフ・・・・・。
 ロイとホークアイの不気味な笑みを、ハボックは、ため息をつきながら
 見守っていた。




 「・・・・そうですか。師匠(せんせい)は、まだ旅行から帰らない
 んですか。はい。それじゃあ・・・・・・。」
 アルは、ため息をつきながら、受話器を元に戻した。姉を狙っている
 ロイの事を伯母であり錬金術の師匠でもあるイズミに報告すれば、
 何とかしてくれるのではと、絶大なる期待を込めてアルはイズミに電話を
 したのだが、年中行事である旅行へと伯母夫婦は行っており、いつ
 帰ってくるのか、分からないと、伯母夫婦が経営している肉屋の
 店員は、済まなそうに言っていた。
 「よりにもよって、こんな時に・・・・・。」
 はぁあああと、アルはため息をつきながら、電話ボックスから出る。
 家から電話をかけてもいいのだが、姉とロイの仲を応援している
 母のトリシャに聞かれたくなくて、外から電話を掛けたのだが、
 肝心の伯母がいなければ話にならない。全く、どこまであの男は
 悪運が強いのかと、アルが不貞腐れたように足元の小石を蹴った
 のと、後頭部を強打されたのは、同時だった。
 「アル!さっきから声かけてるのに、何で無視するのよ!!」
 痛みに半分涙ながら振り返ると、スパナを片手に持って、
 仁王立ちしているウィンリィの姿があった。
 (ひえええええええ)
 何故か分からないが、ウィンリィの鬼気迫る雰囲気に、アルは
 自己防衛本能のままに、逃げ出そうとするが、その前に、ウィンリィ
 によって襟首を掴まれる。
 「アル〜?ちょ〜っと〜聞きたい事が〜あるんだけど〜?」
 ニィッコリィィと笑うウィンリィに、アルは観念してガックリと肩を落とす。
 何か企んでいそうな幼馴染に、今までの経験から逆らうまいと
 アルは観念したのだ。
 「聞きたい事って・・・・?」
 恐る恐る尋ねるアルに、ウィンリィは真剣な目で見つめる。
 「エドの事に決まってるでしょ?」
 さぁ、知っている事を吐きましょうねぇ?
 スパナをちらつかせるウィンリィに、アルのムンクの叫びが
 街中に響き渡った。





 「お疲れ様。エディ。」
 漸く塾が終わり、トボトボと家に帰ろうとしたエドの前に、
 ロイがにこやかに手を振って立っていた。
 「マスタング大佐!?」
 どうしてここに?と驚くエドに、ロイは蕩けるような笑みを浮かべると、
 エドの背に手を回して、歩き出す。
 「そろそろ塾が終わる頃だと思ってね。一緒にディナーでもと思った
 のだが・・・・・。」
 何か予定でもあったかい?と優しく尋ねるロイに、エドは困惑気味に
 首を横に振った。
 「良かった。実は予約を入れていてね。ああ、君のお母さんには了承済み
 だから安心しなさい。」
 上機嫌なロイを横目に見ながら、エドは胸の痛みに耐える。
 相手が自分を【妹】としかみていない事に、エドの心は悲鳴を上げていた。
 「ところで、塾はどうだったかい?」
 「えっ!その・・・・楽しかった。」
 楽しいというより、ロイの事を考えずにすむ暇つぶしとしか思っていなかった
 が、ロイにそんな事を言える訳もなく、笑って誤魔化すエドだった。
 「そうか・・・・。ところで、錬金術の勉強の方はどうかね?塾ではそれの
 勉強までは教えていないのだろ?」
 錬金術学科には、通常の試験にプラスして錬金術の試験があり、そちらの
 方が当然ながら難しい。その事を心配するロイに、エドは苦笑する。
 「本当なら、師匠に見てもらいたかったんだけど、今旅行中で・・・・・。
 分からないところは、週末に帰ってくる父さんにでも聞いて・・・・。」
 「もしも良かったら、私が錬金術の勉強を見てあげようか?」
 ロイの思ってもみない申し出に、エドは固まって歩みを止める。
 「エディ?どうしたんだい?」
 クスリと笑うロイに、エドは真っ赤な顔で首を横に振った。
 「駄目!マスタング大佐は仕事で忙しいのに!!」
 これ以上迷惑をかけたらいけないとエドは半分泣きながら首を横に
 振り続ける。そんなエドに、ロイは優しく抱きしめる。
 「別に君が気にする事はないんだよ。私が好きでやるのだから。」
 「でも!!」
 悲しそうな顔のエドに、ロイは優しく微笑む。
 「実はだね、来年の春からアメストリス学園錬金術学科特別講師に
 なる事が決まってね。」
 「ほえ!?」
 アメストリス学園錬金術学科とは、今度自分が受験する所では
 ないか?何故その名前が今ここで出るのか分からず、エドは
 キョトンとなる。
 「前々から打診されていたんだよ。軍の仕事があるから、週に1・2回
 程度なんだが、恥ずかしながら人に教えるというのは、初めての事
 なんだよ。そこで、君さえ良ければ言い方は悪いが、練習台になって
 ほしい。」
 駄目かな?と小首を傾げるロイに、エドは唖然となる。
 「特別講師?マスタング大佐、そんな時間あるの?セントラルとここ
 じゃあ・・・・・。」
 「ん?知らなかったのかい?1・2年は、セントラルではなく、
 イーストシティ校なんだよ。」
 1・2年の担当だから、イーストシティ校で教えるんだよと、ロイは
 ニコニコと笑う。
 「それじゃあ・・・・・。」
 「来年から宜しく。」
 ぱあっと顔を明るくするエドに、ロイは上機嫌になる。エドが少しでも
 自分を意識してるようで、嬉しかったのだ。
 「さて、今後の勉強のスケジュールについて、食べながら話し合おうか。」
 嬉々としてエドの肩を抱きながら歩き出すロイに、エドはおずおずと言う。
 「・・・・でも、本当にいいの?お仕事大変なんじゃ・・・・。」
 疲れちゃうよ?と心配そうな顔のエドに、ロイはニッコリと微笑む。
 「私としては、君と錬金術の話が出来るだけで、疲れなど吹き飛んでしまう
 のだよ。」
 子どものようにはしゃぐロイに、エドは知らずに笑みを浮かべる。どんなに
 断ろうとしても、ロイはエドに教える気満々で、引き下がりはしなかったし、
 何よりも、ロイと一緒にいられるという事に、エドの胸は高鳴った。
 (もう少し側にいてもいいよね・・・・・。)
 いずれ結婚してしまうであろうロイに、束の間だけでも側にいたいと、
 エドは自分の横を幸せそうに歩くロイの横顔を見ながら、心から思った。




*****************************
エド子さん、鈍すぎ・・・・・。
ロイさん、気づかなすぎ・・・・・。
すれ違いは続くよ、どこまでも〜。