Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 
     第30話  悲しきクリスマス



「え・・・・?」
驚くロイに、エドはにっこりと微笑んだ。
「だって、その頃、俺は塾の合宿だもん!」
これでも、受験生なんだぞ!と無邪気に笑う
エドに、ロイはこの目の前の少女が高校受験を
控えている事を思い出した。
「・・・そ・・そうか。しっかり勉強しなさい。」
折角その日こそは両想いになってやる!と気合を入れていた
だけに、肝心のクリスマスデートを断られて、ロイの落ち込みは
凄まじい。だが、そんなへこんだロイに気づかず、エドはニコニコと
微笑む。
「じゃあ、俺これから塾だから!」
バイバ〜イと手を振って駆け出していくエドの後姿を、
ロイは憔悴しきった眼で見送った。
          



「はぁああああああああああ〜。」
エドと別れてから、漸く執務室に戻ったロイだったが、
先程、エドにクリスマスデートを断られたショックで、すっかり
生きる屍となった上官を、遠目に見ながら、ハボックは
こそこそと隣の席のブレタに耳打ちする。
「どうしたんだ?大佐は。視察に出る前には、あんなに
上機嫌だったのに。」
「多分、エドに振られた・・・・・うわぁあああ!!」
目の前に火炎が飛んできて、ブレタは慌てて飛び退る。
「聞こえているぞ。貴様ら!」
ギギギ・・・と、ゆっくりと首を巡らせると、超不機嫌全開の
上官が発火布の手袋をした右手を前に突き出して、
にこやかに微笑んでいた。もっとも、目だけは底冷えする
光を放っていたが。
”こ・・・・怖い・・・・。”
引きつるハボックは、次は自分の番かと、いつでも逃げる
体勢を整えていると、背後に、突如ブリザートが吹き溢れ、
それと同時に、ロイの殺気が消え、それどころか、挙動不審に
視線を反らす。
「・・・・・大佐。」
まるで地を這うような低い声で、ハボックは震え上がる。
「・・・・この書類は、全て今日の午前中ですと言った
はずですが・・・・・。」
ツカツカと部屋に入ると、ホークアイは追加分の書類の山を
ロイの机の上に積み上げると、バンと叩く。
”ひえええええええ〜!!”
ハボックは内心情けない声を出す。
ブリザードを背後に背負う姿は、まさしく氷の女王。
ホークアイの怒りのブリザードを諸に真っ向から浴びた
ロイは、半分氷で固まっている。右腕と頭だけは凍らせない
のは、ホークアイの優しさというより、早く仕事をさせたいから
だろうと言う事は、容易に想像できる。
「い・・今すぐに・・・・。」
顔を引きつらせながら、何とか無事な右腕を一心不乱に
動かすロイを、ホークアイは満足そうに頷く。
「仮にも”焔”の大佐なんッスから、氷を溶かす芸当でも
すればいいのに。」
そんな上官2人を遠目に見ながら、ハボックはロイの八つ当たりを
受ける前に、処理済の書類を持って、執務室を逃げ出した。



          
          
その頃、イーストシティの喫茶店では、エドワードと金髪で銀の
瞳を持つ少年が、深刻な顔で向かい合っていた。
「ふーん。別にいいけど?」
偉そうに足を組んでいる金髪の少年の前にテーブルを挟んで
座っているエドは、パッと表情を明るくさせた。
「本当かっ!!ラッセル!!」
「・・・・その代わり・・・。」
ラッセルの言葉に、エドは神妙に頷いた。
「判っている。付き合うよ。」
「・・・・・その言葉に二言は?」
ニヤリと笑うラッセルに、エドは伝票を持って立ち上がる。
「ねえよっ!!それよりも、さっきの件、頼んだからな!!」
ビシッと人差し指を突きつけると、エドはもう用件が済んだと
ばかりに、クルリと背を向けた。
「あのエドがねぇ・・・・。人とはわからないもんだな。」
ククク・・・と忍び笑いすると、ラッセルは既に冷めかけた
コーヒーを口に含んだ。





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季節外れのクリスマスネタです。
以前クリスマス企画の時にUPしたお試し版です。
クリスマス企画がもしも通っていたら、
この後、エド子さん視点で話は進んでいくはずでした。
しかし、本編はロイ視点で話が進んでいきます。
ちなみに、クリスマス企画のタイサと猫エドのお話は、
本編では語られませんので、ご了承下さい。