Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 
     第31話  ホークアイ最強伝説




「・・・・大佐。真面目にやって下さい。」
ギロリとホークアイは、やる気ありませ〜んの
雰囲気を垂れ流している、一応司令官である
ロイを睨みつける。
「・・・・はぁあああああああああああ。」
だが、当の本人は、右の耳から左の耳へ
ホークアイの言葉を素通りさせると、机にベチャリと懐く。
勿論、机の上には、これでもかというくらいに未決済の
書類の山が三つほど積まれており、そのうちの一つが
山崩れを起こし、残りの二つも山崩れを起こすのは、
時間の問題だった。
「大佐・・・・・・。」
ゆっくりとホークアイは愛銃に手を掛ける。
「・・・・・はぁあああああああ。エディに逢いたい・・・・・。」
そう言って、ロイは机の上に飾られているエドの写真を
手に取ると、凝視する。その写真は、以前、ヒューズが
持っていたもので、仕事をサボったロイに切れた、ホークアイに
取られていたのだが、死ぬ気で働いたため、無事に取り戻す事が
出来た貴重な一枚だった。戻ったその写真を、毎日眺めていては、
せつないため息と共に頬擦りをしており、その度に、ホークアイの
銃弾の的になっているのだが、ロイはもともと学習能力が低いのか、
それとも、恋する男だからなのか、判断に苦しむが、またしても
写真に頬擦りをしようと、頬を写真に寄せた瞬間、ホークアイの手の
中にある銃の安全装置が外された。

ガン ガン ガン ガン ガン
          
無表情で、ロイの身体ギリギリにホークアイは銃を全弾撃つと、
素早く弾を補充し、再び銃をロイに向ける。
          
ガン ガン ガン ガン ガン
          
全弾撃ち終わると、ホークアイは、チラリと後ろで仕事をしている
フュリーを一瞥する。
「証拠写真を!」
「ハ・・・ハイ!!」
フュリーは、慌てて椅子から立ち上がると、机の上に置いてある
カメラを手に、未だ銃弾の後から煙が立ち上っている壁の前で
固まったままの上官の写真を何枚か撮る。
「現像にいって行きます!」
写真を撮り終えたフュリーは、転びそうになりながら、慌てて
部屋から飛び出していく。その姿を満足そうに見送りながら、
ホークアイは、弾を補充する。勿論、ギロリとロイを睨む事を
忘れない。
「大佐。報告書を書く手間をかけさせないで下さい。」
コクコクコクコクコクコクコクコク
光速の動きでロイは首を縦に振る。
それに大満足したホークアイは、不気味な笑みを浮かべながら、
ゆっくりと弾を補充したばかりの銃をロイに向ける。
「では、仕事を再開して下さい。」
まるで千手観音のごとく両手を光速に動かして、仕事を再開させる
ロイに満足そうに頷くと、ホークアイは自分の席に戻り、ファイルから
一枚の書類を取り出して、サラサラと流れるようなスピードで
書き始める。
「毎日の事ですから、手馴れてますねぇ・・・・。」
向かいの席のハボックが感心したように呟く。


          12月23日 11時48分 
          発砲数 10発  
          理由 上司のしつけのため


後は、フュリーが撮った証拠写真を添付すれば完璧である。


そう、ホークアイが書いているのは、銃使用報告書であった。
もともと軍隊というものは、武器の管理が一番厳しい。
たった一発でも、使途不明が発覚すれば、徹底的に糾弾され、
下手すると、裁判にかけられる。
「あの時はすごかったな・・・・。」
ふとハボックは、昔を懐かしむように、眼を細めると、初めて
ホークアイが銃使用報告書を書いた時の騒動を思い出し、
ククク・・・・と笑った。
「ハボック少尉?」
思い出し笑いをするハボックに、ホークアイはキョトンと首を傾げる。
「いえね。そんな理由でお咎めがないのは、中尉一人だけですよ。」
そう思うと、可笑しくてと笑うハボックに、ホークアイは更に首を
傾げながら、自分の作成している報告書に目を落とす。
「嘘は書いてはいないわ。」
憮然としたホークアイに、ハボックは更に声を立てて笑う。
実際、最初の時は、上へ下への大騒ぎを引き起こしたのだ。
仮にも上官に銃を向けただけでなく、発砲したホークアイは、
当然の事ながら、軍法会議所へ送検されたのだ。
上官暗殺未遂事件の犯人として。
普通ならそれだけで、自分の閉ざされた未来に涙をするはずなのだが、
ホークアイは普通の人間と違った。堂々と言ってのけたのである。
これは、仕事を行わない上官に対する躾だと。
その言葉に、その場にいる全員が固まった。
どこの世界に、上官を躾ける部下がいるというのだろうか。
「ふむ。ホークアイ准尉の言い分は分かった。しかし、
躾にしては、些か度を越しているのではないのかね?」
全員が固まる中、偶々お忍びで来ていたキング・ブラッドレイ
大総統のみが、にこやかに、ホークアイに尋ねる。
「うちの躾けは厳しいのです。」
ニッコリと微笑みながら言い切ったホークアイに、大総統を除く
全員が恐怖に慄いた。ある程度、人生の裏も表も知り尽くした
男達が、准尉に対して、完全降伏した瞬間だった。
「はっはっはっ!良かろう。私が許可をする。
思う存分マスタング少佐を躾けたまえ!」
そんな度胸のあるホークアイが気に入った大総統は、
笑いながら、ホークアイに銃の使用の許可を与える。
つまり、この瞬間、ホークアイが、ロイに対して銃を
ぶっ放し、あまつさえ、それによって怪我を負っても、
ホークアイに責任はないという権利を大総統自らが
与えたのである。
その証拠に、次の軍予算では、ホークアイ専用の
銃器補充枠が組まれ、ますますホークアイは
軍内部で恐れられる事になる。
ちなみに、ホークアイ専用の銃器補充枠は、
何処から捻出されているかと言うと、ロイの給料から
天引きされている。曰く、授業料らしい。
最初、それに激しく抗議したロイだったが、
大総統曰く、ホークアイに撃たれるようなマネさえ
しなければ、天引きされないのだと、反対に責められ、
渋々引き下がった。以来、毎月授業料を払い続けている
ロイは、やはり学習能力がないのだろうと、ハボックは
結論付ける。
「大佐!大変です!!」
そこへ、フュリーが青い顔で戻ってきた。手に未だ
カメラを持っているという事は、まだ現像をして
いないのだろうと、ハボックは、ボンヤリと見ていた。
だが、次の瞬間、ハボックは咥えていたタバコをポロリと
落とし、ホークアイは、机の引き出しから、ライフル銃を
取り出す。そして、極めつけが、ロイのただならない
形相だった。
「フュリー曹長。もう一度言いたまえ。」
殺気篭ったロイの視線に、怯えながら、フュリーは、
復唱する。
「先程、リゼンブール行きの列車を、トレインジャック
するという、犯行声明文が送られてきました!」
その言葉に、ロイは椅子から立ち上がる。
リゼンブール。東部の片田舎であるその場所は、
今日に限っては、ロイの中で最重要地となる。
「合宿の場所は、リゼンブールなんだ!」
脳裏に浮かぶのは、最愛の少女の笑顔。
本日、その少女は、合宿地である、リゼンブールへ
今、まさにこの時間、旅立っているはずだった。
「エディ!!」
机を避ける時間すら惜しく、ロイは机の上を飛び
越えると、書類の山を蹴飛ばしながら、そのまま
部屋を駆け出す。
「ハボック少尉!私達も行くわよ!!」
「イエス!マム!」
その後を2人は慌てて追いかける。
だから三人は気づかない。
その後に続いたフュリーの言葉を。
「犯人達は、既に民間人が取り押さえたという事
なんですけど・・・。行っちゃいましたね。」
どうしましょうか・・・・。後には、途方に暮れた
フュリーだけが残された。




「フン。意外にあっけないものだな。」
イーストシティ駅構内では、テロリスト達が、両手両足を
グルグル巻きにされて、ホームに転がっていた。
そこに佇む一人の青年。
金の髪を掻き上げながら、銀の瞳を、これからくるで
あろう人物が現れる改札口へと向ける。
「あのエドが惚れたという男、ロイ・マスタング大佐か・・・・・。」
どんな奴か知らないが、色々と試させてもらう。
青年は、銀の瞳を細めて、ニヤリと笑った。




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久々の更新〜。
夏にクリスマスか・・・・・。
季節外れにも程がある・・・・・。