Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 
     第33話  宣戦布告



「それでは、俺はこれで。」
バチバチと火花を燃やしていたロイとラッセルだったが、
片手を挙げて、その場を立ち去ろうと踵を返す。
「待ちたま・・・・・。」
「お待ちなさい!!」
ロイの言葉を鋭く遮ると、ロイの後ろに立っていた
ホークアイが、幾分顔を青褪めさせながら、ロイを
突き飛ばす勢いで、前に出る。
そんなホークアイに、数歩行きかけたラッセルが、
ゆっくりと振り返る。
「やはり・・・あなたは・・・・。」
驚くホークアイに、ラッセルはニッコリと笑う。
「お久し振りです。リザ姉さん。」
「姉さんだと!!」
ホークアイに突き飛ばされて、ホームに尻餅を
ついているロイが、驚きの声を挙げる中、その横に
立ったハボックが、ポンと手を叩く。
「そっか。道理で見た事があると思ったら、ラッセルか。
久し振りだなぁ。」
どうやら、ハボックも、青年に面識があるらしく、気安く
声をかけている。
「あなた、ゼノタイムにいたのではなかったの?」
驚くホークアイに、ラッセルは、まるで悪戯が成功した
子どものように笑う。
「リザ姉さんを驚かせたくて。」
そんなラッセルに、ホークアイは苦笑しながら、
先程から気になっている事を尋ねてみる。
「ところで、あなたとエドワードちゃんの関係は・・・・・。」
「友達ですよ。・・・・・今のところはね。」
ラッセルは、ニッコリと微笑みながら、挑発的な視線を、
未だホームに座り込んでいるロイに向ける。その態度に、
ムッとしたロイは、スクッと立ち上がると、似非くさい笑みを
浮かべながら、ラッセルに近づく。
「ラッセル君だったね。君はホークアイ中尉の・・・・・。」
「従弟ですよ。」
ラッセルは、肩を竦ませながら言う。
「もう帰っても良いですか?俺、エドに頼まれた事を
しなければならないので。」
エドという言葉に、ロイはピクリと反応する。
「・・・・残念だが、こちらも仕事でね。事情聴取をさせて
もらいたいのだが。ハボック、彼を司令部へ案内しろ。」
さっさと連れて行けとハボックに命じるロイをチラリと見ると、
ラッセルはホークアイに話しかける。
「リザ姉さん。俺、これからエドに頼まれた事をしなくっちゃ
ならないんだよね・・・・・。もしも出来なかったら、エドが
とても哀しむ事なんだ。」
そこで一旦言葉を切ると、ラッセルはニッコリとリザに微笑み
かける。
「司令部へ行くのは、後日ということじゃ、駄目かな?」
「・・・・仕方ないわね。いいわよ。行っても。」
ため息と共に頷くホークアイに、ロイは目を細める。
「中尉。公私混同をするとは、君らしくもないな。」
鋭い眼を向けるロイに、ラッセルがフッと鼻で笑う。
「別に俺は司令部へ行ってもいいんですけどね。
エドからのたってのお願いですので。そっちを優先させたいんです。
それとも、マスタング大佐の妨害にあったと・・・・
そう、エドに言っても良いんでしょうか?」
勝ち誇った笑みを浮かべるラッセルに、ロイは
何も言えずに俯く。
エドのたっての願いという言葉に、ロイは悔しそうにギリリと
唇を噛み締めた。何故、エドは自分ではなく、この男に
頼んだのだろうか。そんなに自分はエドにとって
頼りにならない男なのか!
そう暗い思考に陥りそうになるロイを憐れに思ったのか、
ハボックが口を挟む。
「エドの頼みってなんだよ?オレが代わりにやってやろうか?」
運良くラッセルからエドの頼みごとを聞きだし、それを
ロイにさせれば、エドのロイの評価は上がるのではと、
思ったのだが、続くラッセルの言葉に、ハボックは、自分が
援護射撃をしたつもりが、ロイにトドメを刺した事に気がついた。
「ジャン兄さんのお手を煩わせる事もありません。それに、
これは、わざわざエドが俺に頭を下げてまで頼んだ事ですしね。
それだけ俺は彼女に頼りにされている訳なのだから、
ちゃんとエドの期待に応えようと思っているんです。」
では、失礼。
そう不敵な笑みを浮かべながら、ラッセルは改札口へと
歩いていく。
「あの・・・大佐?」
ラッセルの言葉にショックを受けたロイは、真っ白に
固まったまま、ホームに立ち尽くしていた。
そんな駄目駄目上司を、一生懸命にハボックが慰めて
いる中、ホークアイは去っていくラッセルの後姿を
じっと見つめながら、ニヤリと笑う。
「私とした事が・・・・・危うく大佐の口車に乗る所だったわ。
そうね。あのロリコン変態佐なんかより、
ラッセルの方が・・・・・・・。」
一人は石化してホームに佇む黒髪の男。
一人は、そんな男を一生懸命に慰めている金髪の男。
そして、最後の一人は、青年の後姿を見つめながら、一人
不気味に笑う金髪の女。
三人とも軍服を着ているという事もあり、何事かと、人々は
遠巻きに三人を取り囲んで様子を伺っていた。そんな人々の
輪から出てきたラッセルを、一人の少年が呼び止める。
「ラッセル。」
声の方を振り向いたラッセルは、そこに立っている少年を
一目見て、ニヤリと笑った。
「よお!アル。」
「・・・・・・随分と、手ぬるいじゃない?」
アルは、チラリと人だかりを見ながら、ラッセルに眉を顰める。
「とりあえず、宣戦布告?ってのをやってみたんだが。」
まだまだこれからさとニヤリと笑うラッセルに、アルもまた、
黒い笑みを浮かべる。
「頼りにしているよ。ラッセル。」
「おう!任せておけ。」
親指をグッと突き出して片目を瞑るラッセルに、アルも
同じくグッと親指を突き出す。
「フフフ・・・姉さんを絶対に守ってみせる。」
アルは、もう一度人込みを一瞥すると、振り返らずに、
ラッセルと共に改札を出て行った。







          

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サブタイは、ロイのヘタレ物語とすれば良かったかも。
黒いアルが好き〜。