Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 第34話 雪に願いを 想いをあなたに 「くそ!これは、私への挑戦状だな! そうなんだな!!ったく!どいつもこいつも クリスマスだと浮かれて問題ばかり起して・・・・。 いっそのこと、全てを消し炭に・・・・・。 フフフフフフ・・・・・・。」 これでもかと山積みにされた書類の間から、 ロイの呪いの声が執務室を包み込む。 まっ、呪いの言葉も吐きたくなる気持ちも 分からないではないがというのは、ロイの 腹心の部下の一人、ジャン・ハボックだった。 最愛の少女に、気合を入れてクリスマスデートに 誘ったが、素気無く断られ、その時から、ロイの 不幸は始まったのかもしれない。 本当なら今日は、2ヵ月も前からホークアイに 土下座をしてもぎ取った有休で、エドとの距離を 一気に縮めるつもりだったロイだったが、肝心の エドに振られ、ロイは、愛猫エドと心静かに 過ごそうと思っていた。しかし、どうせ暇なのでしょうからと いう、ホークアイの一言で、傷心を更に塩を塗りたくるように、 強制休日出勤である。ちなみに、猫エドは、アルが 一匹だと可哀想と言いながら、自宅に拉致している。 「さて、どうしたものか。」 チラリとロイを見ると、書類の山に頭を乗せて、涙の川を 作っていた。 はっきり言って、キモイ。 この分だと、残業決定。 となると、必然的に自分まで残業? いかーん! それは、断じて駄目だ!! ハボックはフルフルと首を横に振る。 毎年、クリスマスのロイは、女性とのデートをハシゴして 忙しいと、以前ホークアイから聞いていたハボックだったので、 ロイの状況には、ざまあみろ!と思っていたが、その 余波が自分にまでやってくるのは、絶対に駄目だ。 何せ、今まで、遠距離恋愛の為、まともなクリスマスデートが できなかった自分達の、初めてまともなクリスマスデートなのだ! 例え、大総統の出撃命令が出されようとも、絶対に今日の クリスマスデートを最優先にする! ハボックは燃えに燃えていた。 「仕方ない。奥の手を出すか。」 ハボックは、ガタンと席から立ち上がると、ホークアイがいないことを 確認しながら、いそいそとロイの元へと近づいた。 「大佐〜。昨日のトレインジャックの報告書ッス。」 書類の山の一つに、ドサッと重ねると、ロイが嫌そうな顔でハボックを 睨み付ける。 「貴様、消し炭になりたいらしいな・・・・・・。」 ゆっくりと発火布の手袋を嵌めるロイだったが、何時もならガタガタと 震えながら部屋の隅に避難するハボックが、何故か不敵な笑みを 浮かべて立っている事に気づき、眉を潜ませる。 「ハボック?」 訝しげな顔でハボックを見上げるロイに、ハボックはゆっくりと 胸ポケットから一枚の封筒を取り出す。 「・・・・・ハボック。すまないが、私の愛はエディ一人に注いでいる。 貴様の想いには答えられん。」 肩を竦ませて、首を振るロイに、ハボックは思わず手にした封筒を 握りつぶしそうになる。 (我慢だ!ここは定時に上がるため、我慢だ!!) 「その、大佐の最愛のエドから大佐宛の手紙なんですけどね! いらないのなら、捨てますよ。」 目の前でヒラヒラと手紙を揺らすと、ロイは電光石火の速さで、 ハボックから手紙を奪い取ろうとするが、ロイの行動を予想して いたハボックは、 ロイの手が手紙に届く寸前で、手紙をポケットにしまう。 「ハ〜ボ〜ッ〜ク〜!」 途端、視線で人が殺せるような、鋭い視線で、ハボックを睨みつける。 「大佐。定時までに仕事を全部終わらせたら、お渡しします。」 「定時までに終わらせる。だから、今直ぐ一秒も待たせずに見せろ。」 さぁ!さぁ!と手を出すロイに、ハボックはため息をつきながら、先程 書類の山に無造作に置いた、トレインジャックの報告書を乗せる。 「ハボック!」 途端、不機嫌になるロイに、ハボックはシッと人差し指を口に当てる。 「ホークアイ中尉にバレてもいいんですか?没収されますよ。手紙。」 その言葉に、ロイはググッとくぐもった唸り声を上げる。 「それに、エドにも言われているんですよね。」 エドの言葉に、ロイはピクリと反応する。 「エ・・・エディだと!?」 「ええ。大佐の仕事が終わったら渡して欲しいと。仕事の邪魔に なりたくないと言ってましたよ。」 エドの言葉は凄まじいまでの威力を発揮した。 それまで、指一本動かさずに、仕事をサボっていたのが嘘で あるかのように、ロイは手を光速に動かして、書類を捌いていった。 「お疲れッス!これで本日の業務は終了です。」 屍と化したロイだったが、ハボックの業務終了の言葉に、パッと 目を開けると、ヌッと両手を差し出す。 「まだ仕事がしたいんですか?」 仕方ないですねえ・・・・・。と肩を竦ませるハボックに、ロイは バンと机に両手を力任せに叩きつけるように、椅子から 立ち上がる。 「ハボック!!」 「ジョーダンですって。これがエドの手紙ッス!」 差し出される手紙を、ロイは引っ手繰るよう奪うと、愛しそうに 見つめる。 「じゃあ、メリークリスマス!これで失礼します。」 ビシッと敬礼すると、ハボックは軽い足取りで部屋を出て行く。 既にハボックの頭の中には、ホークアイとのデートしかなかった。 「エディ・・・・。」 一人、残されたロイは、逸る気持ちを抑えて、破かないように、 ゆっくりと慎重に封を開ける。 「前略 ロイ・マスタング様 お仕事お疲れ様です。 12月24日 23:08に、「ハガレン放送局」を お聞き下さい。 エドワード・エルリック」 手紙には、それしか書かれていなかった。 透かしてみても、火で炙って見ても、それしか書かれていなかった。 「でも、あの子からの初めての手紙だ。」 一瞬、ラブレターかとドキドキしていただけに、ショックは大きかった。 しかし、あのエドがわざわざハボックに手紙を託したほどだ。何か 重要な事がラジオ番組にあるかもしれないと思い直し、ロイは 手紙を丁寧にカバンの中に仕舞うと、コートを手に、慌てて部屋を 飛び出した。 「そろそろ時間だな・・・・。」 ロイはブランデーを片手に、時計を見上げると、ラジオのボリュームを 上げる。 「本当なら、この腕の中にエディがいるはずだったのに・・・・。」 はぁああああと深いため息をついたロイだったが、続くラジオから 聞こえる声に、耳がダンボになる。 「・・・・では、次のリクエストです!イーストシティ在住のエディさんから 焔の大佐さんへ!」 「エディ!?」 ロイは、慌ててブランデーの入ったコップを机の上に置くと、ラジオを ガシッと両手で掴む。 「お仕事が忙しいのに、いつも私の為にありがとう。何もお返しが 出来ないけど、せめて少しでも疲れが癒されますように。 メリークリスマス!というコメントを頂いております。」 その言葉に、ロイは心の中がホンワカと暖かくなる。先程までの 心に巣食っていた闇が一掃され、ロイは知らずに笑みを浮かべる。 「それでは、曲は『雪に願いを』です!お聞き下さい!」 ラジオから流れる曲に、ロイは目を閉じると、椅子の背凭れに 身体を預けるように、深く座り直す。 エドからのラブソングのようで、ロイは頬を赤らめる。 例えば一人の夜でも 君の事思ってる人は 必ずいるから 「・・・・・君だけに思われれば、本望だよ。エディ。」 次にエドに逢った時、有無を言わさずに抱きしめそうだと、 ロイは幸せそうに笑った。 ****************************** とりあえず、クリスマス編終了です! (エド子さんがいないので、盛り上がりに欠けますが。) 最初、『星に願いを』にするはずでしたが、槇原敬之の『雪に願いを』に してみました。エド子さんのさりげない告白編です。あなたの事を 思っているのがここにいますという意味が込められています。
|