Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 
     第36話  災難は忘れた頃にやって来る




          


         「そろそろですね・・・・・・。」
         仕事に厳しい普段のホークアイから想像できないくらい、
         朝から時計を見ては、ソワソワしている。対するロイも、
         心、ここに非ずと言ったように、書類そっちのけで、じっと
         朝から壁に掛かっている時計を凝視してため息などついている。
         「・・・・・・そ・・そんなに心配しなくても、大丈夫ですって!」
         朝から挙動不審な上官二人に、ハボックは取り成すように、
         ハハハ・・・と乾いた笑みを浮かべる。内心、上官二人の
         心配性に苦笑するが、かく言う自分も、可愛い妹分の合格発表に、
         朝からソワソワと意味もなく部屋内をうろつき回っていたりする。
         「勿論、エドワードちゃんが試験に落ちるということは、万に一つも
         ない事は分かっているわ。」
         でもね・・・・それでも不安なのよと、ホークアイは朝から数えて
         実に481回目のため息をつく。
         そんな重苦しい空気を壊すかのように、執務室の扉が荒々しく
         開けられた。
         「大佐ーっ!リザ姉ーっ!ジャン兄!オレ、受かったー!!」
         まるで太陽のごとく、満面の笑顔を真正面から見た大人三人は、
         魅入られたように、エドの顔を凝視する。
         「あの・・どうした・・・の・・・・?」
         瞬間動きを止めた大人たちが我に返ったのは、困惑気味な
         少女の言葉だった。
         「おめでとう!エドワードちゃん!!」
         一番初めに我に返ったホークアイは、満面の笑みを浮かべると、
         ギュッとエドを抱きしめる。
         「本当に良くやったな!偉いぞ!エド!!」
         ハボックも、嬉しそうにエドの頭をグリグリ撫でる。
         「もう!ジャン兄!髪の毛がグチャグチャになっちゃう!」
         ムーッと膨れながら、エドはハボックに乱された髪を治しながら、
         自分の席で、惚けたように自分を見つめるロイに気づくと、
         キョトンと首を傾げる。
         「ねえ、リザ姉。」
         エドは不思議そうな顔でホークアイを見上げる。
         「なあに?エドちゃん?」
         ニッコリと微笑むホークアイに、エドは困惑気味に口を開く。
         「あのさ・・・マスタング大佐、どこにいるの?今日はお休み?」
         「「はぁ!?」」
         エドの言葉に、ホークアイとハボックは固まる。目の前にいる
         ロイを、エドは見えていないのかと、二人は戸惑ったように、
         お互いに顔を見合わせた。
         「あのね、エドワードちゃん?」
         恐る恐る訊ねるホークアイに、エドはうーんと首を傾げて、じっと
         ロイを見つめながら訊ねる。
         「あの人、誰?マスタング大佐に似ているけど・・・・・。」
         「エドワードちゃん!!」
         エドの言葉に、ホークアイは真っ青な顔で叫ぶ。
         受験勉強のし過ぎで、脳みそがどうかなってしまったのだろうか。
         そんな事を考えながら、ホークアイはどう対応していいのか分からず、
         縋るように、ハボックを見る。そんなホークアイの視線に、ハボックは
         青褪めた顔で頷くと、ガシッとエドの両肩に手を置く。
         「ジャン兄?どうかしたの?」
         普段の飄々とした表情を一変させ、ハボックは探るような目でじっと
         エドを見つめる。
         「エド、今から医者に行こう!」
         「ジャン兄?医者?なんで?」
         キョトンとなっているエドに、ハボックは半ば強引に医者に連れて行こうと
         エドの手を取って、部屋から出て行こうとするが、その前に、ノックも
         せずに荒々しく開けられた扉に、ゴンと正面からぶつかってしまう。
         「ジャン兄!?」
         「ライ!!これは一体どういうことだ!!」
         ドアにぶつかって蹲るハボックに、エドが慌てて叫びながら側に寄るのと、
         ドアを蹴破る勢いで入ってきた私服姿のロイが叫んだのは、同時だった。
         「た・・・大佐が二人・・・・・。」
         今飛び込んできたロイと平然と椅子に座っているロイを、交互に見比べて、
         ホークアイは固まる。軍服と私服の違いはあるが、二人は鏡を見ている
         ように、そっくりだった。
         「あっ、マスタング大佐だ!こんにちはー。」
         訳が判らず戸惑っているホークアイとは対称的に、エドは、入ってきた
         ロイに、にこやかに挨拶を交わす。
         「ああっ!エディ!!よく来てくれたね!!」
         怒り心頭の私服姿のロイは、エドの存在に気づくと、ほにゃあ〜と顔を
         綻ばせる。その様子に、ホークアイは、私服姿の方が、ロイ・マスタングだと
         漸く気づいたのであった。
         (では、この人は誰なの?)
         恐る恐るホークアイが軍服姿のロイを振り返る。
         「やあ、ロイ。随分と時間がかかったじゃないか。待ちくたびれたよ。」
         フフフフフ・・・・・・・。
         不敵な笑みを浮かべる男に、ホークアイは、ゾクリと背筋を凍らせた。
         



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本当の意味でのロイのライバル登場!!