Stay by my side 〜陽だまりの中で〜

             第37話  風と焔




「へぇ〜。マスタング大佐のお兄さんだったんだ〜。」
ホークアイに煎れてもらった紅茶を飲みながら、エドは、
感心したように、自分の目の前に座っているロイそっくりな
顔をした男を見つめる。エドの前にはロイの双子の兄である、
ライ・マスタングが座っている。ロイは、エドの隣に
腰を降ろし、ライを威嚇するように睨んでいる。
そんな緊張した空気に耐え切れなかったのか、
それとも、上官の家族に遠慮したのか、ハボックと
ホークアイは席を外している。
「ああ。ちょっとした悪戯のつもりだったんだけどね。
まさか、一目で見破られるとは思わなかったよ。」
そう言って、ハッハッハッと笑うライに、エドの隣の席を
陣取っているロイは、苦虫を1000匹ほど噛んだ様に、
眉間に皺を寄せながら腕を組む。
「昔から、ライは私の振りをして、周囲を混乱に
陥れるのが、何よりも生きがいにしている節が
あってね・・・・。」
ロイは、深いため息をつくと、直ぐに嬉々とした
表情で、エドの手を握り締める。
「しかし、君はすごいね。両親ですら私達の
見分けがつかないと言うのに・・・・。」
これも愛だな!!と上機嫌のロイに、エドは
キョトンと首を傾げる。
「・・・・そうなの?纏うオーラって言うか・・・
二人とも全然違うのにね。」
エドの言葉に、ロイとライは興味深深に訊ねる。
「「オーラ?」」
ハモル双子に、エドは、コクンと首を縦に振る。
「んーっと・・・ライさんは、どちらかというと、
【風】かな?」
「風?」
聞き返すライに、エドは大きく頷く。
「うん!なんか、自由な【風】って感じ!
暗い雨雲を吹き飛ばす、爽やかな風!!」
満心の笑みのエドに、ライははにかんだように
頬を赤く染める。そんな二人の様子に、
面白くないロイは、慌てて二人の間に割って入る。
「エ・・・エディ!わ・・私は?」
「大佐?大佐は・・・・【焔】。暗闇を
明るく照らす光を生み出す焔。暖かくて、
安心する・・・・・って、オレ、何言ってんだろ!!」
途端、ボンと音を立てて真っ赤な顔で俯くエドに、
ロイは幸せそうに微笑む。
そんな初々しい二人に、ライは一瞬面食らったように
唖然となっていたが、直ぐにニッコリと底の見えない
笑顔を貼り付けると、エドに話しかける。
「君は伯母さんの言っていた通りの、素晴らしい女性だ!
もっと早く君に逢いたかったよ!」
「ふえ?伯母さん・・・?」
ライの言葉に、戸惑ったようにロイを見上げる。
ライの伯母という事は、必然的にロイの伯母という事に
なる。どこかでロイの伯母に出会ったのかと、
困惑気味に自分を見るエドに、ロイは疑問に答える。
「クレア・ブラッドレイ。大総統夫人の事だよ。」
「えええええええええ!!クレアおば様の甥だったの!?」
初めて知る事実に、エドは驚きの声を上げる。
父、ホーエンハイムの親友の妻で、小さい時から
自分を可愛がってくれたクレアが、ロイの伯母である
事に、エドはポカンと口を大きく開けたまま固まってしまった。
「・・・・私もつい最近知ったばかりだよ。」
どうして早く教えてくれなかったんだ!と詰め寄る
エドに、ロイも苦笑する。
「ところで、エドワード。折角知り合えたのだから、
これから食事でもどうかい?合格祝いも兼ねて・・・ね?」
じゃれついているロイとエドに、少し引き攣った笑顔で、
ライはエドを食事に誘う。
「え・・・!?でも・・・・。」
いくらロイの双子の兄だからと言っても、ライとは初対面
なのだ。エドはどう断ろうかと思案していると、
ロイが不機嫌も露な顔でライを睨みつける。
「・・・エディは、私と食事の約束があるのでね。」
本当はそんな事実はないのだが、嘘も方便。
いや、自分としては了承は取っていないが、
エドと食事に行く気満々なので、嘘は言っていないと
己に言い聞かせる。
またにしてもらおうかと、ギロリと睨みつけるロイに、
ライは平然と肩を竦ませる。
「・・・・その割には、仕事が滞っているようだね。
あれで、定時までに終わるのか?」
フッと侮るような仕草で、チラリと机の上にこれでもか!と
ばかりに山積みされている書類に視線を向ける。
「貴様が、私を自宅に閉じ込めなければ、今頃は
終わっていたんだ!!」
そうなのだ、昨日の夜、いきなり家に押しかけてきたと
思ったら、朝起きたら自分はベットに縄でグルグル巻きにされて、
いたのだ。猫エドが縄を切ってくれなければ、ここに来るのが、
もう少し後になっていたことだろう。あのまま、自分の振りを
されて、エドとデートするつもりだったのではと、ロイは
嫉妬に狂った目を向ける。
「軍人にあるまじき事だな。俺だったから良かったものの、
敵だったら、どうするつもりだ?」
スッと真顔になるライに、ロイは言い返せずに下を向く。
”全く、どうして私は熟睡などしたんだ!!”
普段なら、ちょっとした気配にも目が醒めるのにと、
ググググ・・・と唇を噛み締めるロイに、ライはニヤリと笑う。
”まさか、強力睡眠薬を飲まされたとは思うまい。”
象すらも一瞬で眠らせることが出来る睡眠薬だ。
目が醒めなくて当たり前。
落ち込むロイを、面白そうに見ていたライに、エドは、
でも・・・と口を挟む。
「でも、ライさんは敵じゃないでしょ?」
「え?」
眉を顰めるライに、エドは穏やかな眼で言葉を繋げる。
「ライさんは、マスタング大佐にとって、心を許せる人だから、
目が醒めなかったんだよ。」
ニッコリと微笑みながら、紅茶を飲むエドに、ライは
驚きに目を見開く。
「エディ・・・・。ありがとう。」
頬を赤く染めてロイは、エドに微笑みかける。そんなロイに、
エドもニッコリと微笑む。まるでポカポカとした
春の陽だまりの中にいるような、そんな錯覚を覚え、
ライは眩しそうに目を細めてエドを見つめる。
”参ったな・・・・。”
ライは内心苦笑する。
”伯母さんの言うとおり・・・・嵌ってしまう・・・・。”
「あっ!そうだ!オレ、今日は早く帰るように、言われていたんだ!!」
突然、そう叫ぶと、エドは慌ててソファーから立ち上がる。
「エ・・・エディ!?」
慌てるロイに、エドはペコリと頭を下げる。
「慌しくてごめんなさい。オレ、これで失礼します!ライさんも
さようなら!!」
エドは、ライにも頭を下げると、そのまま執務室を飛び出して行った。
「エディ!!」
慌ててエドの後を追いかけようとしたロイだったが、
続くライの笑い声に、ライを振り返る。
「ハハハハ・・・・。気に入ったよ。」
その言葉に、ロイの目が細められる。
「ライ・・・まさか・・・・。」
ギリリと睨みつけるロイの鋭い視線を真っ向から受けると、
ライは不敵な笑みを浮かべる。
「伯母さんから、彼女が俺の婚約者だと聞いてね。
どんな人間か、興味があったんだ。」
まさか、ここで逢えるとは思わなかったと
クククと笑い出すライに、ロイの怒りは爆発する。
「エディが貴様の婚約者だと!?そんなのは、
あの馬鹿ップル夫婦の妄想だ!!」
事実ではない!と叫ぶロイに、ライは不敵の笑みを
浮かべたまま口を開く。
「お前のものでもないんだろ?お前にとやかく言う
権利はない。」
「・・・・・・エドワードに手を出すな!
彼女は、貴様が遊びで手を出していた女達とは違う!」
低く呟かれるロイの言葉に、ライは面白そうに笑う。
「本気だと言ったら?いつものように、手を引かないのか?」
ライ言葉に、益々ロイの怒りが爆発する。
「貴様には、絶対にエディは渡さん!!」
宣戦布告するロイに、ライはニヤリと笑う。
「・・・・望むところだ。」
二人の間に、火花が散った。


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ライさんとロイの兄弟喧嘩編突入〜!!