Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
第38話 最強主婦、現る!!
「ただいま〜!」
エドは、いつものように、元気良く家のドアを開けようと、
ドアノブに手をかけたが、次の瞬間、慌てて手を離すと、
玄関脇の植え込みの中に避難する。
「この馬鹿弟子がぁああああああああああ!!!」
エドが植え込みの中に身を潜ませた瞬間、ドアが
内側から蹴られるように開けられ、そこには、
ドレッドヘアーの女性が、オドロオドロしいオーラを
身に纏って、仁王立ちしていた。
”ひぇええええええ〜。師匠(せんせい)!?”
旅行中の、伯母であり、錬金術の師匠である
イズミが、家にいる事実に、エドはガタガタ震えながら、
ゆっくりと後ずさる。このまま匍匐前進で、
庭に回り、そこから隣のウィンリィの家に
避難しよう。
そう決意した瞬間、イズミが、ジロリと
エドが隠れている植え込みの方へ
視線を向ける。
「エ〜ド〜?素直にそこから出て来い。」
逆らうことは許さないと、ばかりにイズミは
ボキボキと指を鳴らす。
「は・・・はい・・・・。」
ここで逃げたら、普段の数十倍もお仕置きされると
経験上知っているエドは、素直に植え込みの影から
出る。
「お・・・お久しぶりです・・・。師匠。」
旅行はどうでしたか?今の時期は食べ物が美味しいですよねぇ。
などと、引きつった笑みで訊ねる姪に、イズミは、じっと
値踏みするように見つめていたが、やがてゆっくりと
息を吐くと、一変して優しい笑みを浮かべる。
「おめでとう。高校に合格したそうだな。」
アメストリス学園錬金術学科なんて、すごいじゃないか!
とニコニコと上機嫌なイズミの様子に、エドは
ホッと胸を撫で下ろした。どうやら、純粋にエドの
高校合格を喜んでいるようだ。
「ありがとうございます!師匠!」
大好きな伯母に褒められて、ニコニコと嬉しそうに
近づくエドの肩を、イズミはさりげなく抱き寄せる。
「旅行に行っていて済まなかったな。知っていれば、
受験勉強をみてやったのに。」
普通高校を受験するとしか聞いていなかったぞという
イズミに、エドは頬を紅く染める。
「お・・俺も普通高校に通うつもりだったんだけど。
ある人が勧めてくれて・・・・。」
ある人という単語に、イズミの眉がピクリと跳ね上がる。
だが、俯いているエドは気付かない。もじもじと
恥ずかしそうに話を続ける。
「その人、とても忙しい人なんですけど、俺の
勉強を見てくれて・・・・。合格できたのは、
その人のおかげ・・・・。師匠?」
自分の肩に置かれたイズミの手にかなりの力を
込められた事に、エドはサッと顔色を青くさせる
と、恐る恐る顔を上げる。
軍人嫌いのイズミには、話してはならない話題だったと、
エドが気付いた頃には、イズミは凶悪なまでな
笑みを浮かべていた。
「エド。いくつか訊ねたいことがある。」
「・・・えっとその・・・・。」
低く呟かれるイズミの声に、エドはジタバタと
逃げ出そうとするが、イズミがガシッと
エドの肩を摑んでおり、逃げられない。
「お前をアメストリス学園錬金術学科を
受験するように勧めたという人間は、
まさか。軍人ではないよな?」
「えっと・・・それは・・・軍人さんです。」
イズミの問いに、ここで逃げても無駄と
観念したエドは、正直に話す。
「・・・・ついでに、まさか、国家錬金術師では
ないだろうな?」
「・・・・・国家錬金術師です。」
エドの答えに、イズミは深い溜息をつくと、
最後の質問をする。
「お前と10以上年が離れている、変態ロリコンの
ロイ・マスタング大佐では、ないだろうな!!」
「ひどっ!!マスタング大佐は変態ロリコンじゃないもん!!」
いくら師匠でも許せない!!と顔を真っ赤にさせて
怒鳴るエドの腕を素早く取ると、見事な一本背負いを決める。
「この馬鹿弟子!!軍人で国家錬金術師など、ロリコン以外
何者でもないと、だから絶対に近づくな!とあれほど言った
だろうが!!」
吼えるイズミに、その後ろで一部始終見守っていた
アルフォンスが、恐る恐る声をかける。
「師匠〜。姉さん、気絶して聞いてませんよ〜。」
だが、アルフォンスの控えめな声は、興奮している
イズミには届かない。
「絶対に二人を会わせないようにするぞ!わかったな!
アルフォンス!!」
「はい!勿論です!!」
イズミという百万の味方を手に入れたアルフォンスは、
不敵な笑みを浮かべた。
”フフフフ・・・・。大佐、覚悟して下さいね!”
「クシュン!!」
「?風邪か?ロイ?」
ロイのくしゃみに、優雅にソファーでコーヒーを飲んでいた
ライは、不思議そうに声を掛ける。
「いや。そんなはずは・・・。きっとエディが
私の事を・・・・。」
ポヤヤンと一人妄想の世界に入っていきそうになる
ロイに、ホークアイが銃を片手にギロリと睨みつける。
「大佐!この書類は今日中であるということが、まだ
お分かりになっていないようですね!!」
鬼気迫るホークアイの様子に、ロイは慌てて手を
動かす。そんなロイの様子を、クスリと笑うと、
ライは一気にコーヒーを飲み干し、ソファーから
立ち上がる。
「コーヒーご馳走様。」
そう言って部屋から出て行こうとするライに、
ロイはギリリと睨みつける。
「どこへ行く気だ?」
「エドちゃんのとこ♪」
フフフと不敵な笑みを浮かべるライに、ロイは
ギリリと歯軋りをするが、ふと何かを思いついた
ように、意地の悪い笑みを浮かべると、
ホークアイににっこりと微笑む掛ける。
「ホークアイ中尉。ライの特技は、私の筆跡を
真似できることなのだよ。」
それがどうした?とばかりに、不審げなホークアイに、
ロイは更に笑みを深くする。
「我々の仕事がこのように滞っているのは、
全てライの悪戯によるものだ。」
だったら、彼にも責任を取ってもらったほうが
よいのでは?というロイの言葉に、ライは
ギョッとする。
「待て!一般人に軍の仕事をさせる気か!?」
焦るライを無視して、ロイはホークアイをじっと
見る。
「二人でやれば、直ぐに片付く。そうすれば、
エディの合格祝いに君が予約したケーキを
直ぐに受け取りに行けるぞ?」
一刻も早くエディとお祝いしたいだろ?という
ロイの言葉に、ホークアイは落ちた。
「・・・・・さっさと仕事をすませて頂きます。
宜しいですね。お二人とも。」
両手にそれぞれ銃を構えたホークアイの監視の下、
ロイとライは二人仲良く書類を裁く。
「覚えていろよ!ロイ!!」
「ふん!それはこちらの台詞だ!!」
いがみ合う双子に、ホークアイの容赦のない銃声が
響いたのは、それから数分後だった。
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