Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
第39話 雨時々雷、暴風注意報発令。
「しつこいぞ!!ライ!」 「それはこっちのセリフだ!ロイ!!」 29歳の男。 おまけに、そっくりな容姿。 その上、片方は、軍服を着ている。 ただでさえ目立つ存在が、朝も早くに全力疾走しているのだ。 道行く人が唖然と振り返るのは、当然の事。 しかし、当の本人達は、自分達が注目を浴びているなど、 全く気付かない、いや、気付いても、そんな事は些細な事と ばかりに、横目で相手をけん制しつつ、走るスピードは衰えない。 むしろ、ますますスピードを出していくのだから、彼らの 進行方向にいる人間は、溜まったものではない。 慌てて道の端に寄るのが精一杯な状況だ。 土ボコリを撒き散らしながら、猛スピードで駆け抜けていく 男達を、ただ唖然と見送ることしか出来ない。 まぁ、踏み潰されなかっただけマシであると思ってもらいたい。 何故なら、ここに、非常に過酷な状況を強いられている、 いたいけな存在があるからだ。 軍人の腕の中には、金色の猫。 一般人の腕の中には、黒猫。 二匹の猫達は、こみ上げてくる吐き気と必死に戦っていた。 ここで考えてみよう。 身体をきつく拘束され、目にも留まらぬ高速の速さで 移動する。しかも、前後左右の振動付だ。 さて、どうなるか。 気分が悪くなると答えたあなた、大正解です。 そう、彼らは乗り物酔いになっているのだ。 苦しそうにニャ〜と鳴いてみても、ライバルしか眼中にない 駄目駄目飼い主は、気付かない。 ますますヒートアップしていく二人に、二匹の猫達は、 懸命にもそれ以上何も言わずに、ただ黙って耐えるのみ。 「いい加減にしないか!ライ!!」 軍服の男・・・ロイは、隣で必死の形相で走っている一般人、 ライを横目で睨みつける。 「何故私の後をつけてくる!」 いい加減に、家に帰れと叫ぶロイに負けじと、ライも 怒鳴り返す。 「誰が付けるかっ!!ロイが、俺の進行方向にいる だけだろ!間違えないでくれ!」 ライは、ムッとした顔で、ロイの前に出るが、丁度そこが曲がり角 だった為、勢い余って曲がりきれずに、そのまま転んでしまう。 その時、腕の中の猫を庇って、肩から転んだのは、流石だった。 「ふふん!私の勝ちだな!!」 仰向けにひっくり返るライに、ロイは後ろを振り返りながら、 フフフと不敵な笑いをする。 「ふぎゃ〜!!」 「ん?どうした?エドって・・・・うわあああああああ!!」 突然騒ぎ出した猫エドに、ロイが不審そうに前を向いた時には、 目の前に電柱柱が迫っていた。 「うっ!!」 腐っても軍人。 咄嗟に猫エドをきつく抱き締めると、クルリと反転して、 電柱柱に肩から叩きつけるように、ぶつかる。 へなへなへなと肩膝をつきながら、声なき痛みに耐えたロイが ふらふらと立ち上がった頃には、先程転んだライが 復活しており、ロイを追い抜いていた。 ちなみに、二匹の猫は、この時点で目を回し、既に意識はない。 「まて!ライ!!」 慌ててライを追いかけるロイに、ライは舌を出す。 このスピードで良く舌を噛まないものだ。 「待てと言われて待つ馬鹿がいるか!!」 「どうして、そう可愛げがないんだ!お兄ちゃんは悲しいぞ!!」 29歳の男に可愛げを求めるなと、既にロイの思考は 低下している証拠だ。 「誰が【お兄ちゃん】だ!【お兄ちゃん】は俺だ!!」 ・・・ツッコむところが、そこである所に、ライも 思考が低下しているようだ。 「・・・全く、何してるんでしょうねー。」 そんな不毛な双子の争いを、その後ろを、ピッタリと軍用車で 追跡しているハボックは、呆れた顔で見ていた。 そもそも、ロイを迎えに来たハボックだったが、呼び鈴を押す前に、 必死の形相でドアから飛び出てきた双子は、ハボックに気付かずに、 そのままエドワード争奪戦に突入していったのだ。 走り去る双子の後姿に、ハボックはポツリと呟いた。 「・・・・車使えばいいのに・・・。」 ハボックはボリボリと頭を掻くと、溜息をつきながら、取り合えず、 二人を、正確には、仕事場に連行しなければならない、ロイの後を追った。 漸く二人に追いついたハボックだったが、何度声をかけても無視される 状況に、内心いい加減にしてくれと、そのまま司令部へ直行しようかと 思ったが、そうなれば、ホークアイの怒りを買ってしまうので、 そのまま付かず離れずに二人の後をピッタリと追う事にした。 どうせ、猫エドをエドに預けたら、司令部へ行くのだ。 その時、拾えばいいか程度の気持ちだった。 だが、ここでエルリック家に誰がいるか知っていたら、ハボックは そんな悠長な事を考えずに、ロイを車の中に放り込むと、そのまま エルリック家には寄らずに、司令部へと走り去っていたはずである。 だが、事実としてハボックは、今エルリック家に滞在している人間が 誰かを知らなかった為に、のほほんとしていられたのだった。 「貴様になど負けるか!」 「それは俺も同意権だ。話が合うな。」 ギロリと自分を睨むロイに、ライも不敵な笑みで応戦する。 抜きつ抜かれずのデットヒートの末、エルリック家にたどり着いた二人は、 同時に呼び鈴を鳴らす。 「エディ!!」 「エドちゃん!!」 ガチャリと勢いよく開いたドアに、ロイとライは嬉しそうな顔をする。 「こんの・・・・変態ロリコン軍人がぁあああああああああ!!」 だが、次の瞬間、ロイとライは、蹴飛ばすように、足で開かれた ドアにぶつかって、華麗に宙に舞う。 「う・・・うそ・・・だろ・・・!?」 その光景を車の中で見ていたハボックは、慌てて車から降りると、 青い顔でガタガタ震えた。 エルリック家の扉の前で、腕を組んで仁王立ちしている黒髪の女性の 姿に、一年前の悪夢が再びハボックを襲う。 「可愛い姪に、指一本触れさせん!良く覚えておけ!!ロイ・マスタング!!」 ふははははは・・・と、高笑いをする女性に、ハボックは、恐怖のあまり、
なす術もなく佇むことしか出来なかった。
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