Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
第42話 ツイン・ハリケーン
「エディ!!」
「エドちゃん!!」
バンとドアを蹴破って部屋の中へ転がりこんできたのは、
マスタング兄弟。軍服と私服の違いはあれど、そっくりな
双子は、それぞれ金色の毛並みの猫と黒猫を抱えていて、
汗だくになっている。
突然の双子の乱入に、ホークアイと仲良くお茶を
飲んでいたエドは、呆然と固まってしまう。
そんなエドに、ロイとライは、ツカツカと近寄ると、
先を争うように、口々に話し始める。
「エディ!待たせて済まなかったね!!」
と、ロイがニッコリと微笑みながらエドを抱き締めようと
すると、ライが二人の間に入るように身体を
ねじ込むと、持っていた猫をエドに渡しながら言う。
「ああ!エドちゃん!逢えてよかったよ!
君に頼みたいことがあって、ずっと捜していたんだ!
あっ、これ俺の猫。【ラース】って言うんだ。
かわいいだろ?」
「は・・・はぁ・・・。」
まだ状況についていけないエドは、【ラース】を
受け取りながら、コクンと頷く。
「ライ!エディは、私に用があるんだ。邪魔を
しないでくれたまえ!!」
ムッとしたロイは、強引にライを押しのけると、
猫エドをエドに渡しながら、蕩けるような
笑みを浮かべて、さりげなく肩を抱き寄せる。
「ああ。ここでは、ゆっくり話が出来ないね。
どうだろう、外でお茶でも・・・・。」
「エドちゃん!エドちゃん!ロイなんか
放っておいて、俺とお茶でもしながら、
今後の事を・・・・。」
ライも負けじとエドの肩を引き寄せる。
「ライ!何だ今後の事とはっ!!」
グイッと再びロイはエドを引き寄せる。
「今後の事は今後の事だよ〜ん!
ロイになんか関係ないだろ?」
フフーンと笑いながら、ライはエドを
自分の方へと引き寄せる。
「関係ないだと!!関係ある!
エディは私の!!」
ドキューーーーーーン
ロイの言葉を遮るように、一発の銃声が
部屋に響き渡る。
「ちゅ・・・中尉・・・?」
恐る恐る双子がギギギと顔を横に向けると、
そこには、怒れる悪の女王陛下、もとい、
リザ・ホークアイが、銃を天井に向けて
仁王立ちしていた。銃口から漂う煙を、
フッと口で吹き消すと、ホークアイは、
ゆっくりと、空いている手で、腰のホルダーから
もう一丁の銃を取り出すと、
それぞれをロイとライに向けると、
ニッコリと微笑んだ。
「そこまでです。さぁ、エドワードちゃんを
離しなさい。」
ホークアイの命令に、ロイとライは、オズオズと
エドから手を離す。
「では、お二人とも、ゆっくりとソファーに座って下さい。」
ホークアイは、銃で威嚇しながら、エドとロイ達の間に
入ると、顎でソファーを指す。
スゴスゴとソファーに座るロイ達を、満足そうに眺めながら、
ホーエクアイは、エドに向き直る。
「大丈夫?エドワードちゃん。」
「ほえっ!?あ・・だいじょーぶ。」
ちょっと頭がくらくらしちゃったけどと苦笑するエドの
言葉に、ホークアイは、ギンとロイ達を睨む。
「・・・・折角、出てこられたのですから、大佐は
仕事をして下さい。」
「なっ!!」
絶句するロイの横では、ライがニヤニヤと笑う。
「ふふーん。日頃の行いの差だな!」
勝ち誇った笑みを浮かべるライだったが、
次のホークアイの言葉に、絶句する。
「それから、許可されていない一般人の立ち入りは、
困ります。速やかにここから立ち去って下さい。」
「ちょっと待て!俺は、ロイの身内だぞ!」
猛然と抗議するライを無視して、ホークアイは
ロイを一瞥する。
「大佐、ライ・マスタングなる人物に、立ち入りの許可を
与えましたでしょうか?」
「いや?私は許可を与えておらん!今後一切、未来永劫、
許可など出さん!!」
「だ、そうです。お引取りを。」
ハッハッハッと笑うロイと、澄ましているホークアイを、
悔しそうに見るライだったが、ふと何かを思い出したのか、
ごそごそとポケットを探り始める。
「えっ・・・じゃあ、俺も帰るね・・・。」
ゴソゴソと何かを探しているライを訝しげに見ていた
ロイとホークアイだったが、シュンと悲しそうな声に、
慌てて振り返ると、そこには、両手で猫を抱えた
エドが、ションボリと立っていた。心なしか、
自慢のアンテナが垂れ下がっている。
「エドワードちゃん?」
どうして?と訊ねるホークアイに、エドは済まなそうな顔で
頭を下げる。
「俺、許可貰ってないし・・・・。」
「いや!エディは許可をしているぞ!!」
ロイは慌ててソファーから立ち上がると、エドの傍へ
行き、両肩に手を置く。
「そ・・・なの?」
キョトンと首を傾げるエドに、ロイは安心させるように
微笑む。その後ろでは、ホークアイも、ブンブンと
首を縦に振り続けている。
「そうよ。エドワードちゃんなら大歓迎よ!!
どうしても不安だと言うのならば、フリーパスを
発行してあげるわ!!」
ドンとロイを押しのけて、ホークアイはエドの手を
握る。
「良かった〜。」
花が綻ぶように笑うエドに、ロイとホークアイも
ヘニャ〜と顔を緩める。
「あった!」
そんな和やかな雰囲気の中、突然上げたライの
声に、ロイは不機嫌そうに振り返る。
「なんだ、まだいたのか。許可のない一般人は、
さっさと帰れ。」
シッシッと片手で追い払おうとするロイに、
ライは勝ち誇った笑みを浮かべて、手にした紙を
ロイに突きつけるように見せる。
「許可さえあれば、いいんだよなぁ〜?」
「許可書・・・・・しかも、大総統のサイン入り・・・・。」
呆然と呟くロイの後ろでは、ホークアイが激しく
舌打ちをする。
「何で、お前がこれを持っているんだ!」
「あー、そのことなら、わしから説明しよう。」
怒鳴るロイに、のほほんとした声がかけられる。
「大総統・・・。」
にこやかな笑みを浮かべてドアの前に立っていたのは、
この国の最高責任者、キング・ブラッドレイ大総統、
その人であった。
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