Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
第46話 昨日の敵は今日の同胞
「・・・・中尉。今日の仕事はこれだけかね?」
うず高く積まれた書類を前に、普段なら逃げ腰のロイが、
やる気満々で書類を不敵な笑みを浮かべて見つめており、
それを象徴するかのように、右手にはしっかりと万年筆が握られている。
「はい。それが終われば、後は自由です。」
自由の一言に、ロイの目がカッと見開かれると、
目にも止まらぬ速さで書類を捌いていく。
「中尉!あと二時間で終わらせる!その間は・・・・。」
「勿論、私がエドワードちゃんの護衛を勤めさせて頂きます!」
ビシッと敬礼をするホークアイに、ロイもニヤリと笑う。
「頼んだぞ。何としても、あの腹黒コンビの魔の手から
エディを守るぞ!!それを出来るのは、我々しかいない!!」
「お任せを!見事任務を果たして見せます!!」
ホークアイはロイの言葉に力強く頷くと、颯爽と身を翻して
執務室を後にする。
「・・・・・何時の間に仲良くなったッスか・・・?」
そのやり取りを呆然と見送っていたハボックは、書類と
格闘している上官に視線を向ける。
自分の記憶が正しければ、つい昨日まで、上官二人は、
エドを間に挟んでいがみ合っていたはずだ。
「・・・・共通の敵が現れたからな。」
フッと笑うロイに、ハボックは、ああと納得したように
頷いた。昨日の騒動は、今思い出しても生きた心地がしなかった。
その時の状況を思い出し、ハボックはブルリと身体を震わせた。
表向きはエドの発案となっているが、本当はただ面白いという
理由だけで大総統が起したプロジェクト【愛の動物救援大作戦V(はぁと)】
のスタッフの二人が脳裏に浮かぶ。
撮影担当の、ロイの双子の兄、ライと
コーディネート&メイク担当の将軍の娘。
二人は、エドワードに目をつけ、ロイとホークアイから目の敵にされていた。
どうやら、共通の敵を前に、ロイとホークアイは再び協定を結んだようだ。
「ところで、本当にあの将軍の娘と結婚を?」
ハボックの問いに、ロイはダン!と両手をついて椅子から
立ち上がる。
「なっ!!そんな訳あるかっ!!誰があんな腹黒女とっ!!
第一、私にはエディというれっきとした!!」
「・・・・恋人って訳でもないのでしょう?ロイ?」
「なっ!!」
慌てて声がするほうを見ると、そこには、不敵な笑みを浮かべる
将軍の娘が腕を組んでドアに背を預けていた。
「ジョシー!!何故ここに!!」
青い顔で自分を睨むロイに、将軍の娘・・・ジョシーは、
フッと微笑む。
「勿論、婚約者の顔を見に。」
「その話は断った。私は君と結婚をする気はない!!」
ダンと両手を机に叩きつけるロイに、ジョシーは
気にした風もなく、平然と肩を竦ませる。
「私だってごめんよ。でも、仕方がないじゃない。」
「あの・・・ちょっと宜しいでしょうか?」
険悪な二人に、ハボックがおずおずと手を上げる。
「何?」
面倒ごとは嫌だとばかりに、眉を潜めるジョシーに、
ハボックは好奇心も露に訊ねる。
「大佐と結婚の意志はないのに、どうして結婚するんですか?」
「・・・・大総統夫人のご命令には逆らえないでしょ?」
何を馬鹿な事をと、眉を潜めるジョシーに、ハボックは
更に追求する。
「・・・それだけですか?」
「なんですって?」
何を言っているのだとハボックを見るジョシーだったが、
そのハボックがいつの間にか真剣な表情をしている事に
気付き、自身も表情を改める。
「あなたなら、理不尽な命令なんて聞かないと思ったのですがねぇ。
なんせ、あなたはただの将軍のご令嬢とは違うようだし。」
あのホークアイを相手に一歩も引かないとは、
凄いですねとニヤリと笑うハボックに、ジョシーは
不敵に笑う。
「・・・・褒められているのかしら?そうね。あと付け加える
のならば、ライの・・・幼馴染の恋の成就を願ってるからよ。」
「私だって【幼馴染】ではないかっ!!何故ライの恋の成就を
願って、私の恋の成就は願わないんだっ!!」
激昂するロイに、ジョシーは心底馬鹿にした目で見る。
「あなた、本当にお馬鹿ね。私の話を聞いていたの?
これは、大総統夫人のご命令なの。どうしても、ライと
エドちゃんを結婚させたいみたいよ。」
「・・・・エディと結婚するのは私だ。」
ギリリと睨むロイに、ジョシーは、クスリと笑う。
「そう?無駄だと思うけど。では、私はそろそろ行くわね。
これからエドちゃんのメイクがあるから。」
ヒラヒラと手を振って執務室から出て行くジョシーに、
ロイはドスンと音を立てて椅子に座ると、先程よりも
更に早く手を動かし始めた。
一刻も早く仕事を終わらせ、エドの元に行く為だ。
「ふ・・・ん?ホントにそれだけですか・・・ね?」
ハボックだけが、意味あり気にジョシーが出て行った
扉を凝視しながら呟いた。
「・・・・中尉。邪魔なんだけど?」
嫌そうな顔のライに、ホークアイはニッコリと微笑む。
「そうおっしゃられても、これも任務ですので。軍総力を挙げて
今回のプロジェクトに協力するように大総統閣下よりの
ご命令です。私は大佐より、このプロジェクトの主役とも
言うべきエドワードちゃんの身の安全を守るよう指示されて
おります。」
ピシッと敬礼つきで言い切るホークアイに、ライは
イライラとした顔で頭を掻き毟る。
「何が身の安全だ!軍施設内で危険も何もないだろ?
それよりも何か?東方司令部は、街中より危険なのか?
責任者の怠慢だなっ!!」
吐き捨てるように言うライに、ホークアイは、しれっと答える。
「大佐が無能なのは、今に始まったことではありません。
ご兄弟なのに、ご存知なかったのですか?」
「は?何言って・・・・。」
予想もしなかったホークアイの言葉に、ライは
一瞬唖然となる。
「それに、私はエドワードちゃんの身の安全を守ると
言いました。」
そこで言葉を切ると、ホークアイからブリザートが
吹き荒れる。
「例えいかなる人物であろうと、エドワードちゃんに
不埒な真似は絶対に許しませんから。」
フフフフフ・・・と不気味に笑うホークアイに、
最初は呆けていたライも、表情を引き締める。
「ほう・・・・?仲が悪いと思っていたけど、
どうやらアイツと手を組んだって訳?」
引き攣るライに、ホークアイの笑みが深まる。
「手を組むも何も、私は最初から最後まで
エドワードちゃんだけの味方。」
利用できるものは全て利用する。
それの何がいけないのか。
そうはっきりと言い切るホークアイに、
ライはクックックッと肩を震わせる。
「気に入ったよ。中尉!でも、俺にだって
最強の協力者はいるんだよ?」
果たして君たちは勝てるかな?
チラリと横に視線を移すライに、
釣られるように横に視線を移してみれば、
そこには、犬のタイサと共にやってくる
エドの肩を抱く、天敵の姿があり、
ホークアイは眉間に皺を寄せる。
「・・・・絶対に勝つ!!」
低く呟くホークアイに、ライはニヤリと笑った。
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