Stay by my side 〜陽だまりの中で〜

 第47話 先手



「お疲れ様!エドちゃん!!」
芝生の上に座って休憩を取っていたエドは、
いきなり額にピタリとくっつけられた、冷たいものに、
ひゃあ!と飛び上がって驚いた。
「ラ・・・ライさん!!」
ムーッと涙目で睨むエドに、ライは笑って
エドの額に押し付けていた、コップを差し出す。
「?」
キョトンと首を傾げるエドに、ライはクククと笑う。
「ごめんごめん。ボーっとしてたから、つい。
これ、差し入れ。ロイからだって。」
「あ・・・ありがとうございます!!」
頬を紅く染めながら、嬉しそうに冷えたコップを
受け取るエドに、一瞬ライは探るように見つめるが、
直ぐに人好きの笑みを浮かべて
エドの隣に腰を下ろす。
「ねぇ・・・エドちゃん・・・。」
グゥルルルルル〜〜〜〜!!
そっとエドの肩に手を置こうとするライだったが、
エドの隣に陣取っているタイサの唸り声に、
慌てて手を、引っ込める。
「?どうした?タイサ?」
キョトンと首を傾げるエドに、タイサは
ワンと一声吼えると、エドの膝の上で
丸くなっている猫エドを咥える。
「?タイサ?」
突然の愛犬の行動に、エドは訳が分からず
首を傾げるが、そんな主人の様子には、
気にも留めずに、タイサは、そのまま
エドとライ間に無理やり身体を入り込ませると、
そのままペタンと座り、ペロペロと猫エドの
毛づくろいをし始める。
”こいつ〜〜〜〜〜!!”
時々勝ち誇った笑みをライに向けるタイサに、
ライのこめかみがピクリと引きつる。
「タイサとエド君って、本当に仲良しだよな〜。」
一人、何も分かっていないエドは、
仲睦まじいタイサと猫エドの姿に、
ニコニコと笑う。
「・・・ところで、エドちゃん。」
暫くタイサと猫エドの様子を見守っていたエドは、
ライの真剣な声に、顔を上げる。
「君さぁ・・・ロイとジョシーってどう思う?」
「え・・・?マスタング大佐と・・・ジョシーさん・・・?」
質問の意味が分からず、エドは困惑したようにライを見る。
「あの2人、お似合いだよね〜?」
ニコニコと笑うライに、エドの表情が固まる。
「え・・・えっと・・・その・・・・。」
なんと答えて良いか分からず、エドは挙動不審に
目を彷徨わせる。そんなエドに、更に追い討ちをかけるように
ライは言葉を繋げる。
「ジョシーと俺達は幼馴染なんだ。ジョシーなら、
ロイの望みを叶えられるし、安心して任せられるんだ。」
「マスタング大佐の・・・・望み・・・?」
ガタガタと震えるエドに、ライは大きく頷く。
「エドちゃん。何故ロイが軍人になったか知ってる?」
「そ・・・それは・・・・。」
ライの言葉に、答えられず、エドは俯く。
「ジョシーは知ってるよ。」
その一言に、エドはハッと顔を上げる。
そこには、真剣な表情のライがいて、
エドは思わず息を呑む。
「だからね。エドちゃん。」
怯えるエドに、ライはニッコリと微笑みながら
告げる。
「君、ロイの事を諦めてよ。」
「あ・・・あの・・・俺・・・・。」
ガタガタと震える身体を、両手できつく抱き締めるエドに、
ライは更に何か言おうと、口を開きかけるが、その前に、
切羽詰ったロイの声が聞こえてきた。

「エディ!!」
「マスタング大佐!?」
ほっとした顔で後ろを振り返るエドだったが、
血相を変えてこちらに走り寄ってくるロイの後ろには、
こちらをじっと見つめるジョシーの姿があり、
エドは居たたまれなくなって、慌てて立ち上がると、
そのまま走り去っていく。
「エディ!!」
逃げるエドに、ロイは慌てて後を追おうとするが、
ニヤリと笑っているライの姿を目の端に捉えると、
ロイは激昂のまま、ライの胸倉を掴む。
「ライ!!エディに何をした!!」
相手を射殺さんばかりに怒りを露にするロイの手を、
ライは面倒くさそうに、振り払う。
「俺は・・ただ現実ってやつを・・・。」
「現実・・・?」
ヒヤリとその場の空気が下がる。
「何が・・・現実だと・・・?」
低く呟くロイに、ギクリとライの顔が強張る。
「ロ・・・ロイ・・?」
落ち着けと青褪めるライに、ロイは感情の篭もらない目を
向けると、ゆっくりと右手に発火布の手袋をはめる。
「ロイ!?」
まさか自分に錬金術を使うとは思わず、ライは
ガシッとロイの手を掴む。
「ロイ!落ち着け!!」
慌てるライに、ロイは冷たい視線を向ける。
「言え・・・。エディに何を言った・・・。」
「ロイ・・・・。」
ここまで激昂するロイを見たことがなかったライは、
唖然となる。そんなライの様子に、ロイは
舌打ちすると、すくっと立ち上がる。
「これ以上、エディとの仲を裂こうとするのならば、
ライ・・・貴様でも許さない・・・。」
「だ・・・大総統の命令だ・・・ぞ・・・?」
軍人なのに、逆らうのかと、言うライに、
ロイは不敵に笑う。
「それがどうした?私が大総統になれば、
誰にも文句は言わせん!!」
吐き捨てるように呟くと、ロイは今度こそ
エドを追いかけるべく、駆け出した。
そんなロイの後姿を、感情の篭もらない目でジョシーは見送っていた。




「エディ!!待ってくれ!!」
走るエドに、何とか追いついたロイは、
エドの腕を取る。
「どうしたんだ!何故逃げたんだ!エディ!!」
感情の高ぶるまま、大声を上げるロイに、エドは
ビクリと身体を震わす。
「あ・・・すまない。大声を出してしまって・・・・・。」
怯えるエドの姿に、ロイはハッと我に返ると、
ギュッと優しくエドの身体を抱き締める。
「エディ・・・一体、ライに何を言われたんだ?」
ロイは、エドの顔を覗き込もうとした次の瞬間、
後頭部を、何かが直撃した。
「大佐!!あれほど、言ったのに!!
エドちゃんから離れなさい!!」
エドが驚いて、顔を上げると、
そこには、ブリザートを背負ったホークアイと
その足元には、猫エドを咥えたタイサが立っていた。
「大丈夫だった?エドちゃん!!」
地面に倒れているロイの背中を踏んづけながら、
ホークアイとタイサは、青褪めた顔のエドに、
近づく。
「あ・・・あの・・・マスタング大佐が、倒れて・・。」
「大佐なら大丈夫。身体だけは頑丈だから。」
チラリとホークアイは自分が踏みつけたロイを
一瞥する。倒れているロイの側には、自分が先ほど
投げつけた撮影用のライトが倒れており、
後頭部に出来たでかいタンコブが、痛々しい。
「でも・・・・。」
心配げなエドに、ホークアイはニッコリと微笑む。
「心配しないで。大丈夫。」
そう言うと、後ろを振り返ってボソリと呟く。
「エドちゃんがデートしたいそうです。」
「なに!?エディが!?」
ガバッと立ち上がるロイに、ホークアイは、唖然としている
エドに笑いかける。
「エ・・・エディ!!どこへ行きたい?
今すぐ・・・・。」
ジャキ
エドに駆け寄るロイに、ホークアイは愛銃を突きつける。
「大佐は、執務室でお仕事をお願いします。
エドちゃんは、私とこれからデートですので。」
ニッコリと微笑むホークアイに、ロイは慌てる。
「なっ!!何故君が!!エディとデートするのは・・・
私・・・。」
「大佐。先ほど、大総統より直々の命令書が届きました。
・・・・・速やかに処理をお願いします。さぁ・・・
エドちゃん、行きましょう。」
有無を言わさず、ホークアイはエドの肩を抱くと、
ロイの横を通り過ぎる。
「・・・大佐、敵に先手を打たれました。」
すれ違い様、低く呟かれたホークアイの言葉に、
ロイの表情が険しくなった。



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いよいよラストが近づいてきました。
感想をおねがいします!