Stay by my side 〜陽だまりの中で〜

第48話  絡み合う運命の赤い糸




「・・・・やりすぎたんじゃない?ライ。」
ロイが去った後、ロイの毒気に当てられ、茫然自失となっているライに、
背後からジョシーが声をかける。
「・・・・遅かれ早かれこーなる運命さ。」
ふうと肩を竦ませるライに、ジョシーは忌々しそうに
髪を掻き上げる。
「もう少し穏便にしてくれないと、私がエドワードちゃんに
嫌われてしまうじゃない。」
溜息をつくジョシーに、ライはクスリと笑う。
「大丈夫だって!キズ心のエドちゃんを、この俺が慰め・・・。」
「ライ・・・・。」
ライの言葉を途中で遮ると、ジョシーは初めて戸惑うような視線を
向ける。
「本当に、これで良いのかしら・・・・。」
「ハッ!何を今更。第一、ロイが軍人になった時点で、こうなる事は
決定事項だったんだぜ?」
「そ・・・それは・・・・。」
ギュッとスカートを握り締めながら唇を噛み締めるジョシーに、
ライは慈愛の目を向ける。
「君が気に病むことはない。これが一番自然で、正しいことなんだ。」
ライは、ヨイショっと掛け声をかけて立ち上がると、俯く
ジョシーの肩をポンポンと叩く。
「んじゃ、俺は次の手を打つ為に、伯母さんとの打ち合わせに
行ってくる。」
手をひらひらさせて去っていくライに、ジョシーは呟く。
「本当に?これが正しい事なの・・・・?」
ジョシーの問いは、一陣の風に浚われ、消えた。




「・・・・エドちゃん・・・。大丈夫?」
先ほどから青褪めた顔で、トボトボとホークアイの横を歩くエドに、
ホークアイは心配そうに顔を覗き込む。
「う・・・うん!大丈夫!ちょっと慣れない事で、疲れただけだから・・・・。」
無理に笑うエドに、ホークアイはますます困惑した顔になる。
「と・・・ところで・・・・リザ姉・・・・。あの・・・・。」
エドが口を開きかけた時、丁度すれ違った数名の軍人達の
会話にエドは立ち止まってしまう。
「マスタング大佐が、将軍のご令嬢と婚約したって?」
”・・・・婚約・・・・。”
覚悟はしていたつもりだが、心の準備もなしに聞かされた言葉に、
エドは目の前が真っ暗になる。
「・・・・エドちゃん・・・?」
立ち止まったエドに気づき、ホークアイは慌てて戻るが、エドが踵を返して
駆け出した方が早かった。
「エドワードちゃん!!」
何も言わず走り去っていくエドに、ホークアイは慌てて追いかけようとするが、
背後から掛けられる声に、思わず後ろを振り返る。
「・・・・・ロイ・マスタングはどこだ・・・・。」
ドレッドヘアーの女性が凄まじい殺気と共に、仁王立ちしている姿に、
ホークアイは思わず銃に手をかける。
「あ・・・あなたは・・・。」
かつて戦場の最中ですら、これほどの殺気を感じた事がないと、ホークアイは
ゴクリと唾を飲み込む。
一触即発の事態に、最初に動いたのは、ドレッドヘアーの女性だった。
女性は、ツカツカとホークアイに近づくと、親指で自分の胸を指して叫ぶ。
主婦だーっ!!
「・・・・・エドワードちゃんの伯母、イズミ・カーティスさんですね。
エドワードちゃんの事について、大佐と話がしたい・・・という事ですか?」
ホークアイの言葉に、イズミはフンと腕を組む。
「話が早くて助かるよ。今朝、イーストシティ中に配られた号外について、
ロリコン変大佐の考えを聞きたくてねぇ・・・・。」
「号外?」
何の事かと眉を顰めるホークアイに、イズミは手にした新聞を差し出す。
「これはっ!!」
さっと顔を強張らせるホークアイに、イズミは低く呟く。
「・・・・ロイ・マスタング大佐に取り次いでもらおうか・・・・。」
イズミの後ろには、激しい怒りの焔が燃え上がっていた。





「なぁ〜。何がどーしちゃったんだろ〜。」
それぞれの飼い主に置いていかれた形になった、猫エドと犬のタイサは、
困惑気味にお互い見詰め合う。
「・・・・わからないが・・・。とにかく、こうしてても仕方がない。
私のご主人の後を追おう。」
そう言って、猫エドの首輪をひょいっと持ち上げ、そのままスタスタと
歩き出す。
「ちょっ!!俺、1人で歩ける!!」
まるで荷物のような扱いに、猫エドはムーッと頬を膨らませながら、
ジタバタと暴れだす。
「エ・・・エド!?」
堪らず猫エドを離してしまい、焦るタイサに、猫エドはベーッと舌を出す。
「タイサの馬鹿!俺は、ロイのとこに行く!!」
「ま・・・待ってくれ!!エド!!」
引き止めるタイサに、猫エドはもう一度舌を出すと、そのまま茂みの中に
入っていく。
「エド!!」
遠くで自分を呼ぶ声が聞こえるが、猫エドはプンプンと怒りながら狭い
茂みの中を進んでいく。
「最近、タイサって俺に対して過保護すぎ!!俺だってちゃんと1人で
歩ける!!」
ブツブツ文句を言いながら、反対側に出ると、ウーンと伸びをする。
「さて!ロイのトコにでも行こう!!」
そのまま足取りも軽く歩き出そうとするが、目の前に立ちはだかる黒猫に、
猫エドは眉を顰める。
「どこに行くつもりだ?エド。」
「・・・・・ラース・・・・。」
ニヤニヤと笑いながら近づいてくるラースに、猫エドはスッと眼を細めた。
「どーしたんだよ?そんな怖い顔して。」
クスクスと笑うラースを、猫エドは、更に警戒も露な目を向ける。
「エド〜。」
だんだんと近づいてくるタイサの声に、ラースはチラリと声のする方を見る。
「彼氏、ほったらかしにしていいのかな〜?」
「彼氏じゃ・・・・。」
真っ赤になる猫エドに、ラースは意地の悪い笑みを浮かべる。
「ふーん?彼氏じゃないのか〜。」
「あ・・そ・・・それは・・・。」
思わず否定してしまったが、自分とタイサはれっきとした恋人同士。
このことをタイサが知ったら、自分をなんと思うだろうか。
その事に、さっと顔を強張らせる猫エドに、ラースは煽るように言う。
「じゃあ、アイツ、俺が貰うから。」
「・・・・へっ!?」
ラースの挑発的な笑みに、猫エドはポカンと口を開けて驚いた。



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初登場から、結構間が開いてしまいましたが、
漸くラースも参戦。