Stay by my side 〜陽だまりの中で〜 序章 出会いは突然に 何で、こんな事になったのだろう・・・・。 熱の為、ハッキリしない頭で、エドワードは、 ぼんやりと自分を羽交い絞めしている男を眺めていた。 ”はぁ。近道を通るのではなかった・・・・。” 朝から微熱があったエドは、下校時間の頃には、 既に熱が40度近く上がっており、一刻も早く家に帰ろうと、 近道を通ったときに、それは起こった。 角を曲がった途端、前方から走ってきた男に、 出会い頭ぶつかったのだ。 普段のエドなら、軽く相手を避けて無様に尻餅など ついてはいないのだが、あいにくの熱で、思うように 身体が動かない。 蹲るように道に座り込んでいるエドを、ぶつかって来た男が 親切にも手を貸して、エドを立ち上がらせたと思ったのだが、 次の瞬間、喉元にナイフを突きつけられて、エドは自分が 人質になった事を知った。 「少しでも、動いてみろ!そうすれば、この女の命はねぇ!!」 回りを取り囲む軍人に対して、興奮気味に喚く男に、 エドワードは、深い溜息をついた。どうでもいいが、 早く捕まって欲しい。マジで熱のせいで眩暈が酷いのだ。 「なんだ?その眼は。」 そのエドの態度に、男は不審な目を向けると、持っていたナイフで ピタピタとエドの頬を叩く。 「アンタ・・・・馬鹿だろ。」 ポツリと呟くエドに、男は逆上すると、持っていたナイフを 振り上げた。 「このチビガキがっ!!」 男の言葉に、それまでぼんやりとしていたエドの瞳が強い光を 放つ。どうやら、男はエドの最大のタブーを思いっきり言って しまったようだ。瞬間怒りに我を忘れたエドは、ギロリと男を 睨みつけた。 「誰が眼に入らないくらいミニマム豆チビかぁああああ!!」 エドは、瞬間身を沈ませると、男に足払いをかけて、体制を 崩したところ、右腕を掴んで、豪快に投げ飛ばした。 「うわああああああ。」 壁に激突した男は、ふらつく頭を何とか支えながら、男は、 道に片膝を立てて蹲るエドに向かって走り出した。 「こいつ!!よくもやったな!!」 ”ヤバイ!!” 怒りの形相で自分にナイフを向けて突っ込んでくる男を、 エドは悔しそうに顔を歪めた。 ”熱さえなければ、こんな奴!!” もう駄目かもしれないと、エドはきつく眼を瞑った瞬間、 パチンと指が鳴る音がした。 「うぎゃあああああ!!」 途端、男が焔に包まれ、何が起こったのか分からず、 唖然とした表情のエドの肩に、黒いコートが掛けられる。 「えっ!?」 驚いて背後を振り返ると、黒い髪に、黒い瞳の整った顔立ちの 軍人が、片膝を立て自分に目線を合わせていた。 「誰・・・・?」 「君は・・・・・。」 まるで金縛りにでもあったかのように、身動き一つ出来ずに、 お互いの瞳を見つめる事しか出来なかった二人だったが、 向こうから慌てたような声が掛けられ、ハッと我に返る。 「ご無事ですか!マスタング大佐!!」 慌てて向こうから走ってくるのは、長い金の髪をバレッタで、 後ろに一つに纏めた女性と、咥えタバコの金髪の男。 男の方に、エドは見覚えがあった。隣に住んでいる、 ジャン・ハボック少尉だった。 「私は大丈夫だ。だがこの女性が・・・。」 マスタングと呼ばれた男が、そう言ってエドの方を見るので、 釣られるように、女性とハボックもマスタングの視線の先を見る。 「ジャン・・・兄?」 「エドかっ!?」 エドの顔を一目見るなり、驚くハボックに、マスタングが 不機嫌そうに顔を歪める。 「知り合いか?」 だが、そんなマスタングの様子に気づかず、ハボックは、 座ったままのエドに手を貸す。 「はい。俺の隣に住んでいる子で・・・・。おい、エド、一体 どうしたんだ?」 心配そうに自分を見るハボックに、エドは辛そうに顔を歪めた。 「ちょっと熱っぽくってさ・・・。近道しようとしようとしたら、 その男にぶつかった。」 エドが指を指す方には、先程焔に包まれた男が消し炭になって 転がっていた。その男を兵士達が運んでいくのを、エドはボンヤリと見送った。 「そっか。怪我がなくて良かった。良かった。」 安心したような顔のハボックに、エドはにっこりと微笑んだ。 「ハボック!!」 突然怒鳴られ、エドとハボックは、怒鳴った男を振り返った。 2人の視線に晒され、我に返ったのか、マスタングは、立ち上がると、 決まり悪げに咳払いをしながら、ボソリと呟いた。 「ハボック・・・彼女を送ってやれ。」 そう言うと、さっさとその場を後にする。その後を慌てて 追いかける女性の後ろ姿を、ぼんやりと眺めていたエドは、 隣で敬礼をしているハボックに尋ねる。 「あんな人、東方司令部に居たっけ?」 たいていの顔は覚えているのになぁ・・・。と、腕を組んで首を 傾げる、エドに、ハボックは苦笑する。 「ああ、昨日付けで中央(セントラル)から異動になった、 ロイ・マスタング大佐だ。で、後ろにいるのが、マスタング大佐と共に 異動になった、大佐の副官である、リザ・ホークアイ中尉だ。」 「そう・・・・。」 エドはロイの後姿を眺めつつ、ぼんやりと呟いた。 ”リザさん、綺麗な人。マスタング大佐の恋人かな?” そこまで思って、ハッと我に返ると、エドは頭を振った。 ”俺ったら、何考えてるんだ!!ぜんぜん関係ない人じゃん!!” 「どうした?エド?」 頭をブンブン振り回しているエドに、ハボックは心配そうに声をかける。 「な・・何でもない!!行こう!ジャン兄!!」 真っ赤な顔で自分の腕を引っ張るエドに、ハボックは訝しげながらも、 エドを送ろうと歩きかけたが、エドの肩に掛けられた、 男物のコートに気づいた。 「なぁ、どうしたんだ?それ?」 「へっ!?あっ!しまった!!」 慌てて後ろを振り返るが、ロイの姿は既になかった。 「どうしよう。あの大佐に借りたんだけど・・・・。」 困った顔のエドに、ハボックは、安心させるように肩をポンポンと叩く。 「んじゃ、具合が良くなったら、それを返しに東方司令部に来いよ。 みんな待っているぜ。」 片目を瞑って、ウィンクをするハボックに、エドはパッと明るく笑うと、 自分の肩に掛けられたコートを、そっと触った。 ”また、逢える・・・・。” これが、ロイとエドの初めての出会いだった。 |