第2話

 

 

           「で・・・?これは一体何の冗談なんだ?」
           ギロリとハボックを睨みつけながら、ロイは説明を求める。
           「はぁ?冗談?こっちはお前の【命令】を遂行しただけだぜ?
           そうだよな?エドにハボック。」
           怒り心頭のロイとは対照的なヒューズが、ニコニコと笑いながら、
           エドとハボックの肩を叩く。だが、ロイは力任せに両手で机を叩くように
           して立ち上がると、ヒューズに食って掛かる。
           「命令だと!?私はそんな命令を出した覚えはない!!」
           「何言ってんだ。お前、エドに一週間以内に彼氏を作れと
           命令しただろ?」
           オイオイと、呆れ顔のヒューズに、ロイはきっぱりと否定する。
           「命令していない。第一、勝手に鋼のが言い出した事だ。」
           私は一言も彼氏を作れとは言っていない!!と言い切るロイに、
           ヒューズはニヤリと笑う。
           「でも、一週間以内に彼氏を作れなかったら、エドはお前の言う事を
           何でも聞かなければならないんだろ?だから、彼氏を作った。
           一体、何が気に入らないんだ?」
           その言葉に、ロイはウッと言葉を失う。
           「それに、ファルマンに命じただろ?お前。【早急に明るくて
           性格のいい美人を確保。ハボックに紹介しろ】ってな。」
           「・・・・確かに言ったが、なんで鋼のが出てくるんだ。」
           不機嫌なロイに、ヒューズは首を竦ませる。
           「明るくて、性格のいい、美人。エドにピッタリと当てはまるじゃねーか。」
           これ以上、条件に合う奴はいねーぞ。というヒューズに、ロイは
           これでは話が進まないとばかりに、今度はエドに話を振る。
           「鋼の・・・・・。」
           ピクリと身体を揺らしたエドは、ギュッとハボックの腕にしがみ付きながら、
           目は反抗的にロイを睨みつける。
           「な・・・何だよ。ちゃんと彼氏を作ってきたんだから、文句言うなよ!!」
           だが、ロイはエドがハボックの傍を離れない事に、押さえ切れない
           怒りを感じ、感情のまま、エドに嫌味をぶつける。
           「フン。彼氏だと?ハボックに頼み込むなんて、見え透いた
           事をせずに、素直に負けを認めたらどうだね?」
           その言葉に、エドはカッと真っ赤になる。
           「なっ!」
           「まぁ、仕方がないか。その格好では、彼氏なんて、夢のまた夢だからな。」
           「おい!!ロイ!!!」
           暴言を吐くロイに、ヒューズは慌てて止めに入るが、それよりも
           早く、ハボックがロイとエドの間に割って入る。
           「大佐、俺の彼女を苛めないで下さいよ。」
           何時になく真剣な表情のハボックに、ロイも真剣な顔で睨みつける。
           一触即発の事態に、一気に緊張が高まった部屋だったが、緊張感の
           欠片もない、爽やかな声がものの見事に、場の雰囲気を粉砕していく。
           「あれ?俺もエドちゃんの彼氏に立候補したいんだけどな。」
           全員が、扉の方を振り向くと、金髪で、ホークアイに良く似た青年が、
           ニコニコと笑いながら、立っていた。
           「リック!?」
           驚くエドに、リックと呼ばれた青年は、嬉々としてエドの傍まで来ると、
           エドの手を握る。
           「久し振りだね。エド。」
           「あ・・あぁ・・・。久し振り・・・・。」
           困惑するエドに、横にいるハボックが小声で話しかける。
           「おい、知り合いか?」
           「うん。図書館の司書のお兄さん。いつも世話になってるんだ。」
           リックは、にっこりとエドに微笑む。
           「妹から、エドが彼氏を募集しているって聞いてさ、慌てて来たんだけど、
           間に合わなかったかな?」
           チラリと横目でハボックを冷たい目で睨むリックに、ハボックは
           こいつもエドに惚れているんだなと、苦笑する。
           「妹?」
           リックに妹がいることが初耳な上、リックの妹が何故自分が彼氏を
           募集している事を知っているのかと、エドは首を傾げる。
           「・・・・・フレデリック・ホークアイ中佐・・・・・。」
           地を這うような、低い声でロイはリックを睨みつけながら、
           何時の間に嵌めたのか、発火布の手袋をした右手を
           リックに翳す。
           「鋼のから離れたまえ。」
           だが、リックはにっこりと笑うと、ますますエドの身体を引き寄せる。
           「何故ですか?エドちゃんの事で、マスタング大佐の許可が
           いるんですか?」
           「鋼のの後見人は、私だ。」
           ギリッと自分を睨み付けるロイに、リックは不敵な笑みを浮かべる。
           「後見人だから、なんだと?恋愛は個人の自由でしょう?」
           「私はっ!!」
           我慢できないとばかりに怒鳴るロイの言葉を遮って、エドはツンツンと、
           フレデリックの服を引っ張る。
           「なぁ、なぁ、リックって、本名じゃなかったのか?それに中佐って・・・。」
           キョトンとなるエドに、フレデリックは、にっこりと微笑む。
           「フレデリック・ホークアイだよ。特に親しい人には、リックと呼んでもらって
           いるんだ。だから、君にリックと呼んで欲しいんだ。」
           「ふーん?リックがそう言うのなら・・・。それから、ホークアイって、
           もしかして・・・・?」
           「私の兄なのよ。エドワードちゃん。」
           第三者の声に、全員が振り向くと、リザ・ホークアイ中尉が大量の書類を
           手に部屋に入ってきた。
           「大佐、追加書類です。」
           問答無用に書類をロイに、押し付けると、エドの傍に行き、ニッコリと
           笑いながら、さり気なく兄の手を叩く。
           「ところで、あちらでお茶でもしない?エドワードちゃんの好きな
           ドーナツを用意したのよ。」
           ニコニコと笑うホークアイの横で、では、俺も一緒にと、嬉々として
           いるリックに、エドは困惑顔になる。
           「あの・・・折角なんだけど・・・・・。」
           「この後、俺達、デートなんッスよ。」
           「「「デート!!」」」
           エドの言葉を引き継いだハボックの言葉に、ホークアイ兄妹と
           ロイの声が重なる。
           「当たり前ですよ。恋人同士なんだから。なっ?エド?」
           「うん!ジャン!!」
           では、そう言う事で・・・・と、ハボックとエドがにこやかに部屋を
           後にすると、二人はダッシュで廊下を走り出す。
           「デートって・・・・・。どういう事ですか・・・?」
           コソコソと部屋を抜け出そうとするヒューズに、いち早くショックから
           立ち直ったホークアイが、銃を向けながら説明を求める。
           「いや・・・・。それは・・・その・・・・。」
           「詳しいお話を聞かせてもらいます。ヒューズ中佐。」
           鬼気迫るホークアイに、ガクガクと頷きながら、ヒューズは
           別室へと連行される。
           部屋には、リックとロイだけが残され、リックは未だショックから
           抜けきれないロイに、向かって冷たい眼を向ける。
           「マスタング大佐、いい機会ですから、少しお話でもしませんか?」
           「断る。ホークアイ中佐、職務に戻りたまえ。」
           吐き捨てるように言うロイに、リックは肩を竦ませると、勝手に
           ソファーに座る。
           「ホークアイ中佐!上官命令だ。即刻、部屋から出て行け!!」
           怒鳴るロイに、リックはニヤリと笑う。
           「上官ではありませんよ。マスタング大佐。」
           「何だと?」
           訝しげなロイに、リックはポケットから辞令を取り出すと、ロイに
           見せる。
           「本日付けで、大佐に昇進しました。」
           「何だと!!」
           驚くロイに、リックはにっこりと微笑む。
           「これで、あなたとは対等ですよ。マスタング大佐。」
           「・・・・・・今、私は忙しい。帰ってくれ。」
           疲れたように言うと、ロイは机に座って黙々と書類を処理していく。
           「・・・・・エドワードは、俺が頂きますよ。」
           ピクリとロイは顔を上げる。今にもリックを射殺さんばかりのロイの
           視線を、リックは平然と受け止める。
           「彼女には手を出すな。」
           低い声で一言告げるロイに、リックは首を横に振る。
           「一目惚れなんですよ。」
           ロイは溜息をつくと、椅子から立ち上がり、後ろの窓から外を眺める。
           「・・・・彼女には目的がある。」
           ロイの言葉に、リックは顔を上げる。
           「目的?」
           「ああ・・・・。私は彼女にこれ以上、枷をつけて欲しくないんだ・・・。」
           その言葉に、リックはフッと笑う。
           「愛される事が、彼女にはマイナスになると?」
           「・・・・・・・・・・・・・・。」
           無言のロイに、リックは肩を竦ませる。
           「彼女には、何か大切な目的があることは、うすうす俺だって、
           気づいてますよ。だからこそ、俺は彼女の支えになりたい。
           ただそれだけです。」
           「・・・・・・忠告はしたぞ。」
           ロイの言葉に、リックは溜息をつく。
           「・・・・・・マスタング大佐は、彼女の事をどう思っているんですか?」
           「・・・・・私はただの後見人だ。それ以上でも、それ以下でもない。」
           頑ななまでのロイの態度に、リックはクスリと笑う。
           「素直じゃないなぁ。」
           「何だと?」
           振り返るロイに、リックは冷たい目を向ける。
           「それとも、自分が傷つくのが怖いのですか?」
           息を呑むロイを暫く凝視していたが、やがて
           リックは立ち上がると、ゆっくり扉に向かって歩く。
           「俺は諦めませんから。」
           リックはドアノブを回すと、扉を開く。
           「何もしないでいられるほど、彼女の存在は小さくない。」
           リックはゆっくりとロイに向き直ると、敬礼をする。
           「例え、彼女が誰を見ていても・・・・・・。」
           負けませんよ・・・・・。
           不敵な笑みを浮かべて、リックは扉を閉める。
           「くそっ!!」
           腹立ち紛れに、ロイは机の上にある書類を手でなぎ払う。
           「私だって、彼女を愛しているんだ・・・・・!!」
           ダンと机を叩くと、ロイは椅子に乱暴に腰掛け、深い溜息をつく。
           「エディ・・・・・・・。」
           深く椅子に掛け直すと、ロイは深い溜息と共に、目を閉じた。











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短編と言った割りに、既に長編の予感が・・・・・。
またしても、オリキャラ登場。
リザさんのお兄様です。ちなみに、ロイの1歳年下という設定です。