「エド!!」
リックは幸せそうな顔で、エドを抱きしめようと。
両手を伸ばすが、続くエドの言葉に、その手の行き先を失う。
「で?どこへ付き合えばいいんだ?」
あまりにもお約束な展開に、リックは一瞬固まるが、だが直ぐに
気持ちを切り替えると、にっこりと微笑んだ。
「そうだね・・・・。とりあえず、一緒に夕飯はどうだい?」
「・・・・・・・ああ。」
エドは、ボンヤリとした眼で、リックを見つめると、コクリと頷いた。
「では、行こうか。エド。」
リックは、エドの腕を取ると、上機嫌で歩き出した。
「そう言えば、リックって、軍人だったんだ・・・・・。」
予約を入れていた店は、テーブルごとワンボックスに壁で
区切られており、ちょっとした個室気分が味わえる店だった。
リックのお勧めの店とあって、落ち着いた趣のある店の
雰囲気に、エドは上機嫌で前菜を食べながら、リックに話しかける。
「あぁ・・・。言っていなかったっけ?」
にこやかに笑うリックに、エドは首を竦ませた。
「い〜や。聞いてねぇ。ずっと司書の人だと思っていた
よ。なぁ、何で毎回毎回図書館にいるんだ?」
首を傾げるエドに、リックはグラスをゆっくりと回しながら、
一口飲むと、エドに微笑みかける。
「だって・・・・。図書館にいれば、君に逢える。」
「へっ?」
思っても見なかったリックの言葉に、エドは驚きのあまり眼が
大きくなる。
「はぁ?どう言う事?」
まるでわかっていないエドに、リックは苦笑する。
「君と初めて会った時は、俺は休暇中でさ。友人の司書が
その日、たまたま用事があって仕事が出来ないというから、
人手不足というのもあって、駆り出されたんだよ。」
「人手不足って・・・・・。軍人を・・・・・・。」
絶句するエドに、リックはウィンクする。
「あぁ、職業柄、図書館司書の資格は取ってあるから、全くの
ズブの素人じゃないから、安心してね。」
「そりゃあ、お世話になっているから知って・・・・じゃない、
職業柄って・・・・・。」
リックは、グラスをテーブルに置くと、両手を組み、じっと
エドを見つめる。
「特殊工作部隊所属・・・・・って言えば、わかるかい?」
「・・・・・スパイか。」
スッと眼を細めるエドに、リックはニコニコと微笑む。
「そう。その土地に溶け込む為に、あらゆる職業に
精通していなければならない。まっ、そのお陰で、
エドと知り合えたから、俺としては、ラッキーだったね。」
「で?何で図書館に入り浸っていたんだ?」
あの図書館に何か問題でもあるのだろうかと、エドは
探るような眼を向けるが、リックはクスクス笑い出す。
「言っただろう?あそこに行けば、君に出会える。」
「・・・・・俺達を監視しているって事か。」
途端、エドの眼が冷たくなる。
「違うよ。」
穏やかな瞳のリックに、エドは怒りに満ちた目を向けると
立ち上がる。
「エド!!」
「・・・・・ごめん。俺、帰る。」
スタスタと歩き出すエドの腕を掴むと、リックは強引に
引き寄せる。
「うわぁああ。」
自分の腕の中にいる少女に、リックは喜びを隠し切れない。
きつく腕の中へと抱き締めると、耳元で囁く。
「初めて会った時から、君が好きなんだ・・・・・。」
「えっ!!」
驚いて固まるエドに、リックはさらに言葉を繋げる。
「君に逢いたくて・・・・逢いたくて・・・・友人に無理を言って、
君が中央にいる間、司書の仕事をさせて貰っていたんだ。」
リックは、混乱しているエドの顎を捉えると、そっと唇を寄せる。
「愛している。エドワード・・・・・。」
「い・・・嫌!!離して!!嫌だってば!!」
エドは慌ててリックから顔を背けると、あらん限りの力で
抵抗する。
「助けて!大佐!!大佐〜!!」
泣きながらロイに助けを求めるエドに、リックの心の中に、
嫉妬が込み上げてくる。
「エド、俺のモノに・・・・・。」
「そこまでです。兄さん。」
さらにエドの身体を抱き寄せようとした時、後頭部に冷たい感触が
当たり、一瞬腕の力を抜いたのを見計らったようなタイミングで、
腕の中の愛しい存在は、いつの間に現われたのか、金髪の
咥えタバコをトレードマークにしている男に、奪われていた。
「リザ!!」
本気の怒りを隠そうともしない妹に、リックは心外だと言わんばかりに
舌打ちする。
「何を怒っているんだ。君も俺に協力するって言っただろ?」
「・・・確かに、応援はするとは言いました。しかし、兄さん。」
ホークアイは、眼をスッと眼を細めると、銃を兄に向けたまま、
安全装置を外す。
「エドワードちゃんを泣かせるのは、絶対に許さないと
言ったはずです!!」
次の瞬間、リックの真横を、一発の銃弾が掠め飛ぶ。
「大丈夫か。エド・・・・。」
ハボックの言葉に、リックがノロノロと視線を向けると、
激しく泣きじゃくるエドの姿を見て、急激に頭が醒めるのを
感じた。
「すまない・・・・。エド・・・・・。」
がっくりと項垂れるリックに、エドは一瞬ビクリと身を竦ませるが、
やがてノロノロと顔を上げると、泣き腫らした眼をリックに向ける。
「ごめんなさいね。エドワードちゃん。」
痛ましいエドの様子に、ホークアイが肩に手を置こうとして、
次の瞬間、エドに払い落とされる。
「エド・・・ワー・・・・ド・・・・ちゃ・・・ん・・・・・?」
信じられないという眼で、ホークアイは悲しそうな眼を向けると、
振り払った本人も無意識の行動だったのだろう。すぐに、
我に返ると、ポロポロと涙を流しながら、ハボックの腕の中から
抜け出し、店を飛び出していく。
「おい!エド!!」
慌ててエドを追いかけようとするハボックだったが、
ショックのあまり茫然としているホークアイに気づき、一瞬、
躊躇するが、次の瞬間、きつい表情でパンと軽くホークアイの
頬を叩く。
「ハ・・・ボック・・・少尉・・・・?」
「お叱りは後で受けます。今、あなたがやらなければならない事は、
何ですか?惚けている事か?それとも、エドを追いかける事か?」
真剣な表情のハボックに、ホークアイはだんだんと眼が正気に戻ると、
エドの後を追うべく、店を飛び出す。
「待て!俺も行く!!」
ホークアイの後を追いかけようとするハボックに、ショックから立ち直った
リックが声をかける。
「・・・・・・どうぞ。ご自由に。」
チラリと肩越しにリックを見やったハボックは、そう呟くと、ホークアイの後を
追うべく走り出した。
「大佐、姉さんのことを、どう思っているんですか?」
ヒューズ邸の居間に、アルフォンスとロイは、テーブルを
挟んで座り、険悪な雰囲気の元、両者は睨みあっていた。
この家の主人であるヒューズは、そんな二人の間に
入れず、見守るように、壁に寄りかかっていた。
「私は、鋼のを・・・・・・。」
「あなた!!」
ロイの言葉を遮るように、普段の様子からは思いつかないように、
ヒューズの妻である、グレイシアが、荒々しく部屋の中に入って
きた。
「大変よ!!今、司令部から電話があって、テロ組織が駅に
立て篭もっていると!!」
「何だと!!ヒューズ、司令部に戻るぞ!!」
グレイシアの言葉に、ロイは慌てて立ち上がると、司令部に戻るべく、
部屋を出て行く。
「おい!ロイ!!」
「ボクも、行きます!!」
慌ててヒューズとアルフォンスも後に続くが、その前に、ロイが
歩みを止めて、振り返る。
「アルフォンス君は、ここに残りたまえ。」
「いいえ!ボクも何かお手伝いを!!」
その言葉に、ロイはふと表情を和らげる。
「君は・・・・私の愛するエドワードの最愛の弟だ。」
ロイの言葉に、アルフォンスは息を呑む。
「だから、ここにいて欲しい。」
ロイはいうべき事を言うと、再び玄関へと向かう。
「アル。ロイの本気を、わかってやってくれ。」
アルの背中をコツンと叩くと、ヒューズはロイの後を追いかけた。
「・・・・・・信じていいんですね。大佐・・・・。」
二人の後姿を見送りながら、アルはポツリと呟いた。