「何だと!!鋼のが!!」
司令部に戻ったロイが最初に聞いた一報は、
駅に、エドがいるらしいという、知らせだった。
「申し訳ありません。私の落ち度です。」
現場近くに設置した、特設司令本部から、ホークアイは
ロイに電話をしていた。
「状況を詳しく説明してくれ。」
ロイはギリッと奥歯を噛み締めながら、冷静に判断しようと、
ホークアイに状況を説明させる。
「はい。私達がエドワードちゃんを追って、駅に駆けつけた時には、
テロリストとエドワードちゃんが交戦している状態でした。」
ホークアイの言葉に、ロイの眉が潜められる。
「私達?一体そこには、誰がいるのだね?そして、何故鋼のが
駅へ・・・・。」
一瞬、ホークアイは躊躇ったが、今は感情に流されている場合では
ないと己を叱咤すると、淡々と状況だけを説明する。
「今、現在ここにいるのは、憲兵の他には、私とハボック少尉と、
・・・・・・フレデリック・ホークアイ大佐です。」
「フレデリック!!」
ギリっと、ロイは奥歯を噛み締める。
「はい。あるトラブルが原因で、エドワードちゃんが逃げ出したので、
私とハボック少尉とフレデリック大佐の三人で、探していました。
目撃情報により、駅へ向かいましたが、その直後に練成反応が
起こり、テロリストとエドワードちゃんの戦闘が確認されました。
なお、一般人の避難は先程終わり・・・・駅には・・・・・。」
「どうした!兵士の配置は!!」
ロイの叱責に、ホークアイはギリッと唇を噛み締める。
「駅には、テロリストとエドワードちゃんが取り残されております。
応戦したくとも、エドワードちゃんが壁を練成し、我々は一歩も
中へ入れない状況です。」
「なんだと!!わかった。私が直ぐに行く。病院を直ぐに手配しろ!」
ロイは苛立ったように電話を切ると、ブレタに外に車を回すように
指示を与え、足音も荒く部屋を飛び出す。
「おい!エドは!!ロイ!!」
後ろを歩くヒューズに、ロイは青ざめた表情で、一言呟く。
「・・・・・最悪の事態だ。」
ロイは表で待機している車に乗り込むと、ヒューズもその後に
続く。
「駅に急げ!!」
運転手に短く命令を出すと、ロイはフーッと凭れかかる様に、
背凭れに背中を預ける。
「・・・・・ヒューズ。私は、人を愛してはいけないのかもな・・・・・。」
「ロイ?」
驚くヒューズに、ロイは自嘲した笑みを浮かべる。
「そもそもの原因は、全て私にある。私が彼女を追い詰めなければ、
今頃は弟と旅を続けていて、こんな事件に巻き込まれなかった
はずだ・・・・・・。」
「・・・・ロイ。それ、本気で言っているのか?」
ギロリと睨むヒューズに、ロイは自嘲的に微笑む。
「ああ。本気だ。」
ヒューズは、ガシガシと頭を掻くと、ロイの頭を殴る。
「ヒューズ!!」
「目ェ、醒めたか?」
ヒューズは溜息をつくと、真剣な目をロイに向ける。
「お前、エドの気持ちを考えたのか?」
「鋼のの、気持ち・・・・?」
視線を反らすロイに、ヒューズは苦笑する。
「どうやら、エドはお前の事が好きらしい。」
その言葉に、ハッとするロイに、ヒューズは言葉を繋げる。
「俺も、ついさっき知った。エドはお前の事を愛している。
国家錬金術師になったのだって、アルの事もそうだが、
もう一度、お前に会いたかったからだそうだ。」
「私に・・・・・?」
信じられないとばかりに茫然となるロイに、ヒューズは、
ニヤリと笑う。
「後は、直接本人に聞け。ほら、もう着いたぞ。」
駅の入り口という入り口が、全て壁によって塞がれ、
兵士達がその周りを取り囲んでいる状態に、ロイは
舌打ちすると、車を出て特設司令本部へと向かう。
「大佐!」
ロイとヒューズが本部に姿を現すと、中にいたホークアイが
敬礼して出迎える。
「ハボックとフレデリック大佐は?」
チラリと見回して、その姿がない事を確認すると、ホークアイに
尋ねる。
「いつでも突入できるようにと、周辺に待機しています。」
「そうか。中の状況で何かわかったことは?」
その言葉に、ホークアイは首を横に振る。
「始めのうちは、銃声が響いていたのですが、つい数分前
には、物音一つ起こりません。」
ロイはその報告を聞きながら、素早く駅構内の見取り図を
真剣な表情で見ると、クルリと背を向けて現場へと
歩き出す。
「大佐!」
「おい!ロイ!!」
ロイは駅の正面改札前に立つと、追いかけてきた二人に、
振り返らずに指示を出す。
「私が中に入る。他の者達は、ここに待機。」
「危険です!!大佐!」
青くなるホークアイに、ロイは冷たい一瞥を与える。
「命令だ。」
「俺も行くぞ。マスタング。」
その言葉に、ロイはそちらに目を向けると、真剣な表情の
リックが立ってた。その横には、ハボックの姿もある。
「・・・・足手まといだ。」
ロイの痛烈な一言に、リックはキッとロイを睨む。
「俺は彼女を救いたいんだ。」
「・・・・救う・・・?」
リックの言葉に、ロイはクククと笑う。
「お前は、何か勘違いしていないか?」
「なんだと?」
訝しげな顔のリックに、ロイは真剣な表情でリックを見据える。
「エドワード・エルリックは【鋼の錬金術師】だ。」
「だから、何だと?人間兵器だから、助ける必要はないとでも?」
いきり立つリックに、ロイは冷ややかな目を向ける。
「私は【鋼の】を救いにいくのではない。」
ロイはリックに背を向けると、発火布の手袋がはめられた右手を、
改札口に翳す。
「私は、彼女の手伝いに行くだけだ。」
パチ
ロイが指を鳴らしたと同時に、火花が走り、改札口前の壁を
破壊する。濛々と立ち込める煙の中を、ロイは迷いのない
足取りで中へと入っていく。
「待て!!」
慌てて追いかけようとするリックを、ヒューズが止める。
「エドが駅を封鎖したのは、何か作戦があるからだ。
大勢で行けば、エドが立てた作戦をぶち壊し、あまつさえ、
エドの命が危険に晒されるからな。だから、ロイは1人で行った。」
その言葉に、リックは食って掛かる。
「マスタングには、その作戦が分かるとでも?そんなのありえない!
奴は、今来たばかりじゃないかっ!!」
「それがな。分かるんだよ。あの二人は、愛だとかなんだとか言う前に、
信頼という絆で結ばれている。無意識のうちに、お互いにとって、
どう行動すれば良いか、分かっている。・・・・お前の負けだよ。
フレデリック。」
ヒューズはリックの肩を軽く叩く。
「あと数分もすれば、決着がつく。我々はただ見守っていよう。」
ヒューズは、祈るような気持ちで、駅を見上げた。