「何か悩み事でもあるのか?何で俺に相談しないんだ!」
厳しい顔のヒューズを、ロイはただ無表情に見つめている。
「おい?ロイ?」
流石のヒューズもロイの様子がおかしい事に気づき、訝しげな
顔をする。
「・・・・・・ヒューズ。余計なお世話だ。」
ロイは低く呟くと、そのままヒューズの脇を通り過ぎる。
「おい!待てよ!!ロイ!!」
後ろで騒ぐヒューズの声を聞きたくなくて、ロイは逃げるように
走り出す。
「どうしたって言うんだよ。ロイ・・・・・。」
完全に自分を拒絶するロイを、ヒューズは茫然と見送った。
「分かっているさ!これが異常だというくらいは!!」
闇雲に走り続けて、ロイが辿りついた場所は、中央公園だった。
ロイは疲れきった顔でベンチに腰を降ろすと、背凭れに背を
預けて顔を空に向ける。既に暗くなっている空には、嫌味な位
綺麗な星空が広がっていた。都会にしては珍しい光景だが、
今のロイには、それに感動するどころか、忌々しくもあった。
「・・・・・ずっと雨なら良かったのに・・・・・。」
「そんな事になったら、洪水とか被害が出て大変じゃん。」
ポツリと呟かれるロイの言葉に、呆れたような声が返ってくる。
その声に、ロイは驚いて顔を正面に戻す。
「よお!先生。」
ニコニコと目の前に立っているのは、ロイが求めて止まない
エドだった。
「エディ・・・・。どうして・・・・。」
雨の日の音楽堂でしか逢えないとばかり思い込んでいた為、
目の前のエドの姿に、ロイは驚きを隠せない。そんなロイに、
エドは苦笑すると、ゆっくりとロイに近づき、隣に腰を降ろす。
「うわ〜。こんな綺麗な夜空、ここじゃ珍しいな〜。」
先程のロイと同じように、エドは夜空を見上げると、歓声を上げる。
そんなエドを茫然と凝視してるロイに、エドはニヤリと笑う。
「先生、これ忘れていっただろ!おっちょこちょいだなぁ。」
エドはロイに向き直ると、小さな小箱をロイに差し出す。
「これをわざわざ?」
エドから小箱を受け取ったロイは、エドに探るような目で
尋ねる。
「おう!もう夜だし、少しくらいなら大丈夫だから。」
だから追ってきたというエドに、ロイは引っ掛かりを感じる。
「夜だから?」
「あっ!いや、別に何でもない!!」
普通、夜だから出歩かないのでは?と首を傾げるロイに、
エドは慌てて話を逸らす。どうやら深く追求してほしくない
エドの様子に、ロイはそれ以上何も言えずに、黙り込む。
暫く気まずい雰囲気が続いたが、意外にもエドの方から
声をかけてきた。
「なぁ、先生って、星座に詳しい?」
ロイに向かってニッコリと微笑むエドに、ロイは済まなそうな顔で
首を横に降る。
「すまないね。星座はあまり良く知らないんだよ。」
だが、エドは別に残念がるわけでもなく、そっかと呟いた。
「俺の母さんの田舎って、リゼンブールなんだけど、そこは
夜になると、まるで星が落っこちてきそうなくらい、たくさんの星が
見れるんだ。昔、アルとウィンリィの三人で、流れ星を朝まで
待っていて、母さん達に怒られたな・・・・・。」
当時を思い出して、クスリと笑うエドに、ロイは不機嫌そうな顔で
尋ねる。
「アル・・・というのは?」
名前から男だと直感したロイは、内心面白くない。まさかと
思うが、恋人なのだろうか・・・と、どんどん思考がマイナスへと
陥っていく。だが、そんなロイの心情を知らずに、エドはただ
ニコニコと無邪気に答える。
「アル?アルフォンスって言うんだ!俺の一つ下の弟!!」
「弟・・・?」
途端、機嫌が上昇する単純男は、ニコニコとさり気なくエドの
右手に自分の左手を絡めると、夜空を見上げる。先程まで
忌々しく映っていた星空が、エドが隣にいるというだけで、
素晴らしいものに変化するから不思議だ。
「いつか、君の故郷へ行って、星空を見てみたい。」
ポツリと呟くロイの言葉に、エドは驚いてロイの横顔を見つめる。
「・・・・駄目だろうか?」
懇願するようにエドを見つめるロイに、エドは一瞬泣きそうな顔に
なるが、直ぐに明るく笑う。
「何にもないところだけどな!でも、空気は綺麗だし、星空は
綺麗だし、のんびりするには丁度いいぞ!今度・・・・恋人と
一緒に行って来いよ!!・・・・・・イテッ!!」
急に握られている手を、強く掴まれてエドは抗議の声を上げるが、
ロイの鋭い眼光に、エドは怯えたようにロイから距離を取ろうと、
立ち上がりかける。しかし、ロイに手を取られて再びベンチへと逆戻り
する。
「離せよ!!」
何時もと違うロイの様子に、パニックになったエドは、半分涙目に
なりながら、必死に暴れるが、大人の男の力に叶うはずもなく、
気がつくと、ロイの腕の中に納まっていた。
「エディ・・・・・。私は君を愛しているのだよ。」
耳朶を打つロイの真摯な言葉に、エドは思わず抵抗を止め、
茫然とロイの顔を見つめる。
「愛している。エディ・・・・・。」
ロイはエドの顎を捉えると、荒々しく唇を塞いだ。