どっちの夫婦ショー

 番外編  第1回 反省会 〜土方と千鶴の場合〜

  「・・・・・・なんなんだよ。あいつら・・・・・。」
  漸くアメストリス御一行様より解放された土方と千鶴は、ぐったりした顔で、ここ新選組は土方の部屋で、
  一息ついていた。
  「異国の方って、その・・・・思った以上に気さくな方達ばかりで・・・すごく驚きました。」
  引き攣った顔で微笑む千鶴に、土方は千鶴の煎れてくれたお茶を飲みながら、げんなりした声を出す。
  「ありゃ、気さくって言わねぇよ。変わり者の集団だぜ。・・・・・ったく!特に、あの、マスタングとか言う奴、
  ぜってーおかしい。一瞬、風間の親戚かと思っちまったぜ。」
  ホークアイ辺りが聞いていれば、あんな(大総統とロイ)のと自分達を一緒にするな!と躊躇なく銃をぶっ放されるだろうが、
  幸いな事に、ここに彼女はいない。いないのだが、別な人間はいた。その人物は、ニコニコと満面な笑みを浮かべて、
  パンと勢いよく障子を開けると、笑みを浮かべたまま、眼だけは冷たく土方を見下ろしていた。
  「失礼しますよ。土方君。」
  やってきた山南は、部屋の主の返事も聞かず、そのままスタスタと部屋の中に入ると、土方の前に
  腰を下ろす。
  「あ・・・・ただ今、直ぐにお茶を・・・・・。」
  慌てて立ち上がろうとした千鶴を、山南はニッコリと微笑んで制する。
  「いえ。お構いなく。土方君へちょっと文句を言ったら、
  直ぐにお暇しますから。」
  「・・・・・なんだよ。文句って。」
  山南の言葉に、土方の眉がピクリと跳ね上がる。長時間、散々ロイの惚気を聞かされ続け、いい加減
  土方の我慢も限界に近い。
  折角千鶴のお茶で少し上昇してきた機嫌が、山南の登場で、徐々に下降していくのを敏感に察した
  千鶴は、慌てて山南に話しかける。
  「あ・・・あの!山南さん。今日はお疲れ様でした。それにしても、異人さんって、日本語が堪能なんですね〜。
  すごく驚きました。」
  「ええ。私も驚きました。今、アメストリス国では、日本人気が絶大で、日本料理は勿論、日本語を学ぶ人達が
  増えてきているとは聞いていましたが、あそこまでとは・・・・・・。私達もうかうかしてられませんね。」
  ニッコリと微笑む山南に、千鶴は更に言葉を繋げる。
  「それで、あの!山南さん、今日はお疲れのようですので、お話はまたこの次という訳には・・・・・・。」
  これ以上土方さんの機嫌を損ねないで下さい〜と、泣きそうな顔で訴える千鶴に、山南はわざとらしく
  ため息をついた。
  「・・・・・本当に、雪村、じゃなかった、土方君の奥方は、健気な方ですよね・・・・。」
  【奥方】という言葉に、土方のこめかみがピクピク動く。
  その様子に更に慌てた千鶴は、真っ赤な顔で叫ぶ。
  「な・・・何をおっしゃっているんですか!!あれはお芝居で・・・・。」
  嫌ですねぇ、山南さん。と引き攣った笑みを浮かべる千鶴を、山南は憐れむような瞳で見つめた。
  「君は良い子ですね・・・・。それに引き替え土方君は・・・・・。」
  ふうと大きなため息をつく山南を、土方は睨みつける。
  「・・・・・俺が何だって?」
  「先ほどの勝負についてですよ。何ですか、あの発言は!まるで千鶴君が、お茶を煎れるしか
  能がないとでも言ってるようなものじゃないですか!!あれでは、千鶴君が可哀想すぎます!」
  憤慨する山南に、流石に先ほどの自分の言葉は、あまりにも千鶴に対して失礼過ぎたかと、多少自覚が
  あった土方は、ばつが悪そうに視線を逸らせた。
  「私だけではありませんよ。近藤さんや源さんも、大層ご立腹です。特に源さんは、千鶴君を実の娘
  以上に可愛がっていますからねぇ・・・・・。後で土方君に説教をと息巻いてましたよ。」
  「げ・・・源さんまでもか!?」
  普段温厚な井上を怒らせたら、鬼と呼ばれる土方以上に怖いと噂されるほど、彼のお説教は
  恐ろしい。その事を思い出してか、土方の顔から血の気が引く。恐怖に固まる土方だったが、
  意外な所から助け舟が出た。
  「ですが、山南さん。私は、普段何のお役に立てていません。」
  凛とした表情で、キッパリと言い切る千鶴に、山南と土方は思わず目を見張る。
  「ですから、今日はすごく嬉しかったです。私の煎れたお茶を美味しいと・・・・皆さんの
  前で認めて頂いた事が。ありがとうございます。土方さん!」
  凛とした表情から一変、フワッとまるで花が咲いたような可憐な笑みに、土方の頬が紅く染まる。
  「あ・・・その・・・なんだ。千鶴は、お茶だけではなく、メシも旨い。この間、
  原田が褒めてたぞ。食材の目利きがいいとな。それに、掃除の手際がいいし、縫い物も上手だ。
  汚れ物も、お前が洗ってくれると、新品のように綺麗になって助かっている。あれを着ると、
  自分の心までも綺麗になったようで、頑張ろうと思えるから不思議だ。
  む・・・勿論、俺だけじゃねぇぞ!他の奴等もそうだと言っている。
  それから、先日の怪我をした平隊士達の手当ても見事だった。千鶴の的確な
  手当てがなけりゃあ、今頃死んでる奴等もいただろう。総司の所に遊びに来ている
  ガキの面倒までも良く見てくれている。他にも、数え上げたらきりがねぇくらいだ。
  俺は・・・・俺達はいつだって千鶴に感謝している。だから・・・その・・・なんだ。
  役に立たないとか言うな。ちゃんと役に立っているんだからよ。
  ・・・・・・自信を持て。」
  最初はポカンと土方の言葉を聞いていた千鶴だったが、だんだんと顔を輝かせた。
  「そう言って下さるだけで、私はすごく嬉しいです!今日の夕餉は私の当番
  なんです!皆さんの為に、頑張って、美味しいものを作りますね!!」
  「当番は千鶴か!そりゃあ、旨いメシが食えるな。」
  嬉しそうな土方に、千鶴はニッコリと微笑んだ。
  「今日は、炊き合わせなんです。土方さん、お好きでしたよね?」
  「ああ。大好物だ。期待してるぞ。」
  更に笑顔になる土方に、千鶴は任せて下さいと大きく頷いた。
  「それでは、夕餉の支度がありますので、これで失礼します。」
  千鶴は、そう言うと、一礼して部屋を出て行った。
  パタパタと小さな足音がだんだん聞こえなくなると、山南は深いため息をついた。
  「全く・・・・・・。どうして今になってそんなに饒舌になるんですか。肝心な時に役に
  立たない人ですねぇ・・・・。次こそは、ちゃんとして下さいね。」
  呆れたように言うと、そのまま山南は部屋を出ていく。
  「・・・・・・あんな訳のわからねぇ連中に、千鶴の事をベラベラ言えるかってんだよ。
  千鶴の良さは、俺だけが知ってればいいんだからな・・・・・・。」
  一人になった土方は、吐き捨てる様に呟いたが、次の瞬間、ある事に気づき、慌てて立ち上がった。
  「次こそはって・・・・・・・次もあるっていうことか!?おい!ちょっと待てよ!!山南さん!!」
  慌ただしく部屋を出ていく土方を、縁側で微睡んでいた、猫トシと猫ちづが不思議そうに
  眺めていた。



                                                 FIN




**************************

全然、反省会になっていない・・・・・。【汗】