どっちの夫婦ショー  番外編
  第3回 反省会〜ロイとホークアイの場合〜



「准将、ここ(反省室)に呼び出された理由は分かっていますね?」
ハリセンを正座しているロイに突き付けながら、ホークアイは絶対零度の笑みを浮かべた。
本来ならば銃を突きつけたいところだが、昨日の発砲で、宿泊先から苦情が出てしまったので、
このような形になってしまったのだ。銃に比べて締まりが悪いが、この際、贅沢も言っていられない。
内心、何で旅行に来てまで准将の御守りをしなければならないのよと、憤りを感じながら
何とか平静にロイを見据える。
「もちろんだとも!この私が何も分からないほどのボンクラだと思うのかね?」
対するロイは、ホークアイの本気の怒りが分かっているのだろう。神妙な顔で頷く。
「第三回目の投票に敗れたのは、ひとえに、私とエディがイチャイチャ出来なかったからだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
腕を組んで踏ん反り返っているロイに、ホークアイは、こめかみを引き攣らせながら、目を細める。
「よってだ!今後の投票に勝ち続ける為には、もっと私とエディがイチャイチャする必要があるのだよ!!
読者のお嬢さん達も、それを願っているはずだ!!」
「投票!?何を訳の分からない事を仰っているんですか!!私が言いたいのは、ベラベラと恥ずかしい
言葉を垂れ流して、エドワードちゃんに恥をかかせるなって事です!!」
ペシッと持っていたハリセンをロイの頭に下ろす。
「痛いではないか!!」
半分涙目のロイに、ホークアイは呆れたように腕を組んで見下ろす。
「エドワードちゃんは、もっともっと居たたまれない想いをしたんです!もう少し、エドワードちゃんを
労わってあげてください。」
「そう!それだ!!」
ビシッとホークアイに指を突きつけるロイに、ホークアイの形の良い眉が顰められる。
「何がそれなんですか?」
訝しげなホークアイに、ロイは得意満面の笑みを浮かべる。
「いいかね。最近、仕事が忙しくて、エディと十分なコミュニケーションが取れていないと思うのだ。
これでは、エディを癒したくても、癒せないではないか!」
「・・・・・それは、准将が、仕事をサボって、エドワードちゃんと一緒に居たがるから、
仕事がドンドン溜まってしまうんです。ちゃんと時間内に仕事を終わらせれば良いだけの話でしょう?」
何を馬鹿な事を言っているんですかという、ホークアイのツッコミに、ロイはブンブンと首を横に振る。
「いいや!真面目に仕事をしても、絶対に一日では終わらない量が毎日どこからともなく涌いてくる!!」
「気のせいです。」
文句を言うロイを、一言で切って捨てる。取りつく暇もないホークアイの様子に、ロイはコホンと
咳払いをすると、ここからが本題だと神妙な顔で口を開いた。
「エディを癒す妙案を、私は今日、土方殿から聞いてきたのだ!」
「・・・・・・・・・嫌な予感がしますが、一応、お聞きします。何を聞いてきたんですか?」
どうせ、自分の都合の良い様に勝手に解釈しただけだろうと思いつつも、ホークアイは
呆れた顔で続きを促す。
「毎日、エディとフェリシアと共に出勤する!」
「不可能です。」
素晴らしい案だろうと胸を張るロイに、ホークアイはキッパリと却下する。
「何故だ!!現に土方殿は、24時間、常に妻を傍においているのだぞ!!あいつに出来て、
私に出来ないのは、おかしいではないか!!」
「余所は余所。うちはうちです。第一、エドワードちゃんが、傍にいると、絶対に仕事をしないということは、
既に立証済みです。絶対に駄目です!!」
そこで、溜息をつくと、ホークアイは呆れた顔でロイを見る。
「それに、フェリシアちゃんのような小さなお子様が、軍部など雑菌の宝庫に毎日来てごらんなさい。
病気になってしまいますよ?」
「!!フェ・・・フェリシアが!!」
何てことだと、顔を青くさせるロイに、ホークアイは、本当にこの人は国家錬金術師なんだろうかと、
疑問を含んだ冷ややかな目を向ける。
「で・・・では!うちに仕事を届けて・・・・・。」
だが、妻子と24時間一緒にいるという甘い日常を捨てきれないロイは、未練たらしく食い下がる。
「・・・・・・機密文書を司令部の外に出せますか。ここで当分、頭を冷やしてください。分かりましたね?」
おまけとばかりに、ペシッと軽くハリセンでロイの頭を叩くと、深いため息をついて、ホークアイは
そのまま部屋を出て行った。
「くっそう!!私が大総統になったら、絶対に妻と共に出勤できるように、いや、仕事を家に
持ち込めるようにして、24時間、絶対にエディと一緒にいて見せる!!」
ロイはそう呟くと、胸のポケットから、『大総統になったら絶対に行う事』を書く手帳を取り出すと、
徐に項目を追加し始めた。
「・・・・・それにしても、今頃土方殿は、奥方とイチャイチャしているのか思うと・・・・。羨ましすぎるぞ!!」
クーッとロイは怒りのまま、手帳を握り絞めるのだった。





「クシュン!!」
「!!土方さん!?大丈夫ですか!?」
丁度飲み終わった湯飲みを下げようと、土方の部屋に来た千鶴は、盛大なクシャミをする土方に、
慌てて傍に寄る。
「熱はないようですが・・・・・・。」
そっと掌で土方の額と自分の額の熱を比べながら、千鶴は気遣わしげに土方を見つめる。
「風邪じゃねぇよ。心配すんな。」
心配そうな顔で自分を見つめる千鶴に、自分の額に当てた千鶴の手をそっと握りながら外させると、
土方は安心させるように優しく微笑む。
「ふ〜ん?ご馳走様でした。」
「「!!」」
からかいを含んだ声に、土方と千鶴は一斉に声の方向を見ると、隊服を纏った総司が、
ニヤニヤ笑いながら、廊下に立っていた。
「そ・・・総司!!か・・・勘違いすんなよ!!」
慌てて土方は千鶴の手を放すが、沖田は更に凶悪な笑みを浮かべると、
叫びながらドタドタと廊下を駆け出していく。
「近藤さ〜ん!土方さんが、小姓に手を出そうとしてますよ〜!!」
「総司!!待て!!」
叫んでいる内容に、ギョッとした土方は、慌てて総司を追いかける。暫く二人の追いかけっこを、
キョトンと見ていた千鶴は、やがてポツリと呟いた。
「・・・・・ご馳走様って、沖田さん、何か召し上がったのかな?」
お夜食用意したのだけど、いらなかったみたい・・・・・。
天然ボケな発言をする千鶴を、猫トシが呆れたように見つめていた。




                                          FIN



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