どっちの夫婦ショー



              閑話休題    愛する妻にありがとうを 前編




      「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
      「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
      珍しく、まだ日の高いうちに、久々の外での仕事を終え、上機嫌で京の町を
      歩いていた土方は、向こうからやってきた、今一番会いたくない人物の姿を
      見つけ、思わず半目になって凝視する。
      向こうも同じ気持ちなのか、殺気だった瞳を土方に向けていた。
      「・・・・・・・・・・・・・・供もいないとは、不用心だな。」
      向こうの呆れたような声に、言われた土方の眉がピクリと動く。
      「それは、こっちの台詞だ。マスタングさんよぉ。いくら何でも、
      供の一人も付けずに異国を歩くのは、軽率すぎるんじゃねぇか?
      ・・・・・・・・・それとも、迷子か?」
      土方の言葉に、ロイは引き攣った笑みを浮かべる。
      「ハハハハ・・・・・。迷子な訳あるまい。これでも軍人なのでね。自分の身くらい、
      自分で守れるさ。今日は大事な贈り物を探しに来ただけだ。」
      「そーかよ。とりあえず、アンタは一応、国賓なんだ。何かあったら面倒だ。
      仕方ないから、俺がこのままアンタの護衛についてやるから、さっさと買い物をすませろ。」
      腕を組んで溜息をつく土方に、ロイは嫌そうな顔をする。
      「だから、自分の身は自分で守れると言っているだろう。第一、お前と一緒にいたら、
      目立って仕方がないじゃないか。エディにバレたら、折角の趣向が台無しだ。」
      ブツブツ文句を言うロイに、土方は眉を顰める。
      「何だ?その趣向ってえのは。」
      「・・・・・・・・・・・明日は【妻の日】だろう?エディに何かを贈り物をして、驚かせようと思っていたのだよ。」
      ふうと溜息をつくロイに、土方はキョトンとなる。
      「・・・・・・・・・・妻の日?なんだそれ。」
      「!!妻の日を知らないだと!?」
      大げさなほど驚くロイに、土方の米神がピクリと動く。
      「生憎、この国には、そんな習慣はないんでな。」
      「だったら、この私が教えてやろう。いいか。明日、12月3日は妻の日と言ってだな、【年の最後の月である12月に、
      1年間の労をねぎらい妻にサンクス・・・・・感謝する日】だ。略して【愛(1)するつ(2)まにサン(3)クス】だな。」
      踏ん反り返りロイに、土方は馬鹿にしたように笑う。
      「感謝だと?わざわざそんな日を作っているのか。異国の風習は良く分からん。」
      「ふむ・・・・・・・。」
      土方のその様子に、ロイは何かを考え込むように顎に手を当てる。
      「・・・・・なんだよ。」
      そして、そのまま無言でジッと見られ、土方は居心地の悪さを感じ、ぶっきらぼうに訊ねた。
      「いや。この間から思っていたんだが・・・・・・。貴様、というより、この国の人間は、妻は勿論、
      女性に対して、聊か冷たいのではないか?」
      「・・・・・・・・・・・・・・あんたに比べれば、誰でも冷たく感じるんじゃねえか?」
      「茶化すな。最初は、ただの照れ隠しかとも思ったんだが・・・・どうもそうじゃないらしいな。」
      ギロリとロイに睨まれ、土方は思わず言葉に詰まる。
      「国の風習と言われればそれまでだが・・・・男とか女とか関係なく、人として感謝すべき時は素直に
      感謝をするべきだと私は考えている。だから、私は常に妻に対して誠実であろうとするし、大切にしている。
      で?お前はどうなんだ?千鶴殿を大切にしていると胸を張って言えるか?」
      「・・・・・・・・・俺は・・・・。」
      ギュッと唇を噛みしめる土方に、ロイは探るように目を細める。
      「即答出来ぬとは、自覚はあるわけだな。」
      「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
      言い返すことも出来ない己が不満なのか、土方は無言で顔を背ける。そんな土方に、
      ロイは深いため息をつくと肩を竦ませる。
      「・・・・・・贈り物云々はともかく、折角の【妻の日】だ。千鶴殿の事を考える良い機会だと私は思う。
      そろそろ素直にならないと、いつか貴様、千鶴殿に捨てられるぞ?そうなってからでは遅いんだからな。」
      その言葉に、土方は吐き捨てるように言った。
      「ハッ!俺が千鶴に捨てられる?捨てるのなら、俺の方からに決まってんだろ?」
      「・・・・・・・そうか?私はお前が千鶴殿に、【逃げようとしたって逃がさない。傍にいてくれ。】と縋るような
      気がするがな。まぁ、そうならないように、一応祈っててやろう。では、私はこれで。」
      そう言うと、その場に土方を置き去りにして、ロイはさっさと歩き始める。
      「ちょっと待てって!」
      慌てて引き留めようとする土方に、ロイは片目を瞑ってニヤリと笑う。
      「愛する妻への贈り物を決めるのに、他人の手など借りん。ではな。」
      手をヒラヒラさせながら人混みに紛れ込んでいくロイの背を見つめながら、土方は不機嫌そうに
      呟いた。
      「・・・・・・・・・・・・生憎だったな。俺と千鶴は本当の【夫婦】じゃねえんだよ。」
      言葉とは裏腹に、土方の瞳には、ありありと羨望の眼差しが浮かんでいた。










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・・・・・・・・・・土方さん、【妻の日】は、異国の風習ではなく、未来の日本の記念日です。【笑】