どっちの夫婦ショー



                             第4話    
                     



         「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは何だ?」
         眉間に皺を寄せながら、朝餉を終えて部屋に戻った土方は、
         次々と部屋に運び入れられる書類の数といつもと違った部屋の様子に、
         土方の文机の横で、チンマリと座っている千鶴を睨んだ。
         「それが・・・・その・・・・・・。」
         半分涙目になりながら、千鶴は何と答えていいか分からず、思わず
         俯いてしまった。
         「千鶴、【これ】は、何だと俺は聞いているんだがな?」
         土方は、大量の書類の山とは別の方向を指さすと、再び千鶴を睨みつける。
         「・・・・・・・・・・・その・・・・・お客様です。」
         ますます縮こまる千鶴に、土方は千鶴では埒が明かないと悟ったのか、
         ギロリと部屋の中央で鎮座する人物に、視線を移した。
         「・・・・・・・・・・・・・・で?何でお前達がここにいるんだ?風間。それに、天霧と不知火も。」
         「ふん。俺も来たくて来たわけではない。我が妻の顔を見に寄った。」
         肩を竦める風間に、土方の視線が鋭くなる。
         「てめぇ・・・・・まだそんな妄想を言っているのか。千鶴はてめえの嫁じゃ
         ねえだろうが!!」
         「貴様の嫁でもないであろう?」
         クスリと笑う風間に、土方は激昂しかけたが、ハッと我に返ると、ニヤリと
         意地の悪い笑みを浮かべる。
         「・・・・・・・・・・・俺の嫁だと言ったら?」
         だが、そんな土方の言葉にも、何故か風間は鼻で笑う。
         「ハッ。そんな戯言を、俺が真に受けるとでも思ったのか?」
         「・・・・・・・・・・・・・・・真に受けて、泣き叫んでいたのは、どこの誰だ?」
         動じない風間を嘲笑うかのように、風間の背後に座っていた不知火が、真実を暴露する。
         「・・・・・・・黙れ。不知火。と・・とにかく!貴様の嫁と いうのは、ただの設定だということは、
         分かっているのだ!」
         動揺しながら、ビシッと土方に指を突きつける風間に、天霧がこのままでは話が進まないと
         思ったのか、ずずっと膝を進めて土方を見据える。
         「我々は、幕府の命によって、やってきました。」
         「幕府の命・・・・だと?」
         訝しげな土方に、不知火が、肩を竦ませながら面倒臭そうに、言葉を繋げる。
         「あんた、アメストリスの准将に喧嘩売ってんだって?何でも、どちらが夫婦として優れているか
         対決しているとかなんとか・・・・・・・・・・。」
         不知火の言葉に、土方と千鶴はギョッとなる。
         「ななななななな・・・・・なんでそんなことに!違います!誤解です!!」
         真っ赤な顔でブンブン首を横に振る千鶴に、我が意を得たりと風間は満足そうに頷いた。
         「うむ。心配せずとも、そんな事は真っ赤な嘘だと、俺は分かっているから、お前は
         安心するがよい。第一、お前の夫は俺なのだから、そんな話自体あってはならぬ事なのだ。」
         「だから!千鶴はお前の嫁じゃねえって言ってんだろうが!!」
         ニコニコと上機嫌で千鶴の手を取る風間の頭を、力一杯拳で殴って気絶させると、
         土方は不貞腐れたように、不知火と天霧に顔を向ける。
         「・・・・・・・・・・・・・・・何で、そんな話になっているのか知んねえけどなぁ・・・・。喧嘩を一方的に
         吹っかけているのは、向こうの方だ。俺達はただ巻き込まれているだけだぜ。」
         土方の言葉に、天霧と不知火は思わず顔を見合す。
         「あ〜その〜、ご愁傷様?」
         ガシガシと頭を掻く不知火の横で、しかしと天霧が言い辛そうに眉を顰める。
         「既にあなた方の対決は、幕府の知る所となっているようです。何でも、どっちらが勝つか
         賭けの対象になっているとか・・・・・。」
         「・・・・・・・・・何だと?」
         ギロリと半目になる土方を煽る様に、不知火はニヤニヤと笑う。
         「賭けの胴元は、新選組って噂だぜ?現に俺も、原田から一口乗らねえかと誘いを受けたし?」
         「・・・・・・・・・・・・・私は、千姫様から・・・・・・。実は私も十口ほどあなた方に賭けておりまして・・・。」
         済まなそうに頭を下げつつも、絶対に勝ってくださいねと涙目になる天霧に、土方は
         クラリと眩暈を覚え、その場に蹲った。
         「大丈夫ですか!?土方さん!!」
         慌てて駆け寄る千鶴に、土方は弱弱しく微笑むと、キッと天霧達を睨みつけた。
         「とにかく!それは誤解だから、とっとと帰ってくれ。こっちは仕事があるんだからよ。」
         「そう!それなんだよ。俺達の用事も。」
         ポンと手を打つ不知火に、土方は怪訝そうな顔を向ける。
         「はぁ?何だって?」
         訳が分からないという土方に、天霧は恐縮しながら、説明を始める。
         「土方殿と千鶴殿には、この書類の山を片付けてもらいます。」
         「えっ!?わ・・・私もですか!?」
         驚く千鶴を庇うように、土方は天霧の前に膝を進めると、鋭い視線を向ける。
         「何で千鶴もなんだよ。こいつに新選組の仕事をさせる訳には、いかねえだろうが!」
         怒鳴る土方に、不知火が違う違うと手を横に振る。
         「あ〜、そうじゃなくってだな。あんたが書類を捌く補助として、彼女を入れろと、そういうこった。」
         「・・・・・・・・・・・それなら、いつもやっている事ですが・・・・。あなた方は、わざわざそれを
         おっしゃりに、ここに来られたのですか?」
         困惑する千鶴に、天霧が正確には違いますと答えた。
         「正確には・・・・って事は、他に何かあるのか?それに、この量は、どっから来たんだ?
         いつもの3倍はあるぞ?」
         げんなりした土方に、天霧は居住まいを正すと、懐から一通の書状を取り出した。
         「今回の対決は、お二人で協力して、どれだけ早く書類を捌けるかというものだそうです。
         我々は、その見届け役です。アメストリス国の方の見届け役は、千姫様達がされるとの
         事です。」
         「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだって?」
         思ってもみなかった事に、土方は天霧から書状を引っ手繰る様にして読み進めると、書いてある
         内容に、驚きのあまりポカンと口を開ける。






         対決その4  【夫婦で協力して仕事をしましょう♪】
     (制限時間 一日)







         「大総統夫人の提案だそうだ。夫婦たるもの、お互い助け合わなければと言う事らしい。
         良くわかんねえがな。」
         異人の考えなんて分かんねえと、肩を竦ませる不知火に、土方は何かを言いかけようとするが、
         それよりも先に、千鶴が意を決した様に、天霧と不知火を見据えた。
         「先ほど、チラリと拝見した限り、この部屋にある書類は、数日分だと思うのですが、それを
         一日でですか?」
         「一日で全部って事じゃねえんじゃないか?ただ、今日一日で、どれだけ出来るかって事らしいけどな。」
         不知火の言葉に、書類を見据えながら暫く考え込んでいた千鶴だったが、やがて土方に向き直ると、
         キッと意志の強い瞳を向けた。
         「土方さん!頑張って、この書類を一日で片付けましょう!!」
         その言葉に、土方はギョッとなる。
         「ちょっと待て!千鶴!!お前、この書類は数日分だと言ったばかりじゃねえか!何で今日一日で
         片付けなきゃなんねえんだ!」
         「ですが土方さん!この書類が終われば、数日休めるんですよ!ここ最近、全くお休みを取って
         下さらないじゃないですか!いい機会です!頑張って休みをもぎ取りましょう!!」
         俄然やる気の千鶴に、土方の顔が引きつる。
         「休みをもぎ取るって・・・・・限度ってものを考えろ!」
         「いいえ!土方さんなら出来ます!!」
         怒鳴る土方に、普段なら萎縮する千鶴であるが、目の前の書類さえ終われば、数日の休みが取れると
         いう甘い誘惑に、目が眩む。千鶴はキラキラと瞳を輝かせながら、期待を込めて土方を見つめる。
         「・・・・・・・・・・・・・・・・しかし。」
         土方に不可能はないと思っているのか、千鶴の期待の眼差しに、土方は狼狽えたように、視線を逸らす。
         「私も全力でお手伝いします!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄目ですか?」
         期待を込めた瞳から一変、まるで捨てられた子犬のように、ウルウルと瞳を潤ませる千鶴に、土方は折れた。
         「・・・・・・・・・・・・・・・・・今日一日、忙しいぞ。それでもいいのか?」
         「はい!!」
         満面の笑みを浮かべて頷く千鶴に、土方は苦笑すると、不敵な笑みを浮かべて不知火達を見る。
         「要はこの書類を片付ければいいんだな?・・・・・・・・・・・・・・・やるぞ!千鶴!!」
         「はい!!土方さん!!」
         二人はニッコリと微笑み合うと、手慣れた様子で、書類の山を攻略していく。
         見る見るうちに山が少なくなっていく様子に、天霧と不知火は唖然と呟いた。
         「・・・・・・・・・・・・・・・こりゃ、本当に今日中に終わるかも?」
         「・・・・・・・・・・・・・・すごいですねぇ・・・・。」








        その頃、ロイとエドの見届け役をしている千姫は、傍らの君菊に、ややうんざりした様に話しかける。
        「ねえ、あの二人、仕事をやる気あるの?」
        「エドワード様はともかく・・・・・・マスタング様は、全くないでしょうねぇ・・・・・。」
        二人は顔を見合わせると、深い溜息をついた。
        「ロイ・・・・・。真面目にやれと、さっきから何度言えば分かるんだ?」
        「ん?おかしなことを言うねぇ。エディ。ちゃんとやっているだろ?」
        ピクピクこめかみを引き攣らせるエドワードを、自分の膝の上に載せてご満悦なロイは、
        チュッと軽くエドの頬に口付ける。
        「ふざけんな!!」
        「可愛いなぁ〜。エディは。」
        デロデロに鼻の下を伸ばすロイに、エドの我慢が限界になったようで、キッと目を据わらせると、
        ロイの顎目がけて、アッパーカットが見事に炸裂した。






        それから、数時間後、土方達が数日分の書類を全て終わらせたという知らせを受けるまで、
        仕事そっちのけの、エドとロイの攻防戦は、延々と続いていくのであった。







         今回の勝負、土方夫妻の圧勝。











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   副長と小姓の仕事っぷりは、【遊戯録】ミニゲーム土方の激務をご参考にして下さい。