どっちの夫婦ショー   番外編
    第4回 反省会  〜ロイとホークアイの場合リターンズ〜







「准将、またここ(反省室)に呼び出された理由は分かっていますね?」
前回同様、ハリセンを正座しているロイに突き付けながら、ホークアイは絶対零度の
笑みを浮かべた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」
前回以上に恐ろしいホークアイの気迫に、ロイは項垂れるしかない。
”早く終わらないと、エディとのイチャつく時間が減っていくのに・・・・。
今日はやけに長いな・・・・・・。”
だが、内心はこんなもので、全く反省の色の欠片もないロイだった。
しかし、今までの経験上、ホークアイに逆らわずに、殊勝な態度を見せれば、
お説教から解放される時間が短くなると学習をしているせいか、先程からロイは
ただ小さくなって嵐が過ぎるのを耐えていた。そんなことをホークアイに知られれば、
そんな事を学ぶ以前に、生活態度を改めるという知恵をつけろ!!と、今度こそ躊躇うことなく
銃を発砲するだろう。
「前回の反省会で、准将は一体何をおっしゃったのか、まさか、忘れてはいませんよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」
ホークアイの言葉に、ロイは大人しく頷く。
「一日中、エドワードちゃんと一緒にいれば、仕事が捗ると、そう言いましたね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」
実際は、エドと仕事中でも構わず常に一緒にいたいと駄々を捏ねただけで、
一言も【仕事が捗る】とは言ってはいない。しかし、ここで逆らおうものならば、
更にお説教タイムが追加される為、ロイは神妙な顔で頷く。
「准将がそこまで言うのであればと、大総統夫人と結託、もとい、相談して、試させて頂きました。
果たして、准将がエドワードちゃんと一緒にいて、本当に仕事をしてくれるのかどうか。
ちなみに、比較対象として、土方夫妻に協力をお願いしました。勿論、事実を伏せて。
で?結果はどうなりました?」
「うっ・・・・・・。」
ホークアイの絶対零度の微笑みに、ロイの言葉は詰まる。そんなロイに、ホークアイは
冷ややかな目を向けつつ、昨日の勝負の結果を淡々と述べる。
「結果は、土方夫妻の圧勝でした。ここ数日分の仕事を一日で終わらせたようですよ?
何でも、見届け役が言うには、夫婦息の合った仕事振りだったとか。
で?准将の場合はどうでしょうか?イチャついてばかりで、一日で数日分の仕事を終わらせるどころか、
一日分の仕事すら終わっていないと、そう私は記憶しているのですが、
どこか間違っていますか?
ジャキーンといつの間にか、ハリセンから銃に持ち替えているホークアイに気づき、
ロイは慌てて弁解を試みる。
「待て!話せば分かる!」
「話し合いの余地などありませんね。既に結果は出ました。結果こそが全てであり、
事実です。・・・・・・・・・・御覚悟を。」
ゆっくりとロイの額に銃を突きつけるホークアイに、ロイは半ばヤケクソ気味に叫ぶ。
「だ・・・第一、比較対象を土方殿にする方がおかしい!愛しい妻が傍にいるのに、
妻を愛でるどころか、仕事をするなんて、絶対にあの男の方がおかしいに決まっている!!」
何故、比較対象を大総統にしてくれなかったんだ〜と泣き叫ぶロイに、
ホークアイは呆れたように溜息をつく。
「全く・・・・ご自分の所業を反省するどころか、他人のせいにするなんて・・・・・・
情けなさすぎます。そんなんだから、健気なエドワードちゃんが・・・・・・・・・・。」
「!!エディ!?エディがどうかしたのか!!」
エドワードの名前に、ピクリとロイが反応する。
「勝負に負けたのは、自分がうまくサポート出来なかったからだと、
大層自分を責めていて、可哀想で見ていられません。」
「何だと!!エディが!!」
業とらしく泣き真似をするホークアイの様子に、ロイは慌てて立ち上がろうとするが、
その前に、ホークアイは銃をロイの額に押し付け、その動きを止める。
「どちらへ?まだ話は終わっていませんよ?」
「大尉!!お願いだエディの所に行かせてくれ!!」
懇願するロイに、ホークアイは冷たい表情で見下ろすだけだった。
「エドワードちゃんなら、新選組の所です。」
「何だと?あんな男所帯のむさ苦しい場所に、何故私のエディが行かねばならんのだ!!」
何かあったらどうするんだ!と怒るロイにホークアイは溜息をつく。
「全ては准将のせいです。」
「私の?まさか!勝負に勝ったからと、土方が無理難題を吹っかけたんだな!
ま・・・まさか、私のエディを差し出せと!?」
青くなるロイの頭を、ホークアイは銃で叩く。
「そんな訳あるわけないでしょう!!エドワードちゃんは、新選組にいる
千鶴さんの所へ弟子入りに行ったんです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
呆けるロイに、ホークアイは溜息を吐きつつ、事の顛末を説明した。
「【どうやったら、夫を馬車馬のごとく働かせる事が出来るのか、千鶴に教えてもらってくる!】
・・・・・・だそうです。」
「なんてことを!エディ!」
今度こそロイは立ち上がると、脇目も振らずに部屋を飛び出そうとするが、
二発の銃声に、動きを止める。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大尉。」
ギギギギギ・・・・・と恐る恐る後ろを振り返ると、そこには、硝煙が立ち上っている銃を、
両手に持ったホークアイが満面の笑みを浮かべて立っていた。
「どちらへ?」
「・・・・・・・・・・・・・エ・・・エディの危機だ。見逃してほしい。」
冷や汗を流しつつ、ロイはホークアイに引き攣った笑みを向ける。
「仕事を大量に残してですか?」
ニヤリ。
更に凶悪な笑みを浮かべるホークアイに、ロイは思わず叫ぶ。
「ま・・・待て!!大量にって、大部分は大総統の仕事だろう!!」
「残念ですが、大総統命令です。この仕事を全て准将が行うようにと。
上官命令は絶対ですよ。准将。」
ロイの脳裏に、高笑いする大総統と大総統夫人の姿が浮かぶ上がる。
大方、ロイに仕事を押し付けて、自分達は異国を満喫しようという魂胆に違いない。
「しかし!!」
何とか仕事から逃れようとするロイだったが、続くホークアイの言葉に、ガラリと表情を変える。
「・・・・・・・・・それに、これだけの仕事を、自分に逢いたいがために、
短期間で終わらせたと知ったら、さぞエドワードちゃんは感動するでしょうねぇ・・・。」
「エ・・・エディが?」
ロイの問いかけに、ホークアイは満面の笑みを浮かべながら、大きく頷いた。
「もしかして、【大好き〜】と抱きついてくれるかもしれません。
まぁ、全ての仕事を終わらせればの話ですが。」
「何をグズグズしているのだね?私のエディが待っているのだ!
さっさと仕事を終わらせて迎えに行くぞ!!」
先程とは人が変わったように、キビキビと動き出すロイに、ホークアイは内心ニヤリと笑う。
「妻が傍にいれば力を発揮する土方殿もいれば、妻会いたさに力を発揮する准将もいるという事よね・・・・・。」
ホークアイの呟きは、幸か不幸かロイの耳には届かなかった。






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