どっちの夫婦ショー   番外編 

  第5回反省会 〜ロイとハボックの場合〜







「さて。覚悟はいいな?ハボック・・・・・。」
フフフフと不気味な笑みを浮かべているのはロイ・マスタング。発火布の手袋を
ハボックの目の前に翳しなら、ゆっくりと指を擦り合わせようとする。
「待って!待ってください!!誤解!誤解なんですから!!」
涙目で必死に懇願するハボックに、ロイは大きく頷く。
「そう、ごかい・・・・・もう、反省会も五回目を迎える。そのうち、今回で我々の反省会は
何回目か知っているかね?」
「・・・・・・・・いや、ごかいって、数の五回の方じゃなくて・・・・・・・・・・・・。」
何回目か、知っているかね!?

目を据わらせるロイに、ハボックの背筋が伸びる。
「はい!三回目だと!!」
「・・・・・・・・・・・・・そう。三回目なのだ。」
ハボックの答えに、ロイはふうううううと深いため息をすると、遠い目で天井を見上げる。
「五回の対決で、既に反省会が三回・・・・・。これが何を意味するのか、わかっているのだろうな?」
「つまり、准将達が負けてるってことですね!!」
「誰のせいだ!誰の!!」
あっけらかんと能天気に答えるハボックの胸倉を、ロイは掴むと激しく揺さぶる。
「ギブ!ギブ!准将〜!!ギブアップです!!」
息も絶え絶えのハボックを、ロイが唐突に手を離すと、そのままハボックは床に倒れる。
「・・・・・・・・・・・・・・俺のせいじゃないでしょうがああああああ。」
エグエグと泣き出すハボックを、ロイは冷たい目で見下ろす。
「今回は、貴様のせいであろうが!何故土方殿との対決だと言わなかった!
それを知っていれば・・・・。」
「知ってても、あの場合、姫さんを止められますか?また【キラ〜イ!!】って
言われるのがオチですよ!」
ブーブー文句を言うハボックに、ロイはウッと言葉を一瞬詰まらせるが、だが、慌てて反論する。
「だから、事前に知っていれば、町に出なかったと言っているのだ。そうすれば、
エディが不逞浪士達に襲われる事もなかったのだぞ!?」
「町に出る様に言ったのは、ホークアイ大尉ですよ?あの時、大尉に逆らえましたか?
それに、姫さんも大層乗り気だったじゃないですか。」
「・・・・・・・そう。ホークアイ大尉もグルだったから、今回騙されたのだ。珍しく、
夫婦で京を散策してみてはと、優しい言葉を掛けてくるからおかしいとは思っていたのだが・・・・・・・・・・・・。」
顔を顰めるロイに、ハボックは呆れた声を出す。
「そこまで警戒していて、どーして引っかかったんですか?」
「・・・・・・・・・・・・あのエディの愛くるしい期待を込めた顔を前にして、却下出来るか!?
一日中部屋に籠って、二人だけでイチャイチャしたいと言えるか!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・言ったら最後、瞬殺、その後、ホークアイ大尉と一緒に買い物に行く!!
でしょうねえ。勿論、准将一人お留守番は決定ですが。」
ハボックの言葉に、そうだろうと大きくロイは頷く。
「そうだろう!つまり、私は悪くない。よって、悪いのは貴様だから、冒頭に戻る訳だ。
さて、これだけ猶予を与えてやったのだ。もう覚悟はついたな?」
フフフと先ほどの2割増しな不気味な笑みに、ハボックは青くなる。
「だ〜か〜ら〜!悪いのは、俺じゃないッスよ!!悪いのは、計画したホークアイ大尉でしょうが!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・ハボック、世の中にはなぁ、絶対に敵に回してはいけない人間というものが
存在するのだよ。」
フッと憂いを帯びた表情で溜息をつくロイに、ハボックはヒデェ〜と文句を言う。
「第一、姫さんのピンチに、准将が助けなかったのが、そもそもの原因じゃないですか!」
「だから、貴様も先ほど言ったではないか。下手に手を出すと、エディから【キラ〜イ】発言だぞ!
あれはすごく堪えるんだからな!!」
言われたことを想像したのか、瞳をウルウルさせるロイに、ハボックはゲンナリと顔を顰める。
「だから、さり気なくサポートするなり、手はあったじゃないですか。
一応、課題は【妻を助ける】っていうのですから、二人で協力して倒しましたとか何とか、
アンタなら上手く丸め込めたじゃないですか。」
「そんな事言っても、この国の建物は木造建築なんだぞ!!出掛けに、放火魔になるおつもりですかと
大尉に発火布を取り上げられていたんだ!そんな私にどうしろと!?」
「あ〜。そ〜言えば、そうでしたね〜。って!准将、仮にも軍人でしょう!体術とかあるじゃないですか!」
ハボックの最もな指摘に、ロイは思わず目を逸らす。
「・・・・・・・・・・・・・・・・体術はエディの方が上だ。」
「銃は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・大尉の銃裁きを毎日間近で見続けてみろ。自分で撃とうという気が失せてくる。」
ヤレヤレ困ったねと肩を竦ませるロイに、ハボックは何も言う気力もなくガックリと肩を落とす。
「・・・・・・そんな理由で・・・。」
「まぁ、責任問題はあとでじっくりと軍法会議所へ回すとして・・・・。」
ロイの言葉に、ハボックはギョッとなる。
「ちょっと待ってくださいよ!軍法会議所って・・・・・・・・・・・まさか、俺ですか?」
「お前の他に誰がいる?まぁ、非公式扱いになると思うが、そうだな・・・・貴様の罰は、
向こう三年の間、私の代わりにヒューズの家族自慢を聞き続けるというのは、どうだ?」
「横暴です!嫌ですよ!!つうか、向こう三年って何ですか!?俺、死んじゃいますよ!!」
蒼褪めるハボックに、ロイは悪魔の笑みを浮かべる。
「勘弁してほしいか?」
「そりゃあ!!」
パッと顔を輝かせるハボックに、ロイはニヤリと笑う。
「ならば、大尉から、次回の対戦内容を探り出してこい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それって、ズルですか?」
情けないと顔にデカデカと書いたハボックに、ロイは不敵な笑みを浮かべる。
「はっ!要は勝てば良いのだ。その為には、手段は選ばん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・手段は選んでください。准将。」
「「!!」」
背後から聞こえる聞き覚えのある声に、ロイとハボックは顔を見合わせると、
恐る恐る声のする方向へと顔を向ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大尉。」
そこには、銃を手にしたホークアイが無表情で立っていた。
「情けないですね。ズルして勝とうなんて・・・・。そうしなければ勝てないなんて、
准将のエドワードちゃんへの愛情を疑ってしまいます。」
ふうと大きなため息をつくホークアイに、ロイは負けじと反論する。
「そうは言っても、私の不利になるような課題ばかりじゃないか。」
「准将の普段のサボリ癖が裏目に出ただけです。これを機会に、心を入れ替えては如何です?」
ホークイアイの最もな言い分に、ロイはウッと言葉を詰まらせると、床にしゃがんで、のの字を書き出す。
「大尉〜。准将、拗ねちゃったじゃないですか。ああなると、ウザイもとい、大変ですよ〜。」
ハボックの非難に、ホークアイは、溜息をつく。
「・・・・・・・・・・・・・そんなに、次の対戦内容が知りたいですか?」
ピク!
ロイは嬉々として顔を上げる。そんなロイに、ホークアイはニッコリと微笑みかける。
「私の分を教えてもいいですよ?ですが、それが次回の対戦内容になるかは不明です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・どういう意味ッスか?大尉の分って?」
首を捻るハボックに、ホークアイはニヤリと笑う。
「私がエドワードちゃん達の不利になるような課題を出すわけないでしょう?
出発前、大総統夫人に、エドワードちゃんと准将が勝てる様な課題をいくつか提出してあります。」
「・・・・・・・・・・・・てことは、向こうも?」
恐る恐る訊ねるハボックに、ホークアイは頷く。
「勿論、向こうも土方夫妻が有利になるような課題をいくつか大総統夫人に提出済みです。
毎回の対決課題は、箱に詰めた課題を書いた紙を大総統夫人が一枚抜き取る事で、決定します。」
「ってことは?」
「行き当たりばったり。誰にも予測不可能です。しかし・・・・・・・・・・。」
そこで言葉を切ると、ホークアイは冷ややかな目でロイを見下ろす。
「どの課題も、決して准将達が勝てないというものではありませんでした。つまり、全ての敗因は、
准将のサボリ癖という事になります。何か言いたいことはありますか?」
ニッコリと絶対零度の笑みを浮かべるホークアイに、ロイは青い顔で慄く。
「ないようですね。では、遠慮なく。」
ホークアイは、ゆっくりと銃を構えると、遠慮なくロイに向かって撃ち放った。



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