どっちの夫婦ショー






                        第7話


      「・・・・・・・・・・・・・・やっぱり!この浮気者〜!!うわあああああああああん。」
      「エディ!!待ってくれ!誤解だ!!」
      泣きながら走り去るエドをロイは慌てて追いかけた。






      「で?」
      先を促す大総統の言葉に、ハボックがげんなりとした顔で報告する。
      「それからが、大変でしたよ。まさに修羅場でした。ホークアイ大尉がいなければ、今頃
      死人が出たっておかしくなかったッス。今は何とか落ち着いてますが、もうエドが可哀想で
      見てられないですよ。今まで散々准将の女癖の悪さを見てきましたからね。ショックがかなり大きいようで、
      今は准将にピタリくっついて、離れません。」
      「まぁ・・・・・。エドちゃんには、可哀想な事をしてしまったわね。」
      シュンとなる大総統夫人に、ハボックは今回ばかりはもう少し別の方法がなかったのかと、少し責める様な
      目を向ける。
      「いくらなんでも、今回は、やり過ぎですよ。どこの世界に旦那と他の女が町中堂々と抱き合っている姿を見て、
      平静でいられる妻がいるんですか。普通に考えても、修羅場ですよ。」
      「それがいたのよ。」
      ハボックの言葉に、夫人は目をキラキラさせる。
      「・・・・・・・・・・・・・・・てことは?まさか・・・・・・・・・・。」
      驚きに目を見張るハボックに、夫人がニッコリと微笑んだ。
      「勿論、千鶴さんよ。」








      「で?何で土方さんがあんなに暗いんですか?今回も対決に勝ったんですよねぇ?」
      広間の隅で、どんよりと膝を抱えているという、普段では決して見ることは出来ない珍しい土方を
      一瞥しながら、総司は他の面々に訊ねる。
      「あ〜確かに勝った。勝ったんだがなぁ・・・・・・。」
      気の毒そうな顔で原田は土方を見る。
      「どういうこと?」
      煮え切らない言葉の原田に業を煮やしたのか、原田の隣で酒を飲んでいた不知火に、訊ねる。
      「千鶴に土方に女が抱きついている所をワザと目撃させたんだよ。本当なら、ただ抱きつくだけで
      終わらせるはずだったんだが・・・・・・その時の女が、どうやら土方に一目惚れしたらしくてなぁ。」
      不知火は遠い目をしながら、事の顛末を語って聞かせた。








      「私のお腹には、土方様のやや子がいるんです!だから、あなた、さっさと別れて頂戴!!」
      人選を誤ったのか、土方に抱きついた女の暴走に、慌てて見届け役の不知火と原田が物陰から
      出ようとするが、その前に千鶴が動いた。
      「・・・・・・・・・・・土方さん。」
      スッと感情の見えない瞳を向けられ、土方は、慌てて弁明を図る。
      「千鶴!勘違いすんな!俺はこんな女は知らん!何かの間違いだ!!」
      よっぽど焦ったのか、浮気がばれた夫が必死に誤魔化そうとするかのような、土方の態度に、
      原田は頭を抱える。
      「土方さん。それって、見苦しい浮気男の言い訳にしか聞こえねぇぜ・・・・。」
      「だが、おもしろいからこのまま見てようぜ。」
      ニヤニヤと笑う不知火に、原田はもうどうにでもなれとばかりに視線を、千鶴達に戻す。
      千鶴は、じっと無言で土方を見つめていたが、やがて視線を女に移すと、ベリッと二人を引き離し、
      土方を背に女と対峙する。
      「・・・・・・・あなたの目的は何ですか?」
      「も・・・・目的?」
      激昂するわけでもなく、ただ静かに訊ねる千鶴に、女は毒気を抜かれたのか、戸惑ったように視線を
      泳がせる。そんな女に、千鶴は畳み掛ける様に質問する。
      「土方さんはあなたを知らないとおっしゃいます。ですから、あなたが何故このような事をしたのか、
      理由をお聞きしているんです。」
      「理由って・・・・だから言っているじゃない!私のお腹にはやや子がいるの!それなのに、土方様は
      ちっとも連絡をくれないから、こうして・・・・・・・・・・・。」
      逆切れした女に、千鶴は目を細める。
      「それは嘘ですね。」
      「う・・・嘘ですって!?あ・・・あなたに何が分かるっているのよ!!」
      「・・・・土方さんは、他人よりも自分に厳しいお方です。そして、同時にとても優しいお方です。もしも、
      本当にあなたと土方さんがお付き合いをなさっているのならば、土方さんは、決して無責任な事を
      致しません。お腹にやや子がいらっしゃるのならば、なおさら、あなたを大事になさるでしょう。」
      凛とした千鶴の言い分に、女はポカンと口を開けて呆けていたが、やがてこのままではいけないと
      思ったのか、キッと千鶴を睨みつけながら挑発的な言葉を投げつける。
      「な・・・なんなの、あなた。私より、自分の方が愛されているとでも、思っているの訳!?随分
      図々しい女なのね!あなたは!!」
      「・・・・・・・・・・なんだと!おい!お前・・・・・もう一度言ってみろ。」
      容赦はしねえと刀に手を掛ける土方に、女はヒッと顔を蒼褪めると、後ずさる。更に詰め寄ろうとした
      が、その前に千鶴が女に一歩近づく。
      「私は・・・・・・・別に土方さんにあ・・愛されてるとか・・・・そんなんじゃないです。」
      シュンと俯く千鶴だったが、やがてキュッと両手に力を込めると、顔をゆっくりと上げる。
      「ですが・・・・私は土方さんを信じています!」
      そう言って、ニッコリと微笑む千鶴は、その場にいた全員が息を?むほど美しかった。
      「・・・・・・・・・・・・・・・もうお話はありませんか?それでは、私達はこれで失礼しますね。」
      深々と一礼すると、千鶴はニッコリと微笑みながら土方に振り返った。
      「行きましょう!土方さん!」
      「・・・・・・・・・・・あ・・・・ああ。」
      呆然としながら頷いた土方は、千鶴に促されるまま、屯所への道を歩き出した。




      対決その7  【妻は夫を信じられるか】

   (制限時間 一日)





      結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・千鶴の勝利。







     「あ・・・その・・・なんだ。」
     暫く歩き続けた土方だったが、気まずい雰囲気に耐え切れなくなったのか、傍らの千鶴に
     声を掛ける。
     「どうかなさったんですか?」
     キョトンと首を傾げる千鶴に、土方は頬を紅く染めて視線を逸らせると、ポツリと呟いた。
     「信じてくれてありがとうな。」
     「そんな事、あたりまえじゃないですか!」
     ニッコリと微笑む千鶴に、土方もホッとした顔で微笑む。
     「千鶴・・・・。」
     「だって、私は土方さんの小姓なんですから!!
     グッと片手を握って力説する千鶴に、土方は固まる。
     「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
     だが、固まる土方に気づかないのか、千鶴は考え込みながらブツブツ呟く。
     「それにしても・・・・・先ほどの方は一体何がしたかったのでしょうか・・・・・・。まさか・・・・・・・・・・
     あの方も小姓希望なんでしょうか!!
     ハッと顔を上げた千鶴は土方ウルウルとした目を向ける。
     「どうしましょう!土方さん。私、そうとは知らず、とても失礼な事を。今から戻って、小姓は募集していないんですと
     教えに行った方がいいでしょうか!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・土方さん?何で落ち込んでいるんですか?
     土方さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
     ガックリと肩を落として無言でトボトボ歩き出す土方に、千鶴は慌てて後を追いかけた。










      「・・・・・・で、ずっとあんな状態だ。」
      不知火は未だ落ち込んでいる土方を指さす。
      「アハハハハハハハハハ・・・・・・
      相変わらず千鶴ちゃんは天然ボケ鈍感娘さんだね。お腹痛くて死にそー!!」
      クククク・・・・とお腹を抱えて笑う総司だったが、、やがてハタッと何かに気づいたように笑いを治めると、
      不知火に尋ねた。
      「こんなんで、対決に勝ったの?どーみても、夫を信じる妻っていう以前に、土方さん、千鶴ちゃんに男として
      意識されてないんじゃないの?」
      「だよな。土方さん、勝負に勝ったが根本的に負けたって言うか・・・・・・・・。」
      総司の最もな言葉に、原田もウンウン頷く。
      「いいんじゃねーの?とりあえず、土方を信じるって事で問題ないとか言ってたぜ。夫人は。」
      要は勝てばいいんじゃね?と不知火は肩を竦ませる。
      「ところで、こんな事、いつまで続くの?僕、そろそろ千鶴ちゃんと遊びたいんだけどな・・・・。」
      溜息をつく総司に、不知火は首を傾げる。
      「遊べばいいんじゃねーのか?」
      「それがよ、人妻が他の男と一緒にいるのはイカーンと近藤さんが、俺達幹部に必要以上千鶴に近づくなと
      接触禁止令が出ちまってんだよ。千鶴にうまい団子とか食わせてやりたいんだがよ。」
      不知火の疑問に、原田が答える。
      「ふーん。でも、それもそろそろ終わりそうだぜ?」
      ニヤリと不知火は笑う。
      「・・・・・・・・・・それじゃあ。」
      目を見張る原田に、不知火は不敵に笑う。
      「次回が最終決戦だぜ。」








      「これも・・・・・・・・土方さんの為だから、仕方ないよ・・・・・・・・・ね。」
      その頃、千鶴は悲壮な瞳で、山南の部屋の前に佇んでいたことを、誰も知らなかった。






*****************************************************

  次回、いよいよ最終決戦です!