「大丈夫?」
夢の中のあの人は、いつも優しい笑みを浮かべている。
それなのに、現実は・・・・・・。
「おっきろ〜!!姉さん!!」
「うわぁああああ!!」
布団を無理矢理引き離されて、エドはゴロゴロと
ベットから転げ落ちる。
「何すんだよ!アル!!」
半分涙を浮かべながら、エドは恨みがましい目で
布団を手に、仁王立ちになっているアルを
睨みつける。そんなエドに、アルはやれやれと
肩を竦ませる。
「もう!姉さんが起こせって言ったんだろ?
ほら!さっさと起きる!!」
パンパンとアルが両手を叩くと、エドは不服そうな
顔でノロノロと起き上がる。そんなエドに、
アルはため息をつきながら、手をひらひらさせて
部屋から出て行こうとする。
「今日、セントラルに異動になって、初めての
出勤日だろ?そろそろマリアさんが迎えに来る
頃だよ。」
去り際のアルの言葉に、完全に目が醒めたエドは、
慌てて時計を見ると、副官であるマリア・ロス中尉が
迎えに来る10分前である。
「アルの馬鹿〜!!3時間前に起こせって言った
じゃんか〜!!」
絶叫するエドに、階段を下りていたアルは、苦笑する。
「だから起こしたでしょ?3時間前に。全く、時計を
3時間早めたことに、全然気づかないんだから。」
外の暗さを見れば一目瞭然なのに、寝起きのエドは
パニック状態で気づかない。
「さってと。朝ごはんの用意でもしようかな。」
全く、いくら自分が今大学が休みでも、人を目覚まし
代わりに使わないで欲しいと、ぼやきながらも、
アルは上機嫌でキッチンへと向かう。
「そう言えば・・・・。何で3時間前なんだろう。」
ふと疑問に思って、アルは姉の部屋の方を見上げる。
「いくら中央司令部勤務になったからって、そんなに
気合を入れる必要がどこにあるんだろう?」
一瞬嫌な予感に囚われるが、直ぐに気のせいとばかりに
アルは歩き出す。騙された事に気づいたエドの機嫌を
少しでも良くする為に、大好物を用意しようと、心に決めながら。
「アルのやつ〜!!」
慌てて着替え始めたエドは、まだ外が暗い事に気づき、
慌てて銀時計で時間を確認すると、自分が起こせと
言った時間である事に呆然となる。寝起きの悪い姉の
為、ベットサイドにある時計を、わざと3時間早めたのだろう。
弟の策略に一瞬殺意を感じたが、それでも約束通りに
起こしてくれたのだから、怒るのは筋違いと、エドは
頭を切り替えた。
「へへっ!」
ルンルンルン。
鼻歌交じりでバスルームへと向かいながら、エドは
緩む頬を押さえる。
あと数時間もすれば、長年思い続けていた人に出会える。
そう思っただけで、エドは機嫌が上昇する。
「まっ、当初の予定とはだいぶ違っちゃったけど、逢えれば
いいんだもんね!」
当初の計画では、自分は彼の部下になっているはずなのだが、
彼に会いたい一心で、突っ走った結果、彼の上官になってしまった。
でも、上官なら上官で、その事が彼の役に立つかもしれないと思い
直す。何事にも前向きなのが、エドワードの最大の美点であり、
魅力でもある。そして、それが軍アイドルの地位を不動のものに
していた。
「よし!首を洗って待っていろよ!ロイ・マスタング!!」
屋敷中に聞こえるくらい大声で、ハハハハ・・・と、高笑いするエドに、
まだ寝ぼけているのかと、フライパン片手にアルが乱入するまで、
あと5分。
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ストーリーの都合により、マリア・ロス少尉は中尉になっています。