純愛ラプソディ

                

                    第9話

                   

 

 

                  「・・・・・・あなた方は一体・・・・。これは、
                  エルリック少将もご存知なの?」
                  ホークアイは、いつでも銃が抜けるように、
                  身構えながら、じっとマリアを見つめる。
                  「・・・・・二度目はありません。即刻、マスタング
                  大佐を連れて、セントラルへ戻って下さい。」
                  マリアは、感情の篭らない眼でホークアイを
                  見つめながら、一歩前に出る。
                  「ちょい待ち。セントラルに戻るのは、マスタング
                  大佐とホークアイ中尉じゃない。おまえとホークアイ
                  中尉だけだ。」
                  一触即発のマリアとホークアイの間を割って入るのは、
                  以外にもフェイスだった。
                  「兄様!?」
                  それに驚いたのはマリアだった。まさかフェイスがマスタング
                  ではなく、自分をセントラルに帰すとは、思っていなかった
                  だけに、ショックは大きい。
                  「・・・・・という訳で、ホークアイ中尉。うちの【妹】と
                  共に、セントラルへ戻ってくれないか?」
                  朗らかな笑みを浮かべながら、振り返るフェイスに、
                  ホークアイは、警戒も露な目で見据える。
                  「・・・・・訳を聞いても?」
                  「エドの為だ。」
                  スッと眼を細めるフェイスに、ホークアイは、ため息を
                  つきながら、銃から手を離す。
                  「行きましょう。ロス中尉。」
                  ホークアイは、視線をフェイスからマリアに移すと、一緒に
                  来るように促す。
                  「嫌です。私はエルリック少将の副官です。副官が離れては
                  いけないことです。」
                  だが、マリアは、ホークアイから視線を逸らすと、クルリと二人に
                  背を向ける。
                  「失礼します。私はエルリック少将の所へ行きます。」
                  そう言って歩き出すマリアに、フェイスの声が止める。
                  「何で、エドが一人で【ここ】に来たと思っているんだ?」
                  決して荒げた訳ではないのだが、フェイスの声は、マリアの
                  歩みを止めるには十分だった。
                  「【スカー】を捕らえる事だけが目的じゃない。【罪】を【再認識】する
                  為に、【ここ】へ来たんだよ。エドは。」
                  「【罪】?」
                  フェイスの言葉に、ホークアイの眉が顰められる。一体二人は
                  何の話をしているのだろうか。困惑するホークアイを余所に、フェイスの
                  話は続く。
                  「エドは・・・・・・今度こそ、【壊れる】。」
                  「兄様!?」
                  フェイスの言葉に、マリアは思わず振り返ると、ギリリと睨みつける。
                  「そんなこと・・・・・絶対にさせない!!」
                  興奮のあまり、肩で息をするマリアに、フェイスはクスリと笑う。
                  「・・・・・・ほう?ではどうするんだ?エドの性格では、このまま
                  大人しくセントラルへは戻らない。それでも、【壊れる】のを
                  阻止すると・・・・・そう言えるのか?」
                  鋭いまでのフェイスの言葉に、マリアは悔しさのあまり、唇を噛み
                  締める。フェイスの言葉は正しい。だが、正しいからと言って、
                  感情が納得すというわけではないのだ。
                  「・・・・・・では、どうしろと?エド姉が【壊れる】のを、黙って
                  見ていろと?」
                  悲痛なまでのマリアの様子に、フェイスはふと表情を和らげる。
                  「お前に出来る事をすればいいんだよ。」
                  「出来る事・・・?」
                  首を傾げるマリアに、フェイスは頷く。
                  「セントラルへ戻り、急ぎエドの除隊を願い出るんだ。」
                  「!!」
                  息を飲むマリアとは逆に、ホークアイは声を荒げる。
                  「何を馬鹿な事を!!一体、あなたに何の権限があって!!」
                  叫ぶホークアイに、フェイスは感情の篭らない眼を向ける。
                  「エドを守る為だ。言っておくが、これは大総統命令でも
                  あるんだ。少しでもエドが【壊れる】要素があるならば、
                  直ぐに報告しなければならない。」
                  「大総統命令・・・?」
                  そんな馬鹿なと首を横に振るホークアイに、フェイスは、ニヤリと
                  笑う。                 
                  「エドが除隊すれば、マスタング大佐が准将へと出世出来るぞ。
                  その方がいいのではないのか?」
                  その言葉に、ホークアイはカチンとくる。
                  「・・・・・マスタング大佐は、タナボタ出世ではなく、ご自分の力で
                  上を目指すわ。」
                  馬鹿にするなと睨みつけるホークアイに、フェイスは真顔で
                  ホークアイをジッと見つめる。
                  「・・・・・・流石、マスタング大佐が選んだ事はあるな・・・。」
                  小さく呟くフェイスの言葉は、幸いにもホークアイの耳には
                  届かなかった。もしも、届いていたならば、即銃の的に
                  なっていることだろう。
                  「・・・・・・兄様、やはりマスタング大佐もセントラルへ
                  帰した方が良いのでは?」
                  まだ納得がいかないマリアは、再度フェイスに問いかけるが、
                  フェイスは首を横に振る。
                  「いや。全ての元凶である奴には、ここで己の犯した罪の
                  重さを知るべきだ。」
                  静かな怒りを醸し出すフェイスの言葉を、ホークアイは
                  聞きとがめると、眉を顰める。
                  「大佐の罪?」
                  「そう。やつがエドと出逢わなければ、こんな事には
                  ならなかった。エドが【罪】を犯すことも、【鋼】の銘を
                  与えられる事もな・・・・・。」
                  ギリリと唇を噛み締めるフェイスと暗い表情で俯くマリアを
                  交互に見つめながら、ホークアイは決心したように
                  二人を見つめる。
                  「どういう事か、分かるように説明して下さい。」
                  「断る。これは、軍の最重要機密だからな。」
                  首を振るフェイスに、ホークアイはゆっくりと銃を手にすると、
                  照準をフェイスに向ける。
                  「兄様!!」
                  慌ててホークアイに銃を向けようとするマリアに、フェイスは
                  黙って手で制する。
                  「中尉。真実が知りたければ、大総統に聞け。」
                  「なんですって?」
                  驚くホークアイに、フェイスはニヤリと笑う。
                  「それに、マリアは物心つく前から、エドと姉妹同然に育て
                  られた。エドの昔話は、マリアから聞けばいい。」
                  「兄様!?」
                  フェイスの言葉に、マリアは信じられず、悲鳴を上げる。
                  「マリア、今回の事件はいいきっかけだ。俺は、エドを
                  過去の呪縛から解き放ってやりたい。その為には、マスタング
                  大佐とホークアイ中尉の力が必要になる。」
                  「何を馬鹿な!!さっき兄様は、マスタング大佐なんかに
                  エド姉は渡さないと、私に言ったではないですか!!」
                  泣きながら縋りつくマリアに、フェイスは苦笑しながら
                  優しくマリアの頭を撫でる。
                  「だからだよ。やっぱり、正々堂々と勝ちたいんだ。俺は。」
                  フェイスの言葉に、マリアは嘘だと心の中で否定した。
                  フェイスはエドの【願い】を叶えるつもりだ。
                  その為に、自分の心を殺して。
                  「マリア。俺は必ずエドを手に入れる。だから、協力して
                  くれ。」
                  マリアは、一瞬躊躇うが、やがてコクリと頷く。こうなれば、
                  兄は絶対に己の意思を曲げない。頷くしかマリアに道は
                  なかった。
                  「・・・・・・行きましょう。」
                  覚悟を決めたホークアイは、マリアを促すように、肩に手を
                  置く。
                  「・・・・・・・兄様もお気をつけて。」
                  小声で呟くと、マリアはホークアイに連れられて、その場を
                  立ち去った。小さくなる後姿を見送りながら、フェイスは
                  グッとサングラスを掛け直すと、空を仰ぎ見る。サングラスを
                  挟んで見る太陽は、グニャリと歪んでいた。







                 セントラルへ向かう列車の中では、深刻な顔でマリアと
                 ホークアイが向かい合わせに座っていた。
                 「兄・・・・先程の人は【E..E.NET】のリーダーで、
                 【フェイス】と言います。」
                 ため息をつきながら語り出すマリアの言葉を、ホークアイは
                 神妙な顔で聞いていた。
                 「昔から、彼の家とエルリック家とは、家族ぐるみの付き合いを
                 していました。だから、私も彼の事を良く知っているのです。」
                 そこでマリアは、顔を上げると、ホークアイを厳しい眼で
                 見据えた。
                 「私は、エルリック少将の為に、出来る事なら、あなたを排除したい。」
                 その言葉に、ホークアイは息を呑む。
                 「ですが・・・・兄がエド姉を守る為に、全てをあなたに話せというのならば、
                 私は、話そうと思います。兄は、イシュヴァール人でも、【最高位】を
                 持つ占い師でもあります。その兄がそれが【正しい事】と判断した
                 のですから・・・・・・。」
                 そう言って、語りだした【真実】に、ホークアイは涙を止める事が
                 出来なかった。